ゲスト 福永 祐一 騎手
01. 騎手は最高の仕事――。でも、それ以上にワクワクするものを見つけてしまった。
卯年に入っても絶好調のキャプテン渡辺が贈る『WINNER’SCIRCLE』。ゲストはもちろん、この人、福永祐一騎手だ!!
ジョッキーとしては今がピーク
――調教試験合格、おめでとうございます。
福永有り難うございます。
――いや、でも、おめでとうございますという言葉に嘘はないんですけど…同時に、“もったいない”という気持ちもあって。きっと、多くの人が僕と同じ気持ちだと思うんですけど……。
福永あちこちで、同じことを言われます(苦笑)。
たくさんの方にそう言っていただけるのは、本当に嬉しいことです。
――なのに、なぜ? ということになるんですが…騎手としてやりたかったことはもうすべてやり尽くして、後悔も未練もないとか!?
福永悔いは死ぬほどありますよ(苦笑)。
言い出したらキリがないほどたくさんあります。いまでも、“あーすればよかった”“こーすればよかった”と思っていますから。後悔しない日はないくらいです。
――じゃあ、騎手という仕事が楽しくなくなった?
福永そんなこともないです。いまでも変わらず騎手という仕事は楽しいし、充実しているし、何ひとつ不満はないですから。
――失礼な質問になりますが…体力の衰えを感じはじめたというのは?
福永そんなのは、ずっと前から感じています。フィジカルにおいては、20代の方が体力もあるし、筋力もあるのが当然ですから。ただ、ジョッキーという仕事が、体力や筋力が衰えたら成立しない職業なのかといったら、そうじゃない。技術だったり、経験値だったり、判断力であったり、競馬やコースに対する理解度であったりというのが重要で。それは年齢とともにどんどん積み重なってきているので、総合点という意味では、今が一番高いと思っています。
――野球やサッカーとは違うと?
福永競馬は、フィジカルの占める割合が、他のスポーと比べてそれほど高くないですからね。野球やサッカー、バスケもそうだし、ラグビーもそうですけど、40歳を超えて、“今がピーク”という選手はいない。そういう点では、競馬を選んで本当によかったと思っています。
――後悔はあるけど、騎手としては充実していて、総合点では今が一番高い…ということになると後は……目標がなくなったとか。
福永20代、30代、40代…それぞれの時で求めるものは変わってきていて。GⅠ…とりわけ日本ダービーにこだわったときもありましたし、リーディングジョッキーにこだわったときもありました。その目標を達成し、今は、自分のことを評価してくださっているオーナーの馬に乗って、信頼関係ができている厩舎の馬に乗って、一緒に馬を作り上げていくという、ある意味、最高の環境の中にいると思っています。
――成績も、昨年まで13年連続で100勝を超える勝ち星を挙げ、昨年だけでも、カフェファラオでフェブラリーステークスを、ジオグリフで皐月賞を制し、2つのGⅠを手にしています。
福永理想の環境の中で、ある程度の勝ち星を挙げ、且つ、GⅠを狙える馬にも乗せてもらえている……そういう意味では、ジョッキーとして、今、一番、ピークというか、ゴールに近いところにいるんだろうなとは思います。
――ですよね。だったら、今、騎手をやめる理由はひとつもないじゃないですか(苦笑)。
大事なのは信頼関係
福永何も不満はないし、自分がやりたいように仕事をさせてもらって、且つ、周りもそれを認めてくれている――。
それって、ジョッキーとしては、最高到達点に近いんだろうな、と思います。
そこには、不安もないし、不満もない。いまでも、騎手は最高の仕事だと胸を張っていえます。ただ、それ以上に、さらにもっとやってみたい仕事を見つけてしまった。最高に、ドキドキ、ワクワクできそうな目標を見つけてしまった……この先、どうなるかはわかりませんが、それってすごく幸せなことだと思いません?
