ゲスト 菱田 裕二 騎手
01. テーオーロイヤルとともに掴んだビッグ・タイトルは、開業22年目を迎える師・岡田稲男調教師へ捧げる歓喜の宴だ!
勝利を確信したのは4コーナー
その瞬間、
四位さんの言葉を思い出していました
――天皇賞・春、優勝おめでとう!これで、ヒッシー(菱田裕二騎手)も、GIジョッキーの仲間入りです。
菱田ありがとうございます。
勝った瞬間も、もちろん嬉しかったんですけど、周りの方から、“おめでとう!”と声をかけていただけたことが、もう、最高に嬉しかったです。
――翌日のスポーツ紙は、ヒッシーとテーオーロイヤル一色でした。
菱田取り上げていただいた数多くの写真や動画を見て、あらためて、“すごいことをしたんだ”と実感しました。
――勝利ジョッキーインタビューでは、すごく冷静だなと思ったんだけど、拍手と歓声は、ちゃんと聞こえていた?
菱田聞こえていました。中には、他の馬の馬券を買っていた方もいたと思いますが、それは関係なく、みんなに祝福してもらえたことにジーンとしました。
――レースを振り返ってもらいたいんだけど、ノリさん(横山典弘騎手)がハイペースで逃げて、見ている方としては、“おお〜っ”という感じだったんだけど、そのあたりはどうでした。
菱田理想よりは枠順が外(7枠14番)だったので、いつも以上にスタートには気をつけていましたけど、ゲートを出てからは、テーオーロイヤルのストライドと走りを尊重しながら進めていこうと思っていたので、ペースは気にならなかったです。
――とはいえ、馬にとっては、キャリア18戦目で、はじめての京都コースです。
菱田まったく心配していなかったと言ったら嘘になりますが、地下馬道で跨ったときも、パドックでも馬は終始、落ち着いていて、返し馬のときも、歓声に動じることなくゆっくり歩き出していたので、これは大丈夫だと思いました。
――ヒッシーより、馬の方が冷静だった?
菱田ほんと、そんな感じでした(笑)。
――勝てると思ったのは、最後の直線?
菱田4コーナーですね。前を走るディープボンドに並びかけたときの手応えがすごく良くて。勝てるかも!? じゃなくて、勝てる!と思いました。
前日、四位さん(洋文調教師)から、「4コーナーをいい手応えで回ってくることが出来たら、後は気持ちいいだけだぞ」とアドバイスをいただいていたんですが、ほんと、その言葉通りでした。
現役を離れて4年も経つのに
いまだにジョッキーの感覚を覚えている
四位さんは、本当にすごいです
――四位さんからのアドバイス? 四位さんと、そんな話をするの!?
菱田はい。向正面から3コーナーにかけての上り。そこからの急な下り。4コーナーの回り方……ひとつ、ひとつ、細かく、丁寧に教えていただきました。
――意外と言うのは失礼だけど、ここで四位さんの名前が出るとは思いませんでした。ヒッシーから訊きに行った?
菱田ですね。デビューしてからずっと、京都の外回りコース、特に3コーナーから4コーナーにかけては苦手意識があって。天皇賞・春を前に、馬の状態に関しては何の不安もなかったんですが、唯一、そこだけが不安材料だったので、四位さんに相談に行きました。
――四位さんは、現役じゃないから教えてくれたのかな。
菱田そこは、わからないですけど……でも、現役のときでも、訊いたら教えてくれたような気はします。僕が訊きに行かなかっただけで……。
――ジョッキー同士で、そう言う話をするのは、タブーじゃない?
菱田それは、ないです。訊いたら教えてくれる先輩はたくさんいますから。ただ僕の場合は、そういうのがちょっと苦手で、豊さん(武豊)とか、上手い人のパトロールビデオを見て、何とか自分のものにしようと色々と試しては来たんですが……。
――出来なかった?
菱田だめでした。でも、天皇賞・春を前にして、このままじゃだめだと。僕のせいで勝てなかったら、馬にも、岡田(稲男)先生にも、オーナーにも、馬を応援してくれたファンの方にも迷惑をかけるし、ジョッキーとしては失格なので、四位さんに訊きに行きました。
――で、教えられた通りに乗ったら勝てた?
