【第2回】馬主は、現代の日本で唯一執事が通用する世界
お笑い芸人のキャプテン渡辺です。趣味は競馬にパチスロ、麻雀とギャンブル毎日三昧の私が切り込み隊長となって馬主、調教師、騎手に話を伺う『キャプテン渡辺のウィナーズサークル』。新型コロナウイルスの影響により、しばらくの間、更新をお休みさせていただきましたが、久々の登場です!

小説家・早見和真さんへのインタビュー2回目は、競馬を題材にした小説『ザ・ロイヤルファミリー』の制作秘話を中心にお話を伺いました。

※ インタビューは、新型コロナウイルス感染予防のため三密を避け、ソーシャルディスタンスをとって行いました。

馬主は、現代の日本で唯一執事が通用する世界

「馬主こそ現代の日本において唯一執事が通用する世界」と早見さん

渡辺:作品を書き上げる過程で、一番苦労したところはどこですか?

早見:レースシーンをどう面白がらせるかですかね。動きのあるものを文章で書くのはすごく難しい。そこはとても心を砕きました。

渡辺:小説の文体が終始誰かに語りかけるような切り口ですよね。あれは何か意図があったのですか?

早見:はい。馬主を主人公にすると決めてから作品をどう進めていこうか考えたとき、主人公自身の視点で書くのではなく、周辺の誰かに語らせたいと思ったんです。第1章ジョッキー、第2章トレーナー、第3章マネージャー…という群像も考えたんですけど、どれもなかなかしっくりこなくて。そんなとき、ふと『日の名残り』という小説のことを思い出して、「これだ!」と。

渡辺:2017年にノーベル文学賞を受賞している作家の作品ですね。いま Wikipediaで調べました。

早見:僕にとってとても大切な本です。カズオイシグロさんという方が書いた作品で、一昔前のイギリスのいい時代の名家に従事する執事の物語です。作品に出てくる一流の家庭を日本に置き換えようと思っても絶対に無理だと思ってたんですが、馬主こそ現代の日本において唯一執事が通用する世界なんじゃないかと気がついたんです。

渡辺:なるほど!

早見:担当者に朝イチで電話して今回の作品は『日の名残り』だと伝えたら、担当者も「それだ!」と同意してくれて。あの文体はそこからです。

渡辺:ボクは読んでいて、競馬初心者に競馬を教えるためかなとも思ってました。

早見:それもあります。『小説新潮』で連載中、仮想読者が2人いました。ひとりはトレセンの厩務員さん、もうひとりは本屋さんの女性店員。競馬のド玄人とド素人が面白がれば絶対に勝てる小説になると。

渡辺:反応はいかがでしたか?

早見:毎回違った視点での感想をもらってましたが、ダービーの回で二人の感想が完全に一致したんです。「小説を読んでダービーに行きたくなった」と。対称的な二人から同じ感想がきたことで、それまでの不安がほどけました。

渡辺:結果、競馬界からJRA賞馬事文化賞、小説界から山本周五郎賞を受賞ですものね。

早見:競馬村と小説村と2つの異なる業界から賞をもらったことで、狙っていたことがやれたんだなと自分でも納得できる気持ちになりました。

記号としてではなく物語としての年表

「1部から2部へのまたぎは絶対にやりたいと思っていた」(早見さん)

渡辺:作品は2部構成で、馬だけでなく人の継承も描かれてますね。

早見:第1部から第2部へのまたぎは絶対にやりたいと思ってました。馬と人の血が全部継承されていき、第2部のラストで子どもたちの夢を前の世代が打ち壊しにくるシーンは頭の中で最初から思い描いてました。

渡辺:2部の若い世代になると、これまでの慣例を嫌い古い世代をあれこれ言い合いながら乗り越えていこうとしますね。あの姿はいいですよね。ボクは古い世代が好きだから、どうしても親父世代に肩入れしちゃいます。小説に出てくる人物で一番好きなキャラクターは誰ですか?

早見:やっぱり山王耕造ですね。経営で成功した人ってどこか孤独で人を信用できないところがあって、だから裏切ることのない馬に想い入れるのかなと。山王耕造とはそういう人物です。実際は馬に裏切られ続けているんですけどね。

渡辺:作品についてひとつだけ言いたいことがあって、最後はやりすぎじゃないですか?(笑)。

早見:わかります。でも、あれは最後まで作品に付き合ってくれた読者へのサービスでもありました。

渡辺:あの年表に物語が凝縮している感じがしました。

早見:年表で小説を語ることを嫌う人は小説村にたくさんいると思っていました。でもあの年表は記号としての年表ではなくて、行間としての物語なんです。ここまで物語に付き合ってくれた読者なら、あの年表からその物語を読み取ってくれるだろうと思って入れました。

渡辺:ここまでやるかよって思いました(笑)。

早見:でも、前哨戦で負けてるんですよ(笑)。それに今年なんて無敗の牝馬三冠馬が登場した翌週に牡馬三冠馬が誕生し、さらにその翌週には八冠馬が出て、その馬同士がジャパンカップで激突です。小説で同じこと書いたら「これは嘘だろう」と言われることが現実で起きているので、ロイヤルホープだってロイヤルファミリーだってありえない話ではないですよ(笑)。


ゲストに聞くキャプテン渡辺のここだけの話

Q.自分でこの本を売るために帯を作るとしたら何と書きますか?
A.うーん...。「キャプテン渡辺大絶賛」(早見さん)

渡辺:それだと伝わるのは一部の熱狂的なファンだけですよ (笑)。

早見:帯はいつも編集部に任せてます。今回馬主さんのコメントを載せれるだけ載せたらどうかという案を提案したけど、却下されました。コメントを寄せた馬主さんなら、責任持って1000冊ずつ買ってくれだろうと思ったんですけどね(笑)。

渡辺:競馬ファンへ向けてだとパイが小さいし、一般の読者に目を向けてもらわないといけないし。

早見:かと言って著名人に書いてもらったからといって売れるわけではないですからね。帯って難しいですよ。


以下、次回につづきます

早見和真:1977年7月生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。『ザ・ロイヤルファミリー』で2019年JRA賞馬事文化賞、2020年 第33回 山本周五郎賞 受賞。『ぼくたちの家族』『小説王』『ポンチョに夜明けの風はらませて』など多くの作品が映像化。他の著書に『店長がバカすぎて』『神さまたちのいた街で』『かなしきデブ猫ちゃん』など。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。2015年度の船橋競馬場のイメージキャラクターを務める。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。
早見和真 『ザ・ロイヤルファミリー』

継承される血と野望。届かなかった夢のため――子は、親をこえられるのか? 2019年JRA賞馬事文化賞、2020年 第33回山本周五郎賞 受賞作。

早見和真 『ザ・ロイヤルファミリー』 | 新潮社 はこちら
※この記事は 2020年12月11日 に公開されました。

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