――思います。すごく、思います。もっというなら、福永騎手は、すごい調教師になると思います。
福永そこは…どうでしょう(苦笑)。
芝、ダート、短距離馬、長距離馬、牡馬、牝馬、海外でも結果を残した馬…あるゆるカテゴリーの馬に乗せていただき、さまざまなGⅠを勝たせてもらって、そういった馬の背中を知っているし、調教の過程も知っている。そこは僕の強みだし、こういうタイプの馬はこういった調教をした方がいいよね、というのも、概ね掴めてはいるけど…なんたって、はじめてのことですからね、やってみないとわからないです。
――いや、心配があるとすれば、これからは自分ひとりじゃなくて、人を使う立場…会社でいうと社長のような立場になることじゃないですか。
福永そうですね。僕に調教師としての能力があるのかどうかが問われると同時に、スタッフとの信頼関係をどう構築していくかが重要な鍵になっていくんだと思います。
――福永調教師は、褒めるのも上手そうなので、大丈夫だとは思いますが(笑)。
福永騎手としての経験だけでは成立しないというのはわかっています。
馬を預かるには、まず、大前提として、馬の健康状態を保っていかなきゃいけない。そこの部分に関しては、知識も、経験も乏しいので、経験のある厩務員さんの力を借りなきゃいけないし、教えてもらわなきゃいけないこともたくさんあると思っています。
――チーム福永ですね。
福永そうです。自分にないところや、足りないところは、いろんな人の力を借りて、チームとしてバランスが取れていて、且つ、しっかりと結果に結びつけられる集団にしたいと思っています。
責任を取るのが調教師の仕事
――気が早い質問ですが、こんなジョッキーに乗ってほしいというのはあますか?
福永そこは馬に合わせてですね。
ジョッキーは、点で結果出すのも仕事の1つですが、調教師は一頭の馬を点ではなく線で考えなければならない。目の前のレースだけじゃなく、競走生活の中で、こういう活躍をしてほしいというプランを描かないといけない職業ですから。
――点と線ですか。その中で、折り合いをつけるのは大変そうですね。
福永騎手は点で勝負しますが、調教師は線で物事を図っていく。だからこそ、信頼関係が大事になると思います。自分の意思をきちんと伝えられる相手じゃないと、いい騎乗をしてもらえる確率は間違いなく下がるので、それができるジョッキーに乗ってもらいたいと思っています。
――負けたら、当然、オーナーさんは不満に思うでしょうし、なんか、考えただけで気が滅入ってしまいそうです(苦笑)。
福永そういうところは事前に自分が馬主さんに説明することで回避できるんじゃないかと思っています。
ジョッキーにはこういうリクエストを出します。その結果、今回は勝てないこともあるかもしれないけれど、今、こういうことを経験することが大事で、それは先々に必ず生きて来ますから、と、きちんとお話しするのが大切なんだろうと思います。
――騎乗ミスというのもありますしね。
福永ミスがいいとは言いませんが、ミスは仕方のないことで、一度もミスせず、完璧な騎乗を続けている騎手なんて、世界中探したってどこにもいませんから。
大事なのはそういうことも含めて、キチンとオーナーに説明することで、それが調教師の役割でもあると思います。
師匠の北橋先生が、いつも、
『責任を取るのが調教師の仕事』
とおっしゃっていましたが、その言葉は肝に銘じていますし、僕もそうありたいと思っています。
――となると心配なのはむしろ、裏方に回ることで、周囲からチヤホヤされなくなることですね(笑)。
福永チヤホヤですか!?
――そうですよ。デビューから注目されて、GⅠもいっぱい勝って、街を歩いていても、「あっ! ジョッキーの福永だ!!」って、黄色い声を浴び続けて来たんですから、それがなくなったら寂しいんじゃないですか(笑)。
福永勝ちたいという気持ちはあっても、ヒーローになりたいとか、スポットライトを浴びたいとかは思ったことは人生の中で一度もないですからね。そういう性格でもないし…。
う〜〜〜〜ん、どうなんでしょう?
――やっぱり、少しは寂しいでしょう?
福永こればっかりは、なってみないとわかりませんが……。
思うのかな!?
やっぱり、ちょっとは、思うんでしょうね(苦笑)。
(構成:工藤 晋)
ふくなが・ゆういち:
1976年12月9日生まれ 滋賀県出身
父は“天才ジョッキー”と称された福永洋一。
競馬学校12期生として卒業し、1996年にデビュー。
コントレイルでの三冠制覇をはじめ、GⅠ勝利数は45。
2011年、2013年には全国リーディングを獲得している。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。