菱田ここは、こう。ここは、こんな感じでと、ジョッキー目線で、僕にもわかるように、ひとつ、ひとつ、丁寧に教えてくださって。ジョッキーから調教師になってもう、4年も経っているのに、いまだにジョッキー感覚を無くしていない四位さんは、本当にすごいと思います。
――後輩が、ヒッシーに訊きに来たら、それを教えてあげる?
菱田いえ、教えません。秘密にします(笑)。
――マジで!? それは、だめなんじゃないの?
菱田ハハハハハッ。嘘です(笑)。
四位さんほどうまく伝える自信はありませんが、教えていただいたことは、後輩にも伝えてあげたいと思っています。ジョッキーは、みんながライバルですが、同時に大切な仲間でもあるので、自分がしてもらったことは、何でもしてあげたいし、それが競馬の向上につながると思うので、京都外回りコース以外にも、訊かれたら何でも教えます。
天皇賞・春を勝ったという
その強烈な成功体験が
僕の体の奥に染み込んでいます
――最高のバディ、テーオーロイヤルとコンビを組んだのは、デビュー3戦目。初勝利を挙げたのは4戦目だったけど、当時は、どんな印象でした。これは、すごいぞ。ちょっと、違うぞという感覚はあった?
菱田はじめて乗ったときは、ものすごくトモが緩くて、歩いていても、走っていても、躓いてバランスを崩す馬だったので、乗るのが怖かった感じです。
――すごいじゃなく、怖い?
菱田そうです。ただ、心肺機能がものすごく強くて、調教で息が上がるということがなかったので、そこだけはすごいなと、みんなで話していた記憶があります。
――3歳秋から本格化。GIIIダイヤモンドSを含む4連勝で臨んだ天皇賞・春で3着に食い込み、競馬ファンの心をざわつかせました。
菱田そのあと、ちょっとパフォーマンスが落ちた時期があって、いまがこの馬の完成形で、これ以上、成長は望めないのかもしれない。だったら、少しでも好不調の波を少なくしていかないといけないのかなと思った時期もありましたが、約1年の長期休養を経て帰って来たとき、休養前を超える力で帰って来たので、これは、すごい馬だ!と、あらためてそう思いました。
――まだ、強くなる?
菱田僕はそう思っています。現在は、怪我で休んでいますが、秋にはさらに強くなって帰ってくると信じているので、僕自身が、強いテーオーロイヤルにふさわしいジョッキーになっていられように、日々、努力の毎日です。
――どのレースを使うか。選択が難しいですよね。
菱田距離は長ければ長いほどいいんですけど、長距離のレースがそれほど多くあるわけではないので、馬の体調を見ながら、というこことになるとは思います。
――秋の大目標は決まっている?
菱田軽い怪我……軽度の骨折ですけど、手術をしているので、いまのところはすべて未定です。
――GIジョッキーの仲間入りを果たしたことで、ヒッシー自身も、一皮剥けたというか、自信になったと思うんだけど、自分でもそれは感じています?
菱田具体的に、ここが変わった感じはまだないんですけど、強烈な成功体験は、体の奥に染み込んでいるような気がします。
レースに至る過程で味わった緊張感や、いい意味でのプレッシャーを感じながらレース当日を迎え、その中で、優勝できたという事実は、絶対にこれから生きてくるし、生かさなきゃいけないと思います。
(構成:工藤 晋)
菱田 裕二 ひしだ・ゆうじ:
1992年9月26日 京都府出身
初騎乗は2012年3月3日、中京1R、バトルマグマに騎乗(4着)。
初勝利は、12年4月14日、阪神1Rの3歳未勝利戦。パートナーは、トーブプリンセス
18年8月19日、アレスバローズで重賞初制覇(北九州記念)。
GI初騎乗は、13年5月5日のNHKマイルカップ(ディアセルヴィスで10着)
デビュー13年目、30回目のGI挑戦となった天皇賞・春をテーオーロイヤルで制し、GIジョッキーの仲間入りを果たした。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。