ゲスト 佐藤 伝二 さん、佐藤 万寿雄 さん
01. 「馬のエージェント? 違う、違う。自分は、“馬喰”です!」4代続く“馬喰”の矜持と、その目に映っているものとは?
4代続く、“馬喰ファミリー”、佐藤伝二さん、万寿雄さん親子。
いい馬を選ぶためにはどうしたらいいのか? 一子相伝(?)の秘奥義が、今、解き明かされる? 馬選びで苦労されているオーナーさん、必見です!
えっ!? 夢は、馬喰じゃなく、ジョッキー?
――勉強不足ですみません。佐藤さん親子、伝二さんと万寿雄さんは、ご自身のことを“馬喰(ばくろう)”と言っておられますが、馬のエージェントとは違うんでしょうか。
伝二一緒ですよ。
――それでも、あえて、ご自身のことを“馬喰”と言うのは?
伝二諸説ありますが、北海道や東北では、交換することを“ばくる”と言うそうで。そこから、馬を交換する仕事を、“馬喰”と言うようになったという話を聞いたことがあるんですけど、その“馬喰”という仕事にも、呼び方に、自分なりのこだわりがあるんです。
――胸を張って、“オレは馬喰だぞ!”と。
伝二はい。それが自分の矜持です。自分は、馬のエージェントじゃない。世界中の馬を見て歩き回る、馬喰ですから。
――伝二さんが、その“馬喰”になるきっかけは、何だったんですか?
伝二福島競馬場から車で20分くらいの保原町というところで生まれたんですけど、爺さんがそこで軍馬の馬喰をしていたんですよ。
――えええっ!? 軍馬ですか? なんか、すごい話になって来ました。ということは、お父さんも?
伝二親父は、馬喰の他に、小さな育成牧場もやっていて。当時は、福島競馬場以外にも、郡山の開成山と原ノ町にも競馬場があったので、自分も物心がついた頃から、田圃道を、馬を曳いて競馬場に通っていました。
――3代続く、由緒正しい馬喰? いや、現在は、息子さんの万寿雄さんが後を継いでおられるので、4代にわたってですか。それは、すごい! ということは、当然のように、馬喰になられたわけですね。
伝二そう思いますよね!? でも、そうじゃなくて……体もちっちゃかったので、本当はジョッキーになりたかったんです(笑)。
――ジョッキー? それはまた、思い切り、え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜です(笑)。
好きな女性のタイプは、人それぞれ
――ジョッキーから、“馬喰”に路線を変えたのはどういう理由があったんですか。
伝二ジョッキーになりたいと親に話したら、騎手は危ないからダメだと反対されて。でも、諦められなくて、大井競馬場の安藤厩舎に弟子入りさせてもらったんですよ。
万寿雄そこで、たまたま、オンワード樫山の樫山純三さんと、東京馬主協会の7代目会長、手塚栄一さんにお会いしたというんですから、親父は人に恵まれているというか、本当に運がいいんです。
伝二で、2人から、「あんちゃん、この先の競馬は、ジョッキーも、調教師も、横文字を読めないとやっていけない時になるから大学は卒業しなさい」と言っていただいて。その言葉がなかったら、今の自分はいなかったと思います。
――軍馬の次は、樫山純三さんと、手塚栄一さん……なんか、波瀾万丈の大スペクタルドラマのようになって来ました(笑)。
伝二自分では、そうは思っていないんですけどね(笑)。
万寿雄でも、親父のお父さん、僕から見ると祖父がその後、体調を崩して、結局、ジョッキーになるのは諦めて、“馬喰”の道に進むことになったという。それも含めて、いかにも親父らしい話です。
――お父さんから、馬の見方とか、そういうのは教えてもらったりするんですか。
万寿雄基礎的なことは、一通り、教えてもらいました。もらいましたけど……。
――秘中の秘は、もったいぶって教えてくれないとか?
万寿雄そういうわけじゃないんですけど…最後には、好きな女性のタイプはみんなそれぞれ違うからなっていうんです(苦笑)。
――以前、矢作芳人先生に、馬の見方について尋ねたときに、「女性を見るのと一緒だよ」と言われたんですけど、伝二さんがおっしゃるのも、そういうことですよね?
伝二女性でなくても、例えばアスリートは、バランスもいいし、歩くときも、上手に膝を使って、綺麗な歩き方をするじゃないですか。それと一緒ですよ。
馬も同じで、走るとき、踵を先に地面につける馬はあまり走らないというのが自分の持論なんです。
――なるほど。それは、新しい理論です。これまで、考えたこともありませんでしたが、言われてみると、そうかもしれないと、思っちゃいます(笑)
最後の決め手は、心に響くかどうか
――クライムカイザー、カツラギエース、トーセンジョーダン、そして、アメリカ競馬殿堂入りを果たしたエーピーインディ……これまで数えきれないほどたくさんの馬を見てこられたと思いますが、伝二さん流の馬の見方あったら、ぜひ、教えて欲しいんですけど。血統にこだわりがあるとか?
伝二血統は、見ることは見ますけど、それほど重要視しません。今は繁殖も改良され、みんな、ある程度、優秀な血統を持った馬たちばかりなので、そこからさらに血統にこだわりすぎると、普通の馬も、すごくいい馬に見えちゃうんですよ(笑)。
万寿雄父がいつも言うのは、血を強く遺伝するのがサラブレッドなので、配合によって、強い馬を作ることはできる。でも、誰もが唸るほど強く、呆れるほど速い馬は、作ろうと思って作れるものじゃないと。
――確かに、それはそうですね。
伝二だからと言って、努力を続けないと、本当にすごい馬というのは生まれてこないんですよ。そこが、難しい。
―― 一見、矛盾しているようですけど、でも、よく、わかります。
伝二そういう最強の馬と出会うというのは、奇跡の巡り合わせのようなもので。自分の場合、ある程度の血統を調べて、それから自分の目で見て、バランスはどうか? 歩き方はどうか? 体型は? 顔は? 目は? 皮膚感は? 動きは? いろんな角度から検討して、総合的に判断するようにしています。
――その上で、最後の決め手は?
伝二勘と言ってもいいんですけど、たまに、いるんですよ。何かを強く訴えてくる馬が。そういう馬との出会いは大切にしていますね。
――オレだ! オレを買え!! と訴えている……ように感じる?
伝二 そうです、そうです。そういう馬を見ると、心がざわつくというか、すごく印象に残るんですよね。いろいろなことを検討して、検討し尽くしたあとで、最後の決め手になるのは、きっとそういうことなんだろうなと思っています。
(構成:工藤 晋)
佐藤 伝二 さとう・でんじ:
エーピーインディ、カツラギエースなど、数多くの名馬を見出した馬喰。現在は馬主。
佐藤 万寿雄 さとう・ますお:
父・伝二より引き継ぎ、福島県田村市で有限会社 佐藤牧場を経営。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。