ゲスト 栗田徹 調教師
01. チーム・タイトルホルダーの挑戦
出国は、9月16日
――タイトルホルダーが、美浦の栗田厩舎に帰ってきました!
栗田帰ってきましたね。僕は新潟にいたので直接、見てはいませんが、27 日(8 月)に坂路を 2 本やったという報告は受けています。いつもと変わらず、元気いっぱいで、馬のやる気をなだめながらの脚ならしですね。
――今後の予定は?
栗田9 月 16 日に成田空港から出国して、翌 17 日朝に現地に到着する予定です。
8 月にフランスに行って、お世話になる小林智先生の厩舎も自分の目で確認できましたし、凱旋門賞が行われるロンシャン競馬場への動線や調教なども見せていただいたので、準備は整いつつあるという感じです。
――いよいよ、ですね。
栗田はい。いよいよ、です(笑)。
――先生後自身、気負いやプレッシャーというのは感じていますか?
栗田いや、それはないです。
どのレースにも、どの馬に対してもそうなんですけど、日々の体調に合わせた、これがベストだと思う調教をしてレースに送り出してあげるというのが僕らの仕事だし、それが大きいレースだからとか、平場のレースだからというのは全く関係なく、毎回、冷静に送り出してあげることだけを考えていますから。
――それでも、さすがにレース中は興奮していますよね?
栗田どう…なんですかね!? 自分では、スタートしてからゴールする瞬間まで、冷静に見ているつもりなんですけど。
――いや、いや、そう言いながら、初めて手にした GⅠの勲章、タイトルホルダーの菊花賞は興奮したんじゃないですか?
栗田最後の直線では後続を離していたから、レース自体は割と冷静に見ていたんですけどね、さすがに勝った瞬間は、グッとくるものがありました。GⅠに手が届いたという嬉しさとか、いろんな思いがごちゃごちゃになって湧き上がってきて…。
――涙をこぼした?
栗田涙ですか? う〜〜〜〜ん、それはないと言いたいところですが、こぼれたといえば、こぼれた…かな(苦笑)。
――それは、そうですよ。それでこそ、栗田調教師です!
で、二冠目、天皇賞・春は、ライバルたちを迎え撃つ王者として挑むレースになりました。
栗田迎え撃つとか、王者とか、そういう気持ちは全くなかったです。
長距離適性はあると思っていたので、考えていたのは、
とにかく、自分の競馬をすること――
それだけですね。
想像を超えた馬に成長
――三冠目、宝塚記念は、逃げるのは難しいんじゃないかとか、ライバルが揃ったとか、外野からの声がうるさかったんじゃないですか(笑)。
栗田そう、ですね(苦笑)。
距離適性を心配する声もあったし、同型馬がいて、逃げるのは難しいんじゃないかという声は僕のところにも届いていました。
――そういった声は無視していた?
栗田無視してたわけじゃないですよ(苦笑)。
ただ……。
――ただ?
栗田馬の状態は、天皇賞・春のときより良かったので、そういう意味では…こういう表現が合っているのかどうかわかりませんが、冷静に、どんな競馬をしてくれるんだろうという期待感の方が大きかったですね。
――結果は、圧勝。それも、呆れるほどの強さでした。
栗田そこはね、僕自身、反省しないといけないところで。
――えっ!? どういうことですか?
栗田正直にいうと、ここまで力が出せる馬だとは思っていなかったんですよ。
菊花賞を勝って、天皇賞・春を制して…強い馬なのは間違いないんだけど、宝塚記念に関しても、絶対に勝てるとまでは言わないけど、自分の競馬ができれば、勝ち負けの勝負にはなるだろうなというのはあったんですけど、まさか、あそこまで強い競馬ができるとは思っていなくて。
見誤っていた自分が情けないというか、日々の調教の中で、見逃していた部分があったのかもしれないというのがあって…そこは反省しなきゃいけないところです。
――そもそもの話になりますが、タイトルホルダーはどんな馬なんですか?
栗田デビュー当時は、グニャグニャとした華奢という言葉がそのままぴったり当てはまるような仔でしたね。
いい馬であったことは間違いないんですけど、まさか、ここまでの馬になるとは思っていませんでした。
――調教しながら、どんどん強くなっていった?
