調教師。騎手。馬券を買う人。
馬主、実況アナウンサー。
そして、スターター。
様々な人の思惑、
推理、強い念が交差する時間。
当コラムは、
発走時刻1分前にまつわるコラムです。
第37回愛川 ゆず季 さま
『カーン』
ゴングが鳴り、対戦相手と向き合う。
10年以上前、私はプロレスラーだった。
愛媛県新居浜市で産まれ
18歳で上京して
グラビアアイドルとして仕事を始めた私は、
27歳で崖っぷちアイドルになり
プロレスラーになった。
新木場にある暗くて寒い
倉庫のような場所にあるリングで練習が始まる。
とにかく誰よりも練習し、
自分の直感で太く短く全てプロレスに賭けよう。
一日中プロレスのことを考えた。
顔がボコボコになろうが
身体がボロボロになっても勝つために
全力を尽くす。
試合開始1分前は、
とにかく無事に試合を終えて
控え室にもどれるよう
家からもってきた粗塩を
頭から全身に振りかけて
お祈りをする。
先輩レスラーから教えてもらった儀式だ。
控え室の緊張感につつまれた
この景色が今でも忘れられないし、
思い出すだけでナーバスになる。
ステージこそ違えど
『競馬』と共感するところがある。
競馬は、
お仕事で実際に直近でみさせていただいた際
まず、競走馬の肉体美に驚いた。
無駄のない身体と隅々まで
手入れされていているのが
一目でわかる艶と綺麗な瞳。
羨ましい。
あと、匂いが記憶に残っている。
私が近年競馬で印象に残っている
レースは2020年のジャパンカップ。
ジャパンカップが行われる前から
夫からこのレースが歴史に残るレースになる、
ということで何度も話を聞いていた。
3冠馬のアーモンドアイに
3歳3冠牡馬コントレイルと
3歳3冠牝馬デアリングタクトが挑む
という豪華なレース。
私は最強の男達に挑む女の子である
デアリングタクトの応援馬券を買った。
『アーモンドアイが2番、
コントレイルは6番。
こんなの2-6買うしかないでしょ!
運命だよ。』
そういって夫はアーモンドアイと コントレイルの馬連を買った。
というのも私の息子は6月2日生まれ。
そんな奇跡はさすがに起きないでしょ、
我が家の中でも馬券対決が繰り広げられていた。
そんな中、
ジャパンカップを制したのはアーモンドアイ。
そしてコントレイル、デアリングタクトと続いた。
記録と記憶にも我が家の思い出にも残るレースとなった。
プロレスでも同じことが言えるが
試合は沢山の方の協力の元に
そして、たくさんの方の人生が詰まって成り立つ。
わたしがプロレスラーになって
はじめて人間になれた気がした。と思ったほど
喜怒哀楽がある。
責任感、緊張感をもち
全力で挑んだ先に生まれる感情。
そのものがみている人の心を動かすのだ。
「発走時刻・1分前」
ジョッキーも競走馬も命懸けのレース。
安全に人馬共にゴールしてほしいと切に願います。
愛川ゆず季
※この記事は 2024年6月4日 に公開されました。