ゲスト 団野 大成 騎手
01. “やっと”手にしたGIタイトルは、得るものと反省とが入り混じった忘れられない思い出になりそうです
お通夜のようだった勝利騎手インタビューのワケは?
――高松宮記念の優勝おめでとうございます!
団野有り難うございます。
やっと、夢に描いていたGIを勝つことができました。
――やっと!? 団野君はまだ22歳だよね? 早い方だと思うけど……。
団野これまでにも、チャンスのある馬に乗せていただいていたというのもあるんですけど、物心がついた頃からずっと競馬を見ていて、“いつか、僕も……”と思い続けていたことなので、気持ち的には、“やっと”という感じが強いです。
――22歳、GI挑戦10度目での初戴冠。周りの反応はどうでした?
団野安原浩司オーナー、西村真幸先生、厩舎のみなさんをはじめ多くの方から、“おめでとう!”と声をかけていただきましたし、SNSでも、ちょっと驚くくらいたくさんのメッセージをいただいて。あらためて、GIの重みというか、影響はすごいなと感じています。
ただ…………。
――ただ?
団野最後の直線で斜行してしまい、周りに迷惑をかけてしまったことで、「あれはダメだ」という厳しい言葉もたくさんいただきまして……ものすごく反省しています。
――横山和生騎手が騎乗したアグリの進路を妨害したとして、過怠金5万円を課せられたんだよね。
団野…………はい。
ゴールした瞬間は、もう、ただ、ただ、嬉しくて、ガッツポーズしていたんですけど、次の瞬間、自己嫌悪に陥って……。
勝利ジョッキーインタビューが、お通夜のような雰囲気になってしまいました。
――そうか、なんか団野君の顔が暗いなぁと思って見ていたんだけど、そういう気持ちだったのか。
団野そうです。スポーツ新聞の記者さんたちは、「笑顔を封印して」と、すごく好意的に書いてくださいましたけど、ずっとあの斜行が、心に重くのしかかっていて……素直には喜べなかったというのが本当のところでした。
――とはいえ、GIを勝った重みというのは、団野君の中にもちゃんと残っているんじゃないの?
団野あの勝利で劇的に何かが変わったというのはありませんが、気持ちに余裕みたいなものができてきたのかなというのはあります。
レース中、周りが見えていると感じることもありますし、気持ちの面では少しだけ成長できたかなとは思っています。
父が担当する馬で初勝利
――団野君は、お父さんが、斉藤崇史厩舎で……。
団野調教助手をしています。
初勝利を挙げたのも、父が担当するタガノジーニアスでした。
――ジョッキーを目指したのは、お父さんの影響?
団野というか、友達も含めて、周りには競馬に携わっている方がたくさんいたので、ごく自然に乗馬をはじめて、馬に乗っているうちに、“ジョッキーってカッコいいなぁ”と思いはじめて…という感じです。
――団野少年の目に、かっこいい騎手として映ったのは?
団野1番は、俊(浜中)さんです。
一時期、父が、俊さんの所属されていた坂口正大先生のところで仕事をしていた時期があって。そこで何度かお会いして話をさせていただいたこともありましたし、競馬に乗っている姿も見ていましたし…話すことも、立ち振る舞いも、かっこいいと思っていました。
――浜中っちは、やさしい男だからね。
団野はい。最初は、それほど競馬に詳しいわけではなかったんですけど、乗馬をはじめてから、とにかく馬に乗るのが好きになって、それから、俊さんをはじめとしたジョッキーの方と接する機会があって、ジョッキーになりたい、ジョッキーになろう…と、自然にというか、だんだん、気持ちが変化していった感じです。
――最終的に、心を決めたのは?
団野中学1年のときです。
ただ、両親は僕が本気でそう言っているとは思っていなかったみたいで(苦笑)。
自分で競馬学校の願書を取り寄せて、「ハンコを押してください」とお願いしたときに、「あぁ、こいつ、本気なんやと思った」というのを、ずっと後になってから聞きました(笑)。
――競馬学校に入学した時点で、「オレはやれる!」という自信はあった?
