ゲスト 長谷川 雄啓 さん
01. “本馬場”と“馬場”の違いを知っていますか?
『ビギナーズセミナー』の講師であり、騎手を目指す子どもたちの夢舞台『ジョッキーベイビーズ』(正式名称:全国ポニー競馬選手権)のMCを務めている、自称“30年間、徳俵に足がかかりっぱなし”という長谷川雄啓さん。
いったい、何が飛び出すのか!? 新規で加入されたオーナーさんは、必見です!
馬を知ることは、オーナーさんにとっても大きなプラスです
――2020年に長谷川さんが出された競馬書籍『究極のガイドブック』が大人気で、現在、6刷になっています。
長谷川この本は、僕が長い間講師を務めているJRAの『ビギナーズセミナー』で教えてきたことをまとめた本で、文字の大きさから、デザインまで、とにかく読みやすいように、わかりやすいようにということに徹底的にこだわって作ったものなので、多くの方に読んでいただけているというのは、本当に嬉しいし、有り難いです。
――そういうこだわりが、いかにも長谷川さんらしいです。何事も大事なのは、最初の一歩。いまはベテランと呼ばれる人も、最初は競馬初心者ですからね。
長谷川キャプテンを筆頭に?
――いや、いや。僕なんてまだまだ、ひよっこ。せいぜい、競馬中級者です。
長谷川でもね、その中級者、もっと言えば上級者と呼ばれる人たちでも、案外、知らないことがいっぱいあるんですよ。
例えば、“本馬場”と“馬場”。この2つの違いを知ってますか?
――えっ!? あらためて……そう訊かれると……。え〜〜〜〜っ、どう違うんですか?
長谷川ひとつの競馬場に複数のコースがあるとき、外側を“本馬場”と呼び、内は“馬場”。JRAの場合、本馬場は芝コース。
今度、競馬場のアナウンスを聞いてみてください。「第6レース、出走各馬の本馬場入場です」と言ったら、それは芝のレースのことですから。
――知りませんでした……。
長谷川でしょう!? 初歩的なことでも知らないことってたくさんあるんですよ。そういうのを教えてあげるのが僕の役割なんだと思っているんです。
馬の身体はどういう仕組みになっているのか。それがわかれば、パドックでの馬の見方が変わりますし、それがひとつの物差しにもなる。競馬を見る物差しは、ひとりひとりみんな違いますが、僕の仕事は、その物差し作りを教えてあげることなんです。
――馬を知ることは、新しく馬主さんになる人にとっても大きなプラスです。
長谷川牧場に馬を見に行くと、牧場主さんは当然、「この馬はいいですよぉ」と勧めますよね。ベテランの方は自分なりの物差しを持っているので簡単にはうなずきませんが、新しく馬主さんになった方の多くは、その物差しが出来ていなので――。
――つい、つい、“そうですね”とか、“いい馬ですねぇ”とか言ったりして。
長谷川そうなると、もう、アウトですよね。もしかしたら牧場主さんは、内心、“いいお客さんが来た”とほくそ笑んでいるかも(笑)。
予想して答えを見つけたら、そこで完結
――長谷川さんクラスになると、馬券もバンバン当たっちゃたりするんでしょうね?
長谷川馬券はダメです。予想するのは下手じゃないと思っているし、周りからもそう言っていただけるんですけど、いざ、買う段階になると、迷いが生じて。結局買うのをやめちゃったり、皆さんには、“ワイドでいいんです”と言っていながら、馬単や、3連単にこだわったりして。馬券は本当にダメです(苦笑)。
――長谷川さんほどの人でも、そこに関しては成長しないんですね?
長谷川しないですねぇ。
昔、ワイドという馬券がまだなかった頃、「1着、3着で払い戻しがあったら、蔵が建つ」と言われていた時代があったんですけど、ワイドができても、蔵が建ったという人の話は聞いたことがない。口から出て来るのは、「なんだ、また、1着、4着かよ」という言葉ですからね。
――ははははは。僕も、長谷川さんも、それでも、競馬から離れないんですから、これはもう、立派な病気ですね。
長谷川それはね、予想するという最高の楽しみ方を知ってしまったからだと思います。競馬には、“馬券ロマン”と“馬ロマン”という2つの柱があるんですが、そのうちのひとつ、“馬券”で最高に楽しいのは、自分の物差しで、レースの予想することですから。それが出来ている自分もキャプテンも幸せ者なんだと思います。
――馬券が外れても?
