この私が切り込み隊長となって馬主、調教師、騎手に話を伺う『キャプテン渡辺のウィナーズサークル』。
カンニング竹山さんへのインタビュー。2回目の今回はグラスワンダーへの特別な想いについて語っていただきました。
今回のインタビューは「Gate J. (東京・新橋)」で行いました。
グラスワンダーとカンニング竹山
渡辺:竹山さんといえば、グラスワンダーとのエピソードも有名ですよね。
竹山:競馬で初めて見た重賞はネーハイシーザーが勝った毎日王冠なんだけど、ちょうどナリタブライアンの時代が到来していたころだった。そのときに好きになった馬がいて、皐月賞3着、ダービー4着のフジノマッケンオー。ブレイヴェストローマンの仔でね。初めて好きになった馬だった。
渡辺:周囲はナリタブライアン三冠で盛り上がっていた時期ですよね。
竹山:そう。でもオレはフジノマッケンオーを追いかけていた。そこそこ強くて重賞を勝ったりしたけど、それ以上なかなか強くもならずで。先輩芸人からも好きな馬をつくるとその馬ばかりに投資しちゃっうからよくないと教わり、それ以降は好きな馬は作らないようにしていたの。
渡辺:何歳くらいのときですか?
竹山:27、28歳くらいのときだね。私生活はボロボロだった。コンビ組んで芸人の仕事をしていたけど、ネタ作りもサボって適当に済ませてたし。ひらすら遊んで借金も増えていくばかりだったし。バイトして競馬している毎日で。バイトしたところでさ、お金は借金の利息で持っていかれてたから。利息だけで15万円くらい毎月払わないといけなかった。
渡辺:あまり人のことを言えないけれど、ボクよりも大変…。
竹山:そろそろ30歳が見えてきたし、芸人やめようかな、やめるしかないな、どうしようかなと思ってたときに、迎えた9月13日の中山競馬場だよね。そのときに新馬戦で出てきたのがグラスワンダーだった。
渡辺:1997年ですね。
竹山:前日の新聞を見ると、グリグリに印が付いているんだよね。なんだこの馬は? 父シルバーホーク? サンデーサイレンスと同じヘイルトゥリーズン系か。でも、そんなに強いのか?と思いながら競馬場に行ったわけ。そうすると馬体は栗色でキレイでさ。レースでも圧倒的に強い。当時、競馬歴で言えばたかだか8年くらいだったけど、オレがこれまで見てきた馬の中で初めてみる馬体の収縮力で。「こんなに柔らかいんだ」「こんなに走り方するんだ」と。前脚もモノ凄く駆くし、その走り方も自分にハマったわけよ。理想のサラブレッドの走りというか。そしてなおかつ強いでしょ。
渡辺:新聞の見出しでも10年に一度の逸材とか出てましたよね。
竹山:そのときにピンと思ったわけ。この馬は強い。スターになるはずだ。オレはこの馬にすべてを賭けてみようって。
渡辺:まさに一目惚れですね。
竹山:G1も獲れるだろう。大出世するだろう。ならばオレもこの馬と一緒に駆け上がりたい。この馬がダメだったら芸人を辞めよう。9月13日の夜にそう決めて誓ったわけ。そこから始まったのよ、グラスワンダーとの関係が。尋常じゃないくらいグラスワンダーを追いかけたし、グラスワンダーの好き度は馬を好きになるというよりも人間の女性を好きと同じ恋に変わっていたわけ。
1998年有馬記念
渡辺:そのあとすぐに、朝日杯3歳ステークス(現・朝日杯フューチュリティステークス)を勝ちますよね。マルゼンスキーの再来とも言われました。
竹山:オレはといえば、仕事はまだ全然うまくいってなかったけど、グラスワンダーが朝日杯を勝ったようにオレも絶対にいけるんだ、そう思ってた。でも、翌年ケガして復帰戦でも負けてね。そうすると、やっぱりそうだったのか、芸能生活、オレもスカウトで事務所に入ったりして最初は自分はすごいと思っていたけどライバルも次から次に出てきて。周囲はボキャブラ天国ブームでどんどんスターになっていくのに、オレはオーディションに落ちて番組にも出れず、走るところもない。グラスワンダーと似てるのかな、もう芸人辞めるかなと思って見に行ったのが1998年の有馬記念。
渡辺:毎日王冠5着、アルゼンチン共和国杯6着で迎えたレースでした。メンバーも揃っていたので当日は4番人気でしたね。
竹山:年の瀬でね。おそらくグラスワンダーは負けるだろう。もうへたしたら競馬を見ることもないだろう。年明けに相方とこれまで避けてきた真面目な話し合いをして、芸人を辞めると言おう。これで最後だ。そう追い詰められた気持ちで、有馬記念を見に中山競馬場に行ったわけ。そしたら直線でグラスワンダーが出てくるわけよ。そして1着になった。あれだけダメな状態だったのにG1の有馬記念で復活した。もしかしたらオレだって人生で大逆転のチャンスがあるかもしれない、いやグラスワンダーがやり遂げたようにオレにもチャンスが必ずあるはずだ、この馬がここで1着とったのだからオレも絶対に売れる、だからオレは芸人を辞めない、来年もやる。レースが終わったあと、そう決めたの。
渡辺:まさにある意味、人馬一体ですね。
竹山:そこから全部のトラブルがちょっとずつ解決し始めてきてね。借金もそうだし、別れ話も出ていたかみさんとの関係もそうだし。そういうのも含めて、いままでゼロだったものが一歩一歩ちょっとずつ回り始めてきた。
渡辺:でも、あのときグラスワンダーが負けてたら本当に芸人辞めてました?
竹山:辞めてた。東京に出て来るときに、30歳まで売れるか、売れなかったら福岡に帰って自殺するか、そのどちらかだと自分を賭けてたから。30歳までに売れないんだったら死ぬ、その意思だけはあった。有馬記念を見たあと、中途採用で入ってきたマネージャーの印牧と相方と3人で話をして、1年後にいまと同じ状態でまったく変わらなかったら3人とも辞めよう、その覚悟で今日からやろう、そう3人で決めた。そうしたら翌年、その次の年とちょっとずつ変わりだして。もうひとつ先に進んで、いまと変わるなら辞めなくてもいいんじゃない、となり始めた。
渡辺:本当にグラスワンダーがあっての、カンニング竹山さんですね。
竹山:グラスワンダーはオレの恩人だし、いまでも感謝してます。もしあのときグラスワンダーが馬群に沈んでいたら、カンニングという芸人のいまはなかったし、カンニング竹山も存在しなかったですね。
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