こんなわたくしでもいつか馬主になってダービー制覇したい!有馬記念を勝ちたい!ということで始まりました『キャプテン渡辺のウィナーズサークル』。
藤澤和雄厩舎へおじゃましてのインタビュー。今回は、これからの目標などをお聞きしました。
和田共弘オーナーは馬の扱い方について
とてもうるさかったですよ(藤澤)
渡辺:馬とのコミュニケーションが大事という話しでしたが、たとえばライアン・ムーア騎手がテン乗りでその馬に初めて乗る場合、馬はムーア騎手のことを知りませんよね。それでも1着にゴールしたりして。初めてまたがる騎手に馬が従うのはなぜでしょうか?
藤澤:騎手というのはパイロットと同じで、馬を自由に左右に動かせられるわけですよ。レースではパイロットが上手に馬を導いているわけです。騎手の腕っ節が強いとか、叩いたりして馬を走らせるのではなくて、馬の気分を損ねずにゴールへと上手に導いていけるのが、馬さばきがうまい騎手なんです。
渡辺:騎手によって上手下手があるのは、どのあたりなのでしょうか?
藤澤:渋滞に強いドライバーがいい騎手ですね。レースでは絶えず渋滞していて、出口が殺到している。その状態でどう上手く出口に誘導できるかですね。
渡辺:馬とのコミュニケーションでいうと、騎手も最近は馬にまたがるときに馬の首をポンポン叩いてから乗るようになりましたよね。
藤澤:外国人騎手だけでなく、日本人騎手も以前と比べてだいぶそう馬に声をかけてから馬に跨る騎手が増えましたね。
渡辺:以前は、あまりそういうシーンはなかったのですか?
藤澤:なかったとは言わないけれど、少なかったですね。
渡辺:調教の仕方などでも変わってきたところはありますか?
藤澤:私が調教師になりたてのころは、調教のときはステッキを持たなかった。ステッキを持つと馬が行きたがるからと持つなと言われていて、それが日本では一般的だった。なんでステッキを持っていけないのか、私にはあまり理解ができなかった。だって、調教ではステッキを持たずに、レースで馬をステッキで叩くわけでしょ。そうすると馬からしたら、ステッキは自分を叩くものになってしまう。ステッキでいじめられているように馬が感じてしまいます。でも、ステッキを使わなくてもステッキを持ちながら調教すればそれに馬は慣れてしまうし、馬にとってもステッキの意味が違ってくる。いまはステッキを持って調教するようになってきましたよ。
渡辺:藤澤調教師から見て、日本の調教もだいぶ変わってきたなと思うようになったのは、どれくらい前からですか?
藤澤:牧場や厩舎によってはまだまだだけど、若い人たちが調教師になり、変わってきつつあるけど、でもまだまだだね。
渡辺:勝手なイメージですが、外国の方がもっと雑に扱っているように思っていました。
藤澤:それでも、たとえばシンボリ牧場の和田共弘オーナーなどは馬の扱い方についてとてもうるさかったですよ。和田オーナーは自分で牧場も持たれていましたし、馬の調教にも携わってましたから、余計目についたことにはうるさかった。たとえば馬を馬房から出して、洗い場に馬をつないだまま1頭だけおいてけぼりにして他の作業をはじめたり、馬の体を洗ったまま乾燥させずにそのままにしておいたりなど、和田オーナーはそういう馬の取り扱いの未熟さに対してとても怒っていましたね。
渡辺:厳しい方だったんですね。
藤澤:厳しいというか、馬にとってはそれが当たり前ですからね。サラブレッドが高価だった時代があり、そのころと比べて今はたくさん持てるようになって、そうすると馬の頭数も多くなってきて、少し馬を粗末に扱うという面もでてきます。でも、馬主さんはその馬に期待をかけているわけだし、馬自体の寿命は20年くらいあるけれども、その中で競走寿命は1年とか2年とかとても短い。牧場でずっと調教してきたのに、厩舎に来て調教し始めたものの走らなくなってしまい数ヶ月で競走寿命が終わってしまう場合もある。だからこそ余計馬に手をかけなきゃ馬も可愛そうですよね。
渡辺:ちなみに調教師の考え方が変わってきている中、馬主さんの考えはどうでしょうか?(笑)。
藤澤:馬への見方が変わってきて、随分よくなってきたと思いますよ。馬が走らないから、なんとかしろと言う馬主さんもいなくなってきましたよ(笑)。
調教技術も含めて、
いい目標になるようにがんばります(藤澤)
「この年だから、誰も文句を言わない(笑)」と笑う藤澤調教師
渡辺:藤澤調教師の預かっている2歳馬で、期待の星はいますか?
藤澤:レイデオロの全弟レイエンダをさっき併せましたけど、よかったですよ。
渡辺:おお。期待できそうですね。もし来年ダービー制覇したら、兄弟での2年連続ダービー制覇で話題になりそうですね。噂ではフラットレーもいいと聞きました。どちらがよさそうですか?
藤澤:フラットレーもいいですが、でもまだどちらも子どもですから。この先まだまだこれからですよ。牧場でたくさん乗っていて健康な仔は、この時期はよく走るし体力もついている。でもこの状態だけでは競馬はできない。ここから1ヶ月以上調教していって、競馬を覚えていって、競走相手を負かさないといけない。馬たちに走るのを嫌いさせずに上手に走らせるようにもっていかないといけない。
渡辺:この仕事が毎年つづくわけじゃないですか。この仕事を好きでないと続けられないですよね。
藤澤:それはそうだね。
渡辺:藤澤調教師は、仕事が楽しそうに感じます。
藤澤:誰も文句を言わないじゃないですか(笑)。私もこの年ですから、もうオーナーもとやかく言ってもしょうがないやと思うだろうし。すごいラクですよ(笑)。陰では言っているかもしれないけど、もう少しで定年だからしょうがないと思ってるんじゃないですか(笑)。
渡辺:藤澤先生から見て競馬ファンとはどういう存在ですか?
藤澤:パドックでオッズを見ると、結構責任感じますよ。自分が管理している馬がレースに勝ったときはうれしいけど、これ一回くらい勝ったって、これまでの負けを全然取り返してないよと思っているだろうなと思ったりして。
渡辺:ゼンノロブロイ、シンボリクリスエス、ペルーサでやられた分は返ってこないですからね。
藤澤:そうそう。ダービー勝ったときも本当はこれ(ガッツポーズ)だったけど、みんな過去のことを振り返ってそう言ってるんだろうなと思って(笑)。
渡辺:たとえばファンの期待に応えてレース選択をするということはあるのですか?
藤澤:それはないけど、ただ人気とかは見てますよ。不人気のときに「この馬買っておいた方がいいんじゃないの」とか思うこともあるけど、着外になると「ファンはすごいなぁ」と思うし、オッズが1倍台で「大丈夫かよ」と思うときもあるけど本当に強かったりすると、「よく見ているなぁ」と思うことはある。
渡辺:オッズは気にされるのですね。
藤澤:パドックで人気がないと面白くないし、人気があると嬉しいんだけど、負けると人気にしすぎだよと思ったりして。人気って案外と気持ちに影響しますよ。
渡辺:最後にあと5年で定年ですが、この5年の間に達成しておきたい目標などはありますか?
藤澤:調教技術も含めて、若い人からいい目標になるようにがんばります。
渡辺:勝ちたいレースでないところがいいですね。今日はありがとうございました。私も取材で厩舎にきたときは馬に挨拶するようにします。
藤澤和雄調教師へのインタビューは今回で終了です。
次回のゲストは田中博康 調教師・林徹 調教師・和田勇介 調教師調教師です。