こんなわたくしでもいつか馬主になってダービー制覇したい!有馬記念を勝ちたい!ということで始まりました『キャプテン渡辺のウィナーズサークル』。
今回は、NHKマイルカップの覇者アエロリットを管理されている菊沢隆徳調教師にお越しいただきました。厩舎開業7年目での初のG1制覇。喜びの声をまずはお聞きしました。
これまでの出来事がいろいろ巡ってきて
感極まりました(菊沢)
キャプテン渡辺(以下、渡辺):アエロリットでNHKマイルカップ制覇、おめでとうございます!
菊沢隆徳調教師(以下、菊沢):ありがとうございます。
渡辺:G1を勝った当日は祝賀会でどんちゃん騒ぎ、でしたか?
菊沢:いえいえ(笑)。その晩にノリさん(横山典弘騎手)や牧場の方、関係者の皆様と小さく食事会をしました。普段トレセンに火曜日から金曜日まで番人のようにノリさんいますし、厩舎にもよく遊びに来られますからね。
渡辺:G1初勝利の喜びといいますか、改めてお気持ちをお聞かせいただけますか。
菊沢:G1レースの重みはジョッキー時代から感じていましたし、騎手時代に実際にG1を獲ったことがなかったですから。騎手それから調教師になり、ホースマンをつづけている中で1度はG1を獲ってみたいと思っていたので、こういった形で優勝できて本当によかったと思っています。
渡辺:厩舎を開業されてから7年目でのG1勝利は早い方ですね。
菊沢:まぐれでもなんでもいいからG1タイトルを獲りたいと思ってましたから、本当に嬉しいです。
渡辺:いやいや、まぐれでG1は獲れないですよ(笑)。
菊沢:実際、NHKマイルカップでは、アエロリットも強いレースをしてくれましたしジョッキーも上手に乗ってくれて。いろいろなことがうまくつながって、結果勝利することができた感じがします。
渡辺:勝利後のインタビューでは声を詰まらせるシーンもありました。騎手として重賞制覇するのと、また違った格別な喜びだったのですか?
菊沢:騎手時代は勝ったときの喜びは単純に自分自身のものだけだったという感じがします。それが調教師になり重賞やG1に限らず、未勝利戦も同じですが、特にG1だと今まで携わってきた人の想いとか、周囲の応援とか、馬を管理していてずっと順調に進んでいるわけでなく、様々な問題をクリアーしながら大舞台にたどりついたわけで。そういうこれまでの出来事がいろいろ巡ってきて、感極まりました。
渡辺:調教師になられてから馬を見るにあたって、騎手時代には感じなかった新たな発見などはありましたか?
菊沢:馬を見る目の視野は随分広がりました。騎手時代は、馬に対してはレース後にああいう騎乗をすればよかったなとか、これは走る馬だなぁとか、あの馬に乗ってみたいなぁとか、あるいはこの馬はどれだけ速いのかなといった目線でした。でも調教師になってみて実感するのが、馬は最初から走るのが速いわけじゃないですし、期待がかかっていても思うように走れない馬もいたりしますし。
渡辺:なるほど。
菊沢:そういった馬に対する調教師の責任というか、騎手のときよりも馬への悩みは増えましたね。
渡辺:馬ってデビューするだけでも大変ですものね。
菊沢:はい。上位のジョッキーともなれば、ある程度まで育成された馬というか、たとえばゲートもスパンと出られるようになっている馬から乗り始めるわけですね。でも調教師として馬を管理するときは、右も左もわからない状態の馬を預かり、ゲート入りを嫌がる馬や、中で暴れたりする馬をどうやって直そうとか、まずは競馬に向けて馬を調教するところからスタートします。ですから新馬戦を使うまでも、ひと苦労ですね。
調教師の場合は次にその馬をどうするか
考えつづけないといけない(菊沢)
「わかるように、感じていますね」(菊沢)
渡辺:ゲートの出が悪い馬をどうやって直すかなど、馬の育成方法は誰かに教わるものなのですか?
菊沢:オーソドックスなパターンですが、ボクは騎手時代、上位のジョッキーではなかったので、馬の下積み調教を当時から関わってきました。その教えの中には自分では納得していない場合もあり、それをいま自分が調教師になって試している部分もありますね。
渡辺:試行錯誤の繰り返しですか?
菊沢:そうですね。あとは馬の気持ちをいかに早く感じてあげて、馬がどういう状態なのか、怖がっているのか、わざと人を困らせているのか、そういう馬の気持ちを感じてあげて寄り添いながら育成していくパターンですね。
渡辺:馬の気持ちはわかるものですか?
菊沢:わかるように、感じていますね。
渡辺:それぞれの厩舎が馬に対してまったく同じことをしているわけではないですものね。
菊沢:うちはうちなりのカラーで馬と信頼関係を築いて、やさしく寄り添って接することをモットーにしています。
渡辺:アエロリットはオレの厩舎にいたからG1が獲れたんだ、ほかの厩舎にいたらG1獲れてなかったはずだ、という気持ちはありますか(笑)。
菊沢:そういったことは……思っていても言いません(笑)。
渡辺:馬にやさしく接していると馬もわかるものですか?
菊沢:これは人間といっしょですね。やさしく接する方がいい馬もいるでしょうし。キツく叱る方がいい馬もいるでしょうし。でもうちの場合は馬にはやさしく接していますね。
渡辺:調教師の仕事は、ジョッキーとはまた違った世界ですね。
菊沢:騎手のころとは生活のリズムがまず違いますね。騎手時代は競馬に向けてテンションを上げていき、負けても勝っても発散して終わりでした。お酒を飲んで忘れちゃったりとか(笑)。
渡辺:お酒で発散! そういう世代なんですね(笑)。
菊沢:でも調教師の場合は、馬が負けてもクビにならずに、また次にその馬をどうするか考えないといけない。勝ったら勝ったで、このあとはどう進めていこうかずっと考えつづけていますね。
渡辺:馬との関わりは毎日つづきますものね。
菊沢:そういった競馬へのテンションというか。ジョッキー時代とは全然違いますね。