発走時刻1分前。
調教師。騎手。馬券を買う人。
馬主、実況アナウンサー。
そして、スターター。
様々な人の思惑、
推理、強い念が交差する時間。
当コラムは、
発走時刻1分前にまつわるコラムです。

第27回はせ星周せいしゅうさま

小説家

 発走時刻一分前

 わたしと妻はステイゴールドの血を引く馬たちを熱烈に応援している。
 購入する馬券のほとんどは、ステイゴールド一族絡みのものだ。当たったら嬉しいが、当たらなくてもかまわない。応援のために馬券を買っているからだ。
 わたしはせっかちな質なので、馬券購入は早めに済ませることが多い。締切時刻ギリギリまで頭を悩ませるということもない。ステイゴールド一族の馬券を買うのだ。購入点数も少ない。
 発走時刻が近づくと、わたしも妻もお祈りをする。ご存知の方も多いだろうが、ステイゴールドの血を引く馬は気性に問題を抱えている場合がほとんどだ。荒くれ者だったり、怖がりだったり、すぐにテンションが上がったり。
 だから、祈るのだ。
 無事、ゲートに入りますように。ゲートの中でも落ち着いていますように。ちゃんとスタートを切れますように。道中、引っかかったりしませんように。何事もなくゴールできますように。できれば、勝ちますように。それが無理でもいい着を拾えますように。
 発走時刻一分前は、だから、我々夫婦にとっては祈りの時間だ。
 一番重要な祈りは、何事もなく無事ゴールできますように、これに尽きる。ステイゴールド一族だけではなく、レースに出走する全馬のための祈りでもある。
 事故なく、怪我なく、無事に全馬がゴールする。すべてのレースがそうであればいいと心の底から願っている。
 祈り終えると、いよいよ競馬が始まる。
 わたしと妻はテレビの前で声を振り絞ってステイゴールド一族を応援する。わたしたちが住んでいるのは軽井沢の別荘地に建つ家だ。観光シーズンが終われば、周りの家は留守になる。好きなだけ叫ぶことができるのだ。
 夏の間は、つまり本格的な観光シーズンの間は、軽井沢から北海道の浦河町に移動して過ごす。わたしの生まれ故郷なのだ。浦河の家は町中にあるが、こちらは馬産地だ。土日の中央競馬開催中に叫びまくっても目くじらを立てられることはない。
 レースが終われば、すぐに次のレースがはじまる。我々は発走前に祈り、そして、レース中はステイゴールド一族を応援するために絶叫する。
 勝つことは少ないが、勝ったときの喜びは格別だ。
 競馬は実に楽しい。

※この記事は 2023年12月29日 に公開されました。


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