団野自信がある、なしじゃなくて、よく、わからなかったです。
小5から中3まで、土、日は毎週馬に乗っていて、中2になってからは、平日も乗るようになって、障害も少しは跳べるようになっていたんですけど、競馬学校に入学した時点で、自分がどのレベルなのかはまったくわからなかったです。
――で、入学してみて、どうでした。
団野乗馬をやっている頃から、望来(岩田)とは一緒で。望来が上手いのはわかっていたんですけど、同期(35期)は、みんなレベルが高くて、僕はかなり下の方でした(苦笑)。
――団野君の同期は?
団野岩田望来、大塚海渡、亀田温心、小林凌大、菅原明良、斎藤新と僕の7人です。
――同期は、仲がいい?
団野はい、いいです。先輩たちから、「お前ら、ほんとに仲がいいよな」と言われるくらい、仲がいいです(笑)。
――同期は仲間? それとも、ライバル?
団野両方ですね。同期が勝ったら嬉しいし、反面、悔しいというか、「よしっ、僕も負けていられない!」という気持ちにもなりますから。同期みんなで切磋琢磨して、いつか、僕らの世代が、競馬界を引っ張って行けるような存在になりたいと思っています。
競馬も、社会ルールも、ただいま、勉強中!
――団野君とは一度、食事に行ったことがあるんだけど、覚えてる?
団野もちろんです(笑)。
瑠星さんに誘っていただいて、ためになる…いや、ものすごく、ためになるお話を聞かせてもらいました。
――あの時、団野君は…。
団野19歳だったと思います。坊主頭で、まだ、お酒も飲めなかったので、ウーロン茶を飲んでいました。
――あの頃からみると、ずいぶん、変わったよね。
団野そうですかね。髪の毛が伸びただけじゃないですか(苦笑)。
――いや、いや、いや。顔つきもかなり変わったと思うよ。どことなく、GIジョッキーの貫禄もついてきたような。
団野やめてくださいよ。それはないですから。
――ハハハッ。いや、でも、やっぱり変わったよ。
団野そうですか!? 鼻は…伸びてないですよね?
――それは、大丈夫。団野君の鼻が伸びたて来たら、僕がパシッと折ってあげるから(笑)。
団野よろしくお願いします!
――いや、でも、真面目な話、20歳前後からの1、2年って、ものすごく変わる時期だと思うんだけど、自分でも変わったなと思うことはあるでしょう?
団野20歳になってお酒が飲めるようになってから、それまであまりお話しさせていただいたことがない先輩たちから誘っていただけるようになって。競馬のことはもちろんですけど、社会全般のことをいろいろ、勉強させていただいています。
――えっ!? それって、どういう勉強?
団野みんなで食事に行ったときに座る位置…一番上の先輩はどこに座って、次の先輩はどこで…というのとかも、瑠星さんから教えていただきました。
――なるほど。確かに、最初はそういうのもわからないからね。先輩が一番奥で、下っ端の自分は、いつでも注文を頼みに行けるように、下座の入り口に近いところに座るとかね。いいことだと思う。やっぱり、団野君は成長しているよ。素晴らしい!
団野挨拶や礼儀に関しては昔から両親にうるさくらい言われていて。与えられた自分の仕事を、きちんと最後までやり通しないとか、人を気を配れる人間になりなさいとか、そういうことも含めて、今、勉強中です。
(構成:工藤 晋)
団野 大成 だんの・たいせい:
2000年6月22日生まれ 滋賀県出身
競馬学校35期生として卒業。
初騎乗は2019年3月2日、1回小倉7日目3R。
2019年3月17日、1回阪神8日目12Rで、
父が管理する斉藤崇史厩舎のタガノジーニアスに騎乗し初勝利を挙げる。
2023年3月26日、西村真幸厩舎のファストフォースで高松宮記念を制し、GIジョッキーの仲間入りを果たす。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。