栗田そうです、そうです。まさに、それです。
休みを挟みながら競馬を使っていくうちに、どんどん強くなってきて。
今はもう、僕の想像を遥かに超えた強い馬になっています。
――どんなところに注意して、調教をされているんですか?
栗田基本は、我慢させて、どこで自分のフルのスピードに持って来られるかというところに重点を置いています。
だから、調教では、あまり力ませず、乗り役との折り合い重視にポイントを置いて、調整するように心がけています。
大きすぎる義父の存在
――タイトルホルダーという馬は、乗りやすい馬ですか!? それとも乗りにくいタイプの馬ですか?
栗田宝塚記念のレースを見ると、スタートも上手だし、折り合いもきっちりとついていたし、決して乗りにくい馬だとは思わないけど…本当のところは、横山和生騎手にしかわからない部分なので、横山騎手に訊いてみてください(笑)。
――タイトルホルダーに関していうと、最初は戸﨑圭太騎手で、横山武史騎手、田辺裕信騎手がいて、現在は、横山和生騎手です。それぞれ、先生から指示は出していたんですか?
栗田戸﨑騎手には、なるべく道中、折り合って、最後の直線をトップスピードで走れるように教えていきたいんだよね、という話はしましたね。
で、田辺騎手が、皐月賞で、先行して粘り込むというスタイルで 2 着に持ってきてくれて。そこである程度の自信は出来たんですが、この競馬でいいんだ! と確認が持てるようになったのは、横山武史騎手とのコンビで挑んだ菊花賞からです。
――タイトルホルダーの父はドゥラメンテ。母は、お義父さま、栗田博憲厩舎にいたメーヴェです。
栗田そうなんですよ!
僕にとって義父は、大きすぎるという言葉では言い表せないほど、もう、とんでもなく、大きな存在で。
タイトルホルダーが菊花賞を勝った時、その義父が、すごく喜んでくれて。「おめでとう!」言ってくれた時のことは、一生忘れないと思います。
――タイトルホルダーのことをあれこれ、いろいろ教えていただいたところで、最初の言葉に戻るんですが……いよ、いよ、ですね?
栗田凱旋門賞に関していうと、まずは、挑戦することを承諾してくださった山田弘オーナーには本当に感謝しています。感謝しか、ありません。
――僕が思うに、1番のポイントは馬場適正だと考えているんですが、先生から見て、馬場適正はある…という判断だったと思っていいんでしょうか?
栗田僕にとっても、タイトルホルダーにとっても、今回が初めての挑戦ですし、フランス競馬に携わっていたわけでもないですし、あるとか、ないとかは、今この時点で口にできることじゃないんですけど……。
――そう言わずに、教えてください。
栗田オーナーとも話をしたんですが、母系にヨーロッパの馬の血が入っていて、脚質的にも、前目で競馬が出来て、粘り込む脚があるという点においては、多少の優位性はあるのかなとは思っています。
希望的観測を込めて、ですけどね(笑)。
――ズバリ! 逃げますか?
栗田どうだろう!? 馬に訊いてみましょうか(笑)。
――ぜひ!
栗田僕からジョッキーにお願いしたいのは、逃げてもいいし、2番手からでもいいけど、この馬の持ち味を生かした競馬をしてほしいということだけですね。
それが出来ていれば、最終的に、逃げる、逃げないという判断は、横山和生騎手の選択に任せます。
(構成:工藤 晋)
栗田徹 くりた・とおる:1978年3月16日千葉県生まれ。日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)を卒業後、ノーザンファームで育成を経験し、JRA競馬学校に入学。卒業後、美浦・萩原清厩舎で厩務員を務め、栗田博憲厩舎で調教助手となる。2011年3月に独立し、美浦で厩舎を開業。2022年9月1日現在、通算の勝利数は、 JRA221勝、地方6勝。2021年の菊花賞を制したタイトルホルダーが、今年、天皇賞・春、宝塚記念も制覇。10月2日、パリ・ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞に挑む。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。