ゲスト 佐藤 伝二 さん、佐藤 万寿雄 さん
02. 最初に決めた予算は、自分の欲が含まれているんですよ。だから、2割、3割高くなるのは、しょうがないと思っています。
狙った馬は、絶対に逃さない
――セリも、時代とともに、変わって来ているんでしょうね。
伝二昔は殺伐としていましたね。途中から、セリに参加してくる人がいると、「てめぇ、このやろう! 表に出ろ!!」みたいな声が飛び交っていましたから(笑)。
――欲しいと思った馬のセリには、最初から参加していないといけない?
伝二漠然とですが、そういうのは、ありました。義理と人情もあったし、暗黙の了解というのかな、セリ場にはセリ場の、古くから受け継がれてきたルールがありましたから。
万寿雄海外では、待って、待って、待って、最後の一声でセリ落とすのも普通にですから。そういう意味では、最近は、日本も、そうなりつつあるような気がしています。
――腹の探り合いもあるんでしょうね。
伝二もちろん、ありますよ。でも、長くやっていると、この馬には、誰と、誰が参加してきて、どのくらいの予算を考えているかとか、そういうのが、なんとなく予想できるようになってくるんですよ。
――狙った馬をセリ落とすコツみたいなものはあるんですか。
伝二あります……とまでは、言えないんですけど、相手があることなので。でも、自分なりのやり方というのはあります。
――例えば?
伝二言葉で説明するのは難しいんだけど……そうですね、大きく分けると2つあって。静かにじわじわと上げていった方がいい場合と、いきなり、ぼーんといった方がいいケースがあるんですよ。
――ポーンといくというのは、絶対に譲らないからな! という気合いを見せつける?
伝二そうです、どこまででもいくからな!! という強い姿勢を見せるわけです。でも、それも、馬や相手、会場の雰囲気によっても変わってくるので、なんとも言えないんですけどね。
縁がないというのは、失敗なんですよ
――伝二さん、万寿雄さんの後ろには、依頼主がいるわけですから、当然、予算という縛りもあるわけですよね。
万寿雄ありますね。その中での駆け引きになるので、見ている人には面白いかもしれないですけど、こっちは必死ですよ。
伝二自分の場合は、まず、だいたい、これくらいという予算を決めて。それより、1割、2割高くなるのはしょうがないと思っています。
――予算をオーバーしてもいいと?
伝二最初にこのくらいと決めた金額というのは、自分の欲が含まれているんですよ。このくらいだったら、いいなという。
だから、そこから、2割、3割、高くなるのはしょうがないと。それが世間の評価ということですからね。そこまでは、頑張りますよ。あくまで、自分の場合は、ですけどね。
――それ以上になったら?
伝二悔しいけど、諦めます(苦笑)。
――これだけ長い間やっていらっしゃると、悔しい思いもたくさんされているんでしょうね。
伝二悔しいということで気持ちに引っかかっているのは、サンデーサイレンスの初年度産駒、宝塚記念を勝ったマーベラスサンデーですね。
――豊さんが、“幻のダービー馬”と言ったという、あのマーベラスサンデー?
伝二そうです。調教師さん、馬主さんと一緒に早田牧場に見に行ったんですけど、僕の目には、ものすごいいい馬に映ったんですけどね……。
――でも、買えなかった!? 理由は?
万寿雄大型馬によく見られるんですが、マーベラスサンデーも飛節の角度が深かったんです。成長するに従って、真っ直ぐになっていく馬が多いんですけどね。
――でも、ダメだった?
伝二この馬どうですかって勧めたら、反対に、「なんで、わざわざこんな馬を勧めるんだ」と怒られてしまったんですよね(苦笑)。
――他にもそういう馬はいますか?
伝二カブラヤオーもそうでしたね。
万寿雄馬って、普通は集団で行動するじゃないですか。でも、「カブラヤオーは、ポツンと一頭だけ、悠然と立っていたんだよ」という話を親父から何度も聞かされました。
伝二度胸があって面白そうな馬だから、買ったらどうですかって、勧めたんだけど、ダメでしたね。
――縁がなかった?
伝二馬喰として、縁がなかったというのは、失敗したということです。うまくいった話に光があたりますけど、そういう失敗の方がはるかに多いということです。
高額馬は、馬が良すぎるんですよね
――高額でセリ落とされた馬は、デビュー後、思うような成績が残せず、苦労している印象があるんですけど、それはどうしてですかね。
伝二馬が良すぎるんですよ。
――良すぎて走らない?
万寿雄平均点が高くて、誰が見てもケチのつけようのない馬体をしているんですけど、でも、そういう馬がGⅠを取れるかというと、これがそうでもなくて……。
伝二高い方が走るわけじゃないし、安い馬が走らないというわけじゃない。結局のところ、走ってみないと、誰にもわからないんです。わからないから面白いんだと思いますよ。
――優等生タイプの馬は、根性で這い上がってきた馬に、最後の最後には負けちゃうわけですね。
伝二それこそカツラギエースは根性の塊でしたね。
――ちなみに、ですが、お二人は馬券も買われるんですか。
万寿雄買います。買いますけど……。
伝二馬券は、当たらないなぁ。なかなか、キャプテンさんのようにはいかないですよ(笑)。
――何をおっしゃいますか(苦笑)。でも、パドックを見たら、ある程度以上のことはわかっちゃうんじゃないですか?
万寿雄動きや、毛づや、前回の比較などはしますけど、それで馬券が当たるかというとそうでもなくて。むしろ、返し馬の方が大切だと思います。
――そう……なんですか?
万寿雄1歩目、2歩目、3歩目……そこでどういう動きをしているかを見るのは、すごく重要だと思います。
伝二と言いながら、結局は、誰にもわからないんですよ、どの馬が1着にくるかは。だったら、自分の好きな馬、なんか、今日は走りそうだなと思える馬、やたら、かっこよく見える馬を買う方がいいと思いますよ。
――俺は、走るぜ! と胸を張っている馬ですね。
伝二そう、そう。そう感じたときは、買った方がいいと思います。ただし……。
――来るかどうかは、走ってみないとわからない?
伝二そういうことです(笑)。
(構成:工藤 晋)
佐藤 伝二 さとう・でんじ:
エーピーインディ、カツラギエースなど、数多くの名馬を見出した馬喰。現在は馬主。
佐藤 万寿雄 さとう・ますお:
父・伝二より引き継ぎ、福島県田村市で有限会社 佐藤牧場を経営。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。