ゲスト 古川 奈穂 騎手
01. 競馬は難しい。 ひとつ勝つのはもっと難しい。
すべての面において、まだまだです
――デビュー1年目は、左肩の手術による長期離脱もあって年間勝利数は7勝。今年はここまで10勝。よく頑張っているとも言えるし、まだ、まだとも言えるけど…本人的にはどう捉えていますか?
古川1月から一年を通してここまでやって来て、チャンスがある馬にもたくさん乗せていただいているのに、それを生かし切れなかった……という気持ちが強いです。まだまだです。
――1年目はともに7勝だった同期の永島なまみ騎手が今年、ここまで18勝。今年デビューした今村聖奈騎手が48勝。どうしても比べられてしまいますが、そこら辺の意識というのは?
古川みなさんが思っているほど、特別、意識はしていないんですけど…ただ……。
――声が小さくなったということは、やっぱり、何か思うところは、あるんですね(笑)。
古川女性ジョッキーということで、マスコミの方がフィーチャーしてくださるので、まなみちゃん、聖奈ちゃんのニュースを目にする機会が多くて。競馬に関しては、“私は私で頑張るしかない”というのはわかっているんですが、やっぱり、目にする機会が多いと、それだけ気になってしまいます。
――そりゃ、そうですよね。それが当然です。
古川まなみちゃんは、6週連続の勝利。聖奈ちゃんに至っては、一年目でGⅠに騎乗できる31勝を楽々とクリアして、藤田菜七子先輩が持つ年間最多勝(43勝)の記録を塗り替えるというすごいことをやっているので、ニュースになって当然ですが…。
――そういうときは、凹む? 落ち込む? 物に当たり散らす? どれでしょう!?
古川凹みもしないし、落ち込みもしないし、物に当たり散らすこともしません。ただ、ただ、“私も頑張らなきゃ!”とか、“負けていられない”とか、自分に気合を入れるだけです。
最後まで馬が頑張ってくれました
――10月16日の新潟9R、グランスラムアスクで勝った粟島特別のレースは、いいきっかけになるんじゃないですか。
古川グランスラムアスクは自厩舎(矢作厩舎)の馬で、ずっと乗せていただいていたので、何とか結果を出したくて。馬が最後まで頑張ってくれたおかげです。
――9番人気での勝利。レース後、なんで買っておかなかったんだ。あそこは買わなきゃいけないところだった…と、もう、おもぃっきり、後悔しました(苦笑)。
古川私にとっては、初めての特別戦勝利だったので、喜びは、2倍、3倍…10倍でした。
――あの日は、3Rを今村騎手がオースミメッシーナで、7Rを永島騎手がセルレアで勝利。古川騎手が最後を締め、『JRA女性ジョッキー3人がJRA史上初の同日勝利』というニュースが、その日のうちに全国をかけめぐりました。
古川話題に貢献できて嬉しかったです。
――3人は仲いいの?
古川はい。
――3人でどこかに遊びに行ったりとか?
古川それはないですね。話すのはほとんど、馬のことや騎乗技術のことで。あっ! あと、美味しいスイーツの情報交換はゼッタイです。
あそこのコンビニで買った、あの新商品が美味しかったとか。スイーツの話をしているときは、3人ともほぼ、競馬学校のノリですね(笑)。
――なんかすごく楽しそうだけど、じゃあ、今、一番、難しいと思っていることをひとつだけ挙げてみて…と言われたら、なんて答えますか?
古川難しいこと……ですか……私の場合、たくさんありすぎて……。ひとつだけですよね?
――はい。ひとつだけです。
古川そうですね…ひとつだけと言われたら……勝つことです。
そこに向けて、馬も自分もベストコンディションでいなきゃいけないですし、その上で、馬の力を100%引き出す乗り方をしないと勝てないですし……。
――相手関係もあるしね。
古川自分たちだけが競馬をするわけではないので、周りの馬との駆け引きも大事になってきますし、レースの展開も読まないといけない、瞬時の判断力も必要になってくる……そういうのが全部あった上で、勝つのは一頭だけなので、ひとつ勝つのは本当に難しいです。
――ジョッキーに話を訊くと、必ずといっていいくらい、みんな、「競馬は難しい」って言いますもんね。
古川経験と実績を積み重ねて来られたトップジョッキーの方を100とすると、私のレベルはまだ1くらいで。その1の私には1なりの難しさがあって。それが2になったときは、きっと2の難しさがあり、10になったときには10のレベルの難しさがある――。
同じ、「競馬は難しい」という言葉でも、感じる難しいのレベルは天と地ほどの差があると思うんですが…やっぱり、競馬は難しいし、その中でひとつ勝つのは、もっと難しいです。
こう見えて、結構、緊張しいなんです
――それでも勝たなきゃいけないし、常に結果を求められるのがプロのジョッキーで。そのために古川騎手が大切だと思うのはなんでしょう。
古川考えて、考えて、それでも、もっと、もっと、考えること。経験を積むこと。先輩たちのお話を聞くこと。いまは、そういったことを大切にしています。
――アドバイスをもらうということでは、同じ矢作厩舎に、今年、ぐいぐい来ている先輩、坂井瑠星騎手がいるというのは頼もしいよね。
古川そうなんです。普段の調教から一緒なので、見ているだけでもすごく勉強になりますし、わからないこと、判断に迷ったこと…どんなに些細なことでも、訊くと親切に教えてくださるので、すごく…いえ、ものすごく頼りになる先輩です。
――他の先輩ジョッキーにも話を訊いたりする?
古川レース後、パトロールビデオを見ながら、側にいる先輩に話を伺うことが多いです。
自分は、ここで、こう考えて、こういうふうに動いたんですけど…とお話をして。ここで動かなかったら、もう少し、終いの脚が残っていたんでしょうかとか、そういう話をよくさせていただいています。
――みんな、やさしく答えてくれる?
古川はい。先輩が私の馬に乗っていたら…というのを前提にして、「オレでも、ここで動くと思う」とか、「ここであとちょっと、ゼロコンマ1秒、我慢していたら、結果は違っていたかもしれないね」とか、「結果論になるけど、ここで我慢していたら内が開いたよね」とか。次に繋がる話をしてくださいます。
――いい話を聞いたなぁ。
古川レース直後は、みなさん、バタバタされていて。いつ聞けばいいんだろうとまごまごしている間に、訊くタイミングを逸してしまったりしていたんですけど。こう見えて、結構、緊張しいなので(笑)。
でも、最近は、きちんと訊けるようになりましたし、来年は、先輩たちから、「うざい」と言われるくらい、積極的に話を訊きに行きたいと思っています。
(構成:工藤 晋)
ふるかわ・なほ:
2000年9月13日生まれ 東京都出身
栗東 矢作芳人厩舎所属
2021年3月6日 阪神競馬1Rでデビュー。
初勝利は、3月13日の阪神6R(パートナーはバスラットレオン)。
初勝利から4週連続で勝利を挙げたものの、左肩に違和感を感じ、その後手術。5ヶ月にも及ぶリハビリを経て、10月9日の阪神2Rで復帰。1年目は7勝、2年目となる今年は、ここまで10勝を挙げている。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。