ゲスト JRA競馬学校 小林 淳一 教官・阿部 尊留 教官
02. 優等生もいいけど、はみ出したところがあるくらいの方が人間としては魅力的だし、面白い!
自分に負けるな
――コバジュンさん自身、手のつけられない悪ガキだったと思いますが(笑)、この10年を振り返って、大変だったとなぁという生徒はいましたか?
小林いましたね(苦笑)。
阿部何人か、パッと顔が思い浮かびます。
小林でも、僕らの時代と違って、悪ガキというんじゃなくて、大変だった生徒の大半は、体重管理が原因です。
――競馬学校卒業時の上限体重は何キロでしたっけ?
阿部去年までは48kgで、今年から49kgですね。
小林僕ら教官としては、全員に卒業して欲しい、誰ひとりやめさせたくないというのが本音で。でも、体重管理は、結局のところ、自分でなんとかするしかない部分なんですよね。手助けしてやれないんです。
阿部最終的には僕ら教官がルールに従って処罰しなきゃいけないんですけど、処罰したいと思っている教官はひとりもいないですから。
小林だから、そうなる前に、「体重管理は自分だからね」と、口うるさいほどいうんですけど……やっぱり、自分に負けちゃう生徒もいるんですよね。
――育ち盛りですからね、食べたいという気持ちもわかります。
小林それは、そうなんですけど…。でも、何のためにここにきたのか!? 騎手になりたかったんじゃないのか? だったら、我慢するところは何がなんでも我慢しなきゃいけないだろう?って、僕なんかは思うんですよね。
阿部もっと、できるよね!? もうちょっと、頑張れるよね? という生徒も中にはいますしね。
小林そう。そういう生徒を見ると、生徒に対してそんな感情を持っちゃいけないのはわかりすぎるほどわかっているんですけど、でも、つい、イラッとしちゃうんですよね。僕も、まだ、まだ、です。
伸びる生徒とは?
――豊さん(武豊騎手)と、ユーイチさん(福永祐一調教師)が、口を揃えて、自分たちの頃より、今の子の方が断然上手い…と話していましたが。
小林全然、うまいです。それは間違いないです。
阿部訓練のレベルも上がっていますけど、それ以上に、そもそも入学した段階で、乗馬のレベルが上がってきていますから。
――いつ頃からそうなったんですか?
小林この年から突然…というんじゃなくて、徐々に、ですね。
阿部毎年、上がってきているので1年、2年で比較するとわかりにくいんですけど、10年前と比べたらものすごく変わっています。
――ゆっくりと、ちょっとずつ、時間をかけて変わってきた?
小林そうです。そこは、キャプテンのしゃべりと一緒です。
――なるほどね。僕の場合は、そのちょっとが、本当にちょっと…ハナ差くらいだから、10年経っても誰も気づいてくれない……って、何を言わせるんですか(笑)。僕が聞きたいのは、入学した段階で、“おっ! このコは!!”と思う生徒がいるのかどうかです。
小林いますよ。馬に乗るセンス、挨拶、日常生活、体重の自己管理…どれを取ってもトップレベルで、ほとんど叱られることがないという生徒は。
――そういう生徒は伸びる?
阿部伸びます。そういう生徒は考え方もしっかりしているので、プロとしてデビューしてからも、順調に勝ち星を伸ばしていきます。
――そうか、やっぱり、そういうものなんですね。
小林ただ、全員が全員、そういうわけじゃなくて。順調すぎることで、慢心とまでは言わないですけど、その気になってしまって、その後伸び悩む生徒もいます。
そういうのを見ると、“あー、もったいななぁ”と思いますけど、こればっかりは、体重管理と同じ自己責任なので、僕らには、どーしてやることもできないんですけどね。でも、もったいないです。
――逆のパターンは?
阿部それもあります。在籍時はあまり目立たず、“大丈夫かな?”と思っていた生徒が、プロになってからグンと伸びるということも、多くはないですが、います。
求む 乗馬未経験者!
――インタビューをしていて思うんですけど、最近のジョッキーは、みんな、喋りがうまいんですよね。
小林僕もそう思います。僕の現役時代に何度かインタビューを受けたことがあるんですけど、それはもうひどかったですから。ひどすぎて嫁にゲラゲラ笑われましたからね(笑)。
阿部実際にアナウンサーの方に来ていただいて、話し方や、言葉の伝え方なども教えていますし、挨拶、言葉遣い、礼儀はもちろん、普段から、ハキハキ話しなさいという指導もしている成果だと思います。
――ただね、みんな、同じなんですよ、話す内容が。「馬のおかげです」「乗せていただいたことに感謝しています」……そういう気持ちはもちろん大切だし、口に出すことも必要だとは思うんですけど…でも、もうちょっと、はみ出した部分があってもいいような気がするんですよね。その方が人間としての魅力があるし、面白いし。
小林確かに、それはあるかもしれないですね。タケシ(横山武史)のように、感情を素直に出した方がこっちにもその喜びが伝わってきますから。
阿部ただ、競馬学校としては、優等生を育てて、優等生として送り出したいというのが一方にはあって……。
小林とんでもない子を育てて、送り出すわけにはいかないですからね、そこは、難しいところです。
――こうして話を聞いていると、教官というのはすごく大変そうだけど、ものすごく面白そうですよね。
小林面白い!?
う〜〜〜〜ん、僕はまだそこまでは行っていないですね。面白いといえる域に達するには、あと、10年はかかると思います(苦笑)。
阿部技術的なこともそうなんですけど、先輩たちは、生徒の気持ちをつかんで、乗せるのがうまいんですよ。言葉の選択もそうだし、声を掛けるタイミングもそうだし…僕も早くそうなりたいんですけど…難しいですね(苦笑)。
――最後に、これから競馬学校に入りたいと思っている子どもたちにアドバイスをお願いします。
小林乗馬経験があるというのは、アドバンテージになります。でも、本当に騎手になりたいという思いがあれば、未経験というのは3年間で埋めることができるものなので、恐れないでチャレンジして欲しいというのはあります。
――そこは、すごく大事です。今、僕が15歳で、騎手になりたいけど、未経験だと無理だろうなと試験を受ける前に諦めちゃうような気がしますから。
阿部乗馬の試験もありますけど、そのほかにも、体力テストや面接があって、そこで光るものがあれば、僕たち教官も、「おっ!?」となるので、未経験でも、ジョッキーになりたいという強い思いを持った子には、どんどん受験して欲しいし、そういう子が増えたらいいなぁと思います。
小林大丈夫、未経験でも3年間で、ジョッキーになるための技術を教えられる先生たちはいっぱいいるので、勇気を持って挑んで欲しいですね。
(構成:工藤 晋)
小林 淳一 こばやし・じゅんいち:
1992年3月、JRA騎手としてデビューし、2012年3月の引退までに、JRA通算299勝。
主な勝鞍は、2003年の日経賞(GII)、ダイヤモンドS(GIII)など。
騎手引退後は、競馬学校の専任教官として多くの騎手課程生徒の教育に携わる。
阿部 尊留 あべ・たける:
2011年4月、日本中央競馬会入会。
馬事公苑勤務、馬事部馬事振興課を経て、2014年3月より競馬学校の教官を担当。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。