こんなわたくしでもいつか馬主になってダービー制覇したい!有馬記念を勝ちたい!ということで始まりました『キャプテン渡辺のウィナーズサークル』。
藤澤和雄厩舎へおじゃましてのインタビュー。3回目の今回は、日本と海外との調教技術や環境の違いなどを中心にお聞きしました。
調教技術で海外と日本を比べた場合、
どちらが上なのでしょうか?(渡辺)
「かなわないですよ、それは」と藤澤調教師。
渡辺:調教技術やもっと広い意味で調教の施設や環境も含めて、海外と日本と比べた場合、どちらが上なのでしょうか?
藤澤:かなわないですよ、それは。
渡辺:海外の方が上ですか?
藤澤:それはかなわない。お金がすべてではないけれど、海外だとレースの賞金安いのに馬が強いのはそれだけタフだからで、なんでそんな賞金が安い上にタフな馬がゴロゴロいるところに海外遠征をするのかなと思うこともありますよ。それくらい海外の方が上。
渡辺:海外ではどういう調教をしているのでしょうか?
藤澤:田舎の牧草地のようなところでしてますよ。自然の中で起伏もたくさんあり、調教場所はすごくタフ。
渡辺:場所以外にも日本と比べて違うのは、どのようなところでしょうか?
藤澤:たとえばイギリスと比べてみても、馬を取り扱うということでは、イギリスの方が先進国だし歴史もある。それにまず、馬を育てるのに長い時間かけていますよ。調教師さんも馬に対しては相当根気強い。馬の気持ちを待ち続けるし、せかして競馬に持っていこうとするのではなく、仕上がるのを待つ。それは今も圧倒的に日本と海外とでは違いますよ。
渡辺:日本もそうすればいいのに。
藤澤:いいか悪いかは別として、逆に海外だと未出走の馬がたくさんいますよ。これは競走馬としてふさわしくないから繁殖にしようとか。レースに出さずにそのまま繁殖にするケースも多い。レースを使うには賞金も安いし、どれくらい走る馬か未知数だから、何年もかけて育てるよりは走らせずに引退させようとかね。
渡辺:日本で同じことをしたら、馬主さんが怒りそうですね(笑)。
藤澤:でも大事なことですよね。馬に対して待つことをベースにしている。
渡辺:ボクは日本の競馬が施設も調教技術も、いまや世界トップクラスだと思っていました。
藤澤:競馬の施設では日本は優れている面はたくさんあるけれども、馬への接し方や、私も含めて動物を扱うにはまだまだ歴史がなさすぎますよ。
馬とのコミュニケーションは
とても大事(藤澤)
藤澤:馬との接し方といえば、向こうにいたときにイギリスの犬は吠えない、馬は蹴らないと教わったんです。
渡辺:それはどういう意味でしょうか?
藤澤:日本では以前、四足動物を「畜生」と言っていた時代があった。いまは変わってきましたけれど、かつては犬の仕事は番犬であって、猫の仕事はねずみ取りであって、という考えがあった。いまは家族の一員として犬や猫を彼氏や彼女というのが当たり前になったけど、昔はそれこそそんなことを犬や猫に対して言ったら、周囲からはなに気取って言われましたよ。それは馬でも同じでね。
渡辺:イギリスでは以前から動物に対してそういう考えがあったんですね。
藤澤:そう。馬を畜生とは言わない。それに朝、馬に会ったら「おはよう」と声をかけるところから始まる。
渡辺:馬とのコンタクトそのものが違うわけですね。
藤澤:そうなんです。朝、厩舎に来て「おはよう」とスタッフ同士が言うように、馬にも同じように「おはよう」と言う。
渡辺:そういう触れ合いは、馬にも伝わるものなのですか?
藤澤:もちろん。馬に「さぁ仕事に行こうか」とかコミュニケーションするのはとても大事ですよ。極端な話をするとかつては日本では馬に対して「ほらほら、早く仕事いけ」みたいなそんな感じで接触していたけれど、外国の場合「おはよう、機嫌いいかい? 今日はどうだい? そろそろいくか」と馬に声をかけて、馬具をつけて調教へと向かう。そのあたりが圧倒的に日本は負けていましたよ。
渡辺:そういう馬とのやりとりが、レースにもつながるのですね。
藤澤:一番大事ですよ。レースで苦しいとき、他の馬と競り合ってとき、ムチをたくさん叩いて、手綱をたくさん引いて「走れ走れ」とせかしても、「なんでオレが走らなければならないの」と思う馬もいるわけですよ。だけど日ごろ大事に取り扱われている馬は、指示だから従いますし、最後までがんばりますよ。「それ従わないのか、この野郎!」と怒ると、逆に余計ダメになってしまう。こんなこと言ったら馬券買っている人には怒られるかもしれないけれど、「今日は馬にやる気がなかったなぁ」という場合もあって。道中のいろいろな不利で「今日はなし」と思っちゃう馬もいるわけですよ。