この私が切り込み隊長となって馬主、調教師、騎手に話を伺う『キャプテン渡辺のウィナーズサークル』。
菊花賞を制した手塚調教師へのインタビュー2回目。今回は手塚調教師がこれまで手がけた馬で印象深いアジアエクスプレスの話を含め、芝・ダート馬の適正の見分け方についてお話を伺いました。
芝、ダート適性の見極め方
渡辺:手塚調教師が手がけたG1馬の中で、アジアエクスプレスは特に印象に残っています。最初ダートを使って、そのあと初芝で朝日杯フューチュリティステークスを走って勝ちました。2歳の新馬戦の時点で芝を使うか、ダートを使うかはどう判断されるのですか?
手塚:まず第一に血統ですね。それから体型を見て、調教をしながらどちらがいいか判断していきます。
渡辺:とりあえず芝を走らせてみようとか、ダートでいこうとか、そういう場合もあるのですか?
手塚:そういう感じでは考えていないですね。調教していく過程で、この馬はダート血統だけども走りが軽いので芝を使ってみようとか、スタッフと相談して、オーナーとも話し合いながら決めてます。
渡辺:ちなみにアジアエクスプレスの場合はどうでしたか?
手塚:アジアエクスプレスはもともと北米のトレーニングセールの馬だったので、ダート適性は充分あると思ってました。馬体も540キロくらいで2歳馬離れしていたので、ダートでは走ると確証を得てのスタートでした。
渡辺:新馬戦に2走目のオキザリス賞もダートで圧勝でした。
手塚:そうですね。ただ走り自体は軽かったので、デビュー前から芝でも走れそうとオーナーには伝えてました。デビュー戦、特別レースとダートで勝たせてもらって、川崎競馬場での全日本2歳優駿を目指していたんですけど、抽選で外れてしまいまして。抽選と同じ週に朝日杯があったので、除外されたらそちらに行きたいと事前にオーナーには打診してました。
渡辺:なるほど。
手塚:芝でも走る自信があったというか。走りが軽いので芝でも大丈夫ですからとオーナーにお話させていただいていて、それがうまくハマったという感じですね。
渡辺:その走りが軽いというのは、具体的にどういうことでしょうか?
手塚:フットワークとかトビとかですね。掻き込み方であったり、スライドの伸ばし方が芝向きというか、とはいえ芝でも軽い芝が合う馬もいますし、重い芝の方が走りやすい馬もいますし、1頭1頭違うのでうまく説明しにくいのですが。
渡辺:そのあたりの感覚は馬に乗っている人でないとわからないところですよね。
手塚:基本的にスライドの大きい馬は芝向きだなという印象は受けます。フィエールマンの場合もスライドが大きく完歩が少ないので、芝の方が合ってますよね。
調教スタイル
渡辺:調教のスタイルは馬ごとに変えるのですか?
手塚:厩舎のスタンスとしてはある程度決まってはいるのですが、細部というか微妙なところで馬ごとに変えたりしています。
渡辺:外部から見ていると、調教ってどれも同じに見えてしまいます。例えば後ろ向きダッシュやらせたら強くなるんじゃないか、とか、見た目からして違う調教を試そうとかはないですか? もちろん例えばですけど(笑)。
手塚:実際、基本調教として後退調教をする厩舎もありますよ。馬の筋肉の使い方とか乗馬に長けている調教師であれば、後退も含めた基本運動を利用しながら競走によりよい調教をアレンジして取り入れていたりしていますね。
渡辺:そうなんですね。
手塚:でもやはり調教は馬の鍛錬なので、ある程度、競走馬に負荷をかける必要があると思いますね。真逆のことをしても無理だと思います。
渡辺:手本なり、参考とされた調教スタイルなどはありますか? 例えば関東だと藤澤和雄調教師の影響が大きそうですが。
手塚:馬のつくり方はいまも我々にも凄い影響を与えてますね。大先輩ですし、かなり手本にしています。
渡辺:調教スタイルもそれぞれ厩舎によって違いがあるのですよね。
手塚:新聞紙面では追い切りの時計や仕上げがメインになりますが、毎日毎日の調教の仕方は厩舎によって違いますし、調教も時計が良ければいいってわけではないです。ボクのように普段の調教も軽めというスタイルはあまりいないかもと自分では思ってます。
渡辺:そのスタイルは、これまで調教助手などで得た経験からですか?
手塚:そうですね。助手のころから、自分ならこういう調教したいなと思いながら調教してました。もちろん働いている身分なので、意見が合わないときでも先生の意見をしっかりと実行するよう心がけてましたけど、自分だったらこうしたいなと思っていたことを実践して失敗を重ねながらいまに至るという感じですね。