ゲスト おがわじゅり さん
01. 馬を追いかけ、北海道へ。夢を紡いだ数多くの縁
出会いは、漫画『風のシルフィード』
――はじめまして…ですね?
おがわはい、はじめまして、です。
ただ…弟が昔からキャプテンさんのファンで。10年くらい前になるんですが、「すごくおもしろい芸人さんがいるんだよ」と言って、キャプテンさんのネタを真似して見せてくれたことがあって。それも、このネタのどこが面白いか、ひとつ、ひとつ、解説付きで。その時の印象が強すぎて、なんか、はじめてという気がしないんです(笑)。
――な、な、な、僕のファン? それは貴重なというか、稀有なというか…。えっ!? ということは…もしかして…おがわさんも僕のネタを見たことが…ある?
おがわそれが…残念なことに、当時はまだYouTubeとかなかったので、弟の真似でしか知らないんです。
――見なくて正解です(笑)。
おがわあとで見せてください。
キャプテンさんと対談することになったよと言ったら、「すげぇーッ!」と大興奮していた弟に自慢しますから(笑)。
――いや…それは…まぁ…終わったとき考えるということで。なんか、いつもと違って、非常にやりにくい感じなんですけど…(苦笑)。
気持ちを戻して、今日は、よろしくお願いします。
おがわはい! よろしくお願いします!!
――今やJRAの全10場、どの競馬場に行っても、おがわさんが描いた馬の絵があるという感じですが、そもそも、馬との関わりはいつ始まったんですか。
おがわ中学2年の時、ジョッキーと一頭の馬との熱いドラマを描いた『風のシルフィード』という漫画にどハマりしまして。
もう、そこからは、頭の中が競馬一色に塗りつぶされて、将来、絶対に競馬に関わる仕事をするんだと思うようになっていました。
――えっ!? ということは、絵を描くのが好きで、後に競馬に関わったわけじゃなくて、競馬が先?
おがわそうです。絵も好きで描いていましたけど、誰かに褒められたという記憶もないくらいで。200%競馬との出逢いが先です。
馬を好きになりすぎて…とはいえ、さすがに馬は飼えないので、替わりにロバを飼うくらい馬LOVEの女子高生でした。
求む! ロバ!!
――ちょっと、待ってください。話が突飛すぎて追いつけないんですけど…もしかして、今、ロバを飼っていた…とおっしゃいました?
おがわはい。本当はポニーが欲しかったんですけど、調べてみると、とんでもなく高くて。だったら、同じくらいの大きさのロバにしようと、ずっと、親にお願いしていたんです。
――ロバって、どこで売っているんですか!? ペットショップじゃ売ってないですよね?
おがわしつこいくらいお願いしていたので最後は両親も根負けしたんだと思います。
タダでくれるところがあるのだったら、飼ってもいいと言ってくれて。ウチは農家だったので、敷地だけは広かったんですよ。
――で、あったんですか!? タダでくれるところが?
おがわはい。電話帳で、「家畜」と記載されているところに、電話をかけまくったら、一軒だけ(笑)。生後半年のロバで、“シナモン”という名前を付け、私たち家族の一員になりました。
――ものすごい行動力ですけど、ここまでのお話を聞いているかぎり、それで、競馬愛がおさまったとは到底、思えないんですけど…。
おがわおっしゃる通りです(笑)。
高校を卒業して、仕事を探すのに当たって、まず、馬に携わる仕事というのが大前提としてあって。馬といえば、やっぱり北海道じゃないですか?
――まぁ、そうですけど…もしかして、そこでもまた電話をかけまくったとか?
おがわ正解です(笑)。
雇ってくれる牧場を見つけて、着替えや日用道具と一緒に、ロバを馬運車に乗せて、馬が待っている、北海道に乗り込みました。
――おーっ! それは、すごい!! 念願叶って、馬との生活が始まるわけですね?
おがわそのはず…だったんですけどね。
半年で夢破れて、実家にUターンしてしまったんです(苦笑)。
――え〜〜〜〜〜っ、ですね。
おがわはい。え〜〜〜〜〜〜っ、です。
夢破れ…故郷にUターン
――ホームシックですか?
おがわ私自身の考え方が甘かったというか、すべてにおいて幼かったという言葉につきます。
仕事はハードだし、休みはないし、馬の扱い方もまったく知らないし…。おとなしくて可愛いと思っていたはずの馬も、すごく気難しくて。こんなはずじゃない。こんなの、全然、楽しくないと、思うようになってしまって…。
――現実を知った?
おがわ思い知らされました。
憧れとか、夢だけじゃやっていけない。サラブレッドも、それを世話する人たちも、想像を遥かに超える厳しい世界で生きているんだというのを、もう、いやというほど思い知らされました。
――そこから、どうやって、イラストレーターに繋げていったんですか?
おがわ大事なポイントは、そこですよね。
――はい。そこをぜひ!
おがわ田舎に戻って、アルバイトをしながら、研修生…といえばかっこいいのですけど、仕事を手伝う代わりに、馬に乗せてもらえるという条件で、乗馬クラブに行きだして。それを絵日記にしたのが、そもそもの始まりです。
――半分、趣味というか、遊び心で描いていた?
おがわ半分じゃなくて、100%遊び心です。
ただ、その絵日記が、乗馬クラブの会員の方の目に留まって、雑誌『乗馬ライフ』(現・『UMA LIFE』)に紹介していただけることになったんです。
――引きの強さ、ですね。
おがわ運が良かっただけです。
これは後で知ったことですが、その時、「じゃあ、1回、描いてみる?」と言ってくださった女性の編集者の方が、栗東で調教師をされている牧浦充徳先生の妹さんで。一度は自ら放り出した馬とのご縁が、こうしてまた繋がったことに不思議なものを感じます。
――全部、繋がっているんですね。で、そこからは、とんとん拍子に?
おがわこれもまた、運がいいことに、馬事公苑のフリーマーケットで、自分で作った馬のキャラクターを並べていたら、グッズを制作・販売している社長さんの目に留まって…今に至るという感じです。
(構成:工藤 晋)
(写真:山口 比佐夫)
おがわ・じゅり:
1978年11月29日生まれ 神奈川県出身
イラストレーター。
JRAの競馬場や施設、乗馬クラブなどでグッズを販売中。
2011年〜2016年は、JRAが発行している『KEIBA CATALOG』の表紙を担当。
シャッターイラストをはじめ、数多くの競馬場・施設で、その作品を見ることができる。
一般社団法人中山馬主協会のHPにて、『おがわじゅりの はい!競馬場。』を連載中!
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。