長谷川だってレースは、同じメンバー、同じ条件でやっても、2回やったら、2回。3回やったら3回とも結果が違うじゃないですか。馬券をとったというのは、そのうちの1回を当てたということで。そうじゃなくて、予想して自分なりの答えを導き出した時点で、僕はある意味、完結したと思っているので、それでいいんです。
――なんて素敵な理論なんだ。それですよね、競馬の面白さは!
長谷川そうです。だからこそ、いま、『ウマ娘』人気で、競馬の入り口に立っている若い人たちに、その面白さを教えてあげたいんですよ。自分の物差しができれば、頭の中でバーチャルで馬を走らせることができる。そしたら、もっと、もっと、競馬を面白いと感じてもらえるはずなので、そういう意味も含めて、もっと多くの人にビギナーズセミナーの仲間に加わって欲しいと思うし、『究極のガイドブック』で、競馬を好きになってもらいたいんです。
――素晴らしい! ブラボーです。でも……それでも、やっぱり、馬券が外れると悔しいです。
長谷川当てにいくと、ほぼほぼ、勝てないという現実が一方にあるのは事実です。そこが馬券の面白さであり、難しさですから。でも、それで、いいじゃないですか。堅実にワイドで勝負する人もいれば、キャプテンのように、三振か、ホームランかという一発を狙って思い切りバットを振るという人もいていい。それこそが、“馬券のロマン”なんだと思います。
好きなのは、牝馬で、芝3200mの天皇賞(秋)を逃げ切ったプリティキャスト
――史上最強馬を一頭挙げてくださいと言われたら、長谷川さん的には、どの馬になるんですか?
長谷川真面目に答えるんだったら、ディープインパクトです。馬体の作り、バランスが、パーフェクトだったと言われている上に、あの脚ですからね。No.1は、文句なくディープだと思います。
――ディープ以外だと?
長谷川ホウヨウボーイですね。有馬記念(1980年)と翌年の天皇賞(秋)を勝っている実力馬なんですけど、馬っ気がものすごく強い馬で。牝馬2頭が出走したオールカマーでその馬っ気が爆発してしまい、その牝馬2頭を抜けずに、5着に惨敗しているんです。なんか、すごく人間臭くて、いいと思いませんか。
――抜けなかったのか、抜きたくなかったのかビミョーなところですが(笑)。では、好きな馬は?
長谷川ロボットのようなブリンカーを着けたプリテイキャストです。距離が3200mだった時代(1980年)、前日の大雨の影響で重だった秋の天皇賞を牝馬で逃げ切ったレースは忘れることができません。
――こうして話を聞いていうちに、だんだん、長谷川さんの馬の見方、好み、人間性が見えてきたような気がします(笑)。
長谷川寿司屋の息子が、大学生のときになぜか歌手デビューして、老舗の大手芸能事務所でディレクター、マネージャーを務め、そこからラジオのパーソナリティに転向。波乱万丈の人生を歩んできて、この30年は、相撲でいう土俵の徳俵に足がかかったまま、ギリギリなんとか踏ん張っているというのが僕です(笑)。
――本当の徳俵はそんなもんじゃないと思いますが(笑)。それは置いておき、そこから、『ビギナーズセミナー』の講師になり、『ジョッキーベイビーズ』に大きく関わるようになったのは、どんな理由があったんでしょう?
長谷川今日の最大のテーマは、そこですよね。
――はい、そこです。
長谷川2001年から6年間担当していたグリーンチャンネルの仕事が終わって、さぁ、どうしようと思っていたときに、JRAの方から、馬事振興のイベントMCをやってみないかと声をかけていただいて。流鏑馬とか、打毱(だきゅう)など、馬事振興に関わるイベントのMCをやらせていただいていたんです。そこが、すべての始まりでした。
――おーっ!ついに、話はそこまできましたね。では、続きは後半で、じっくりとお伺いします!
(構成:工藤 晋)
長谷川 雄啓 はせがわ・たけひろ:
11月13日生まれ。東京都出身。
大学在学中にスカウトされキングレコードよりデビュー。卒業後、第一プロダクションに入社。平成元年に同社を退社し、フリーのディスク・ジョッキーに。FM NACK5で、『BEAUTIFUL SONGS〜こころの歌〜(月〜木12:45〜1300)ほか、多数のラジオで活躍中。
JRA『ビギナーズセミナー』の講師をはじめ、毎年恒例となっている『ジョッキーベイビーズ』のMCを務めている。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。