ゲスト 栗田徹 調教師
02. 狙うのは1着…先人たちの想いを胸に、いざ、勝負!
調教師は大変
――栗田先生は、何がきっかけで調教師を目指そうと思ったんですか?
栗田子供の頃から動物が大好きで。高校で馬術部に出会ったことが最初のきっかけです。中学では体操をやっていて、野球やサッカーも好きだったんですけど、うん!? 馬術部? なんだかよくわからないけど、面白そう…と思ったのが、今に繋がっている感じです(笑)。
――高校卒業後は、日本獣医畜産大学に進まれています。
栗田志望動機のひとつに、馬術部のある大学というのがあって。運よく合格して、馬術部に入部したら、調教師の先生や JRA の職員がたくさん関係していらして…そこで道が決まりました。
――ジョッキーという選択肢はなかった?
栗田なかったですね。というか、そもそも、体が大きかったから、選択肢のひとつにはなり得なかったというのが正解かな。
目指したのは、最初から調教師でしたね。
――実際に調教師になられて、思い描いて通りの世界だったのか、それとも、思っていた以上に大変な仕事だったのか。先生はどちらですか?
栗田声を大にして言います。これはもう、間違いなく後者です!
調教師って、馬の調教だけしていればいいんでしょ? と思っている方がいるとしたら、それは大間違いです。
もう、本当に大変なんですから(苦笑)。
――そんなに…ですか?
栗田毎日の調教スケジュールはもちろん、オーナーさんとのお付き合いもあるし、いい馬を探して牧場を駆け回らなくちゃいけない。厩舎に帰ると、従業員のことも心配しなくちゃいけないし、勝っても、負けても、すぐに次のレースのことを考えなくちゃいけない…。
もう、毎週が激動で、あっという間に 1 ヶ月が経ち、気がつくと、一年が終わっている。そんな感覚ですよ。
――休みはあるんですか?
栗田決まった休みはないですね。
時間が空いた時に、サウナに行ったり、調教師の仲間とゴルフに行って、珍プレーを見て笑ったり…コロナ禍でどこにもいけなくなった時に、ソロキャンプにハマりかけたんですけど、それも、ちょっと今は遠ざかっている感じです。
――先生が、ソロキャンプ!? マジですか?
栗田いや、でも、ソロキャンプといっても、携帯も繋がらないところで、ひとり、ゆったりとした時間の流れを愉しむ…というんじゃなくて、テントの中で、JRA-VAN をチェックしたりしていましたからね。調教師病ですよ(苦笑)。
最後は“頑張れ”としか言えない
――生まれ変わっても調教師になりたい?
栗田考えたこともないけど…きっと、そうなんだろうね。
今だったら、IT とか、パソコン関係の仕事とか、そういうのもいろいろとあるんだろうけど、競馬以外の仕事は知らない自分がやっていけるとは思えないし…なんだ、かんだ、言っても、馬が大好きだし、仕事が面白いから、やっぱり、調教師を目指すんじゃないかな。
――ギャンブラーを目指すというのは?
栗田ない、ない。それは、絶対に、ない。
慎重派だから、1 点勝負なんてとても出来ないし、どうだ! これだけ買えば外れないだろうというほどたくさんの馬券を買って、結果、儲からないどころか、マイナスになるというタイプなので(苦笑)。
ギャンブラーは無理ですね。
――考えてみると、調教師という仕事がギャンブルのようなものですしね。
栗田言われてみると、そうかもしれないですね。
だから、損しないように、毎日、必死になって頑張っている。
僕の頑張る原動力は、それかもしれないですね。
――もしも、ですよ。もしも、馬と話ができるとしたら、先生は何を話してみたいですか?
栗田調教の時だったら、調子を聞きたいですね。
――「今日はどんな感じ?」とか、「やる気ある?」とか?
栗田体調も気になりますね。
わずかでも悪いところを見逃すと、それが大きなことにつながる恐れもあるので、それを見逃さないようにするためにも、体調を聞いておきたいかな。
――レースでは?
栗田そこまで行ったら、もう、「頑張れ」としかいえないですね。
ツラいトレーニングを重ねてレースに臨むわけですから、そこからはもう、気合いだ! 気合いだ! 気合いだ! じゃなくて、「頑張って走って来いよ」という言葉しかないですね。いつも心で思っている言葉を、口に出して、送り出してあげたい。
――栗田先生らしいですね。
栗田いや、でも、調教師はみんなそうなんじゃないですかね。
考えてもみてくださいよ。
人間と違って馬は勝ってもご褒美がもらえるわけじゃないんですよ。それなのに、あんなに一生懸命に走ってくれて。
その馬たちにかけてあげる言葉があるとしたら、レース前だったら、「頑張って来いよ」だし、レースが終わったら、「よく頑張った、お疲れ様」しかないじゃないですか。
それでも、競馬は何が起こるかわからない
――先生が今まで見てきた中で、この馬は強かったなぁというのを一頭だけ挙げるとしたら?
栗田やっぱり、ディープインパクトですね。
種馬としてもすごいし、なんといっても、最後のあの脚は、本当にすごかったですよね。フォームも見惚れるくらい美しかったですし、一頭だけあげるとしたら、ディープインパクトです。本当にすごい馬だと思います。
――ディープのような馬を預かってみたい?
栗田…………調教師としては、そういう気持ちがないとは言わないですけど…同時に、大変だろうなとも思います。
預かってみたいという気持ちと、やめておこうという気持ちが半分、半分…いや、でも、預かってみたいという気持ちの方が強いです。
――そのディープでも勝つことのできなかった凱旋門賞が、もう、すぐそこまで迫ってきました。
栗田それを思うと…あのディープでも勝つことができなかったという現実を突きつけられると、凱旋門賞というレースが、とてつもなく高く思えて。もう遥か彼方…雲の上という気がしてきます。
――それでも、挑戦する以上、狙うのは1着?
栗田もちろんです。数多くの先人たちが挑戦し、その度に跳ね返されてきたレースを、ワンチャンスでものにできることだってあるのが競馬ですから。
――何が起こるかわからない?
栗田それが競馬です。
思い出してみてください。誰が有馬記念でディープインパクトがハーツクライに負けると思っていましたか?
タイトルホルダーも、セントライト記念では馬群の中に閉じ込められて、どうにもできなくなってしまったことがあるし、やってみないとわからないのが競馬ですから。
――それでも、勝つために必要なことは?
栗田よーい、ドンの競馬にはしないことですね。
一瞬のスピードで決まってしまうようなレースになったら、勝ち目は薄いので、この馬の特徴を活かした…スタートを決めて、持続力で勝負するような展開に持ち込むことが大事だと思います。
――最後に、もうひとつだけお伺いします。しつこいようですが、凱旋門賞は、逃げの競馬をしますか?
栗田タイトルホルダーに聞いてみます(笑)。
(構成:工藤 晋)
栗田徹 くりた・とおる:1978年3月16日千葉県生まれ。日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)を卒業後、ノーザンファームで育成を経験し、JRA競馬学校に入学。卒業後、美浦・萩原清厩舎で厩務員を務め、栗田博憲厩舎で調教助手となる。2011年3月に独立し、美浦で厩舎を開業。2022年9月1日現在、通算の勝利数は、 JRA221勝、地方6勝。2021年の菊花賞を制したタイトルホルダーが、今年、天皇賞・春、宝塚記念も制覇。10月2日、パリ・ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞に挑む。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。