ゲスト チャクイウ・ホー騎手
02. 柔軟性は、誰にも負けない
日本と香港の競馬について質問攻めにした前編から続く、後編は――。
騎手になったきっかけから、プライベートまで、キャプテン渡辺が、ぐいぐいとその内面に迫ります!
苦労が少ないと、喜びも少ない
ーーホー騎手が、馬に興味を持ったのは12歳の頃…と聞いていますが、何か特別なきっかけはあったのですか。
C.ホー元々、動物が好きで。はじめて馬に乗ったとき、「あー、こんなにやさしい動物もいるんだ」と思ったのが、きっかけです。
それから本格的に乗馬をはじめ、16歳のとき、それまで通っていた高校をやめて、香港の競馬学校に入学しました。
ーー迷いはなかった?
C.ホーご存知のように、香港は自然豊かというよりは都会的な街で、馬に乗るということ自体が、すごく特別で、ずっと馬に関わっていたいと思うようになったんです。
ただ、香港では馬術のプロ選手というシステムがなく、馬に携わるとしたら競馬しかない。厩務員さんや助手という選択肢もありましたが、家族にも、親戚にも、馬に関係した仕事をしている人は誰ひとりいない僕では無理だろうと。
だったら、ジョッキーになろう! と。迷いはありませんでした。
ーージョッキーになってよかった! と思える瞬間は、どんなときですか?
C.ホーニュージランド、フランス、イギリス、アイルランド、アメリカ…ジョッキーとしていろんな国の競馬を経験できていることです。
勝てば嬉しいし、負ければ、悔しいーー。
単純なことで、喜んだり、悲しんだりできることに充実感を感じています。
もちろん、勝って喜ぶのが一番ですけど(笑)。
ーー逆に、ツラかったことは?
C.ホー香港でジョッキーになるためには、まず、香港の競馬学校を卒業して、そこから、ニュージーランド、オーストラリアに派遣され、そこで活躍してはじめて香港に戻ってジョッキー免許をもらえるというシステムで。
ーーそこも日本とは大きく違うんですね。
C.ホーそうなんです。競馬学校のときは、階段を上り下りするのもきつくなるほどの厳しいトレーニングをして。
海外では、知り合いがいないところで、すべてを一から覚えなくていけなくて…。
ーーホームシックになりませんでしたか。
C.ホーなりました(苦笑)。もう、早く香港に帰りたくて。家族や友達に会いたくて。でも、それは叶わない…という。
ーー乗り越えたホー騎手は、すごいです。
C.ホーでも、それで終わりじゃないんです。海外で認められて、香港に帰って騎手免許をもらえたんですが、エージェントが認められていない香港では、乗り馬を確保するために、全部、自分で交渉しなくちゃいけなくて。
人と会って、交渉して…というのが苦手な僕にとっては、かなり…いや、ものすごくキツい日々でした。しかも、です。
ーーまだ、あるんですか?
C.ホー香港ではレースを重ねながら馬の調子を上げていくというのが一般的で。実践を重ね、少しずつ調子を上げていき、“よし、次が勝負だ!”というときになると決まって、ベテランの騎手と乗り替わりになる。その繰り返しの中で、それでも、勝ち星を積み重ねていかなきゃいけないというのは、みなさんが思う以上に過酷です。
ーーそういうツラさも、楽しかった?
C.ホーいえ、ツラいのは、ただ、ツラいだけで、楽しくはないです(笑)。
でも、ひとつだけ言えるのは、ツラかった分だけ、苦労した分だけ、勝ったときの喜びも大きくなると思います。苦労しないと喜びも少ないですから。
柔軟性は、誰にも負けない
ーープライベートのことを少し聞いてもいいですか。
C.ホーはい。なんでも聞いてください。
ーーご結婚は…されているんですか?
C.ホー僕ですか? いえ、独身です。
ーーお〜〜〜〜〜っ! 僕と一緒だ! 明るい未来に向かってお互いに頑張りましょう!!
C.ホー…だといいんですけど。もしかしたら、結婚してからの方がいろいろと大変かもしれないですよ(笑)。
ーーう〜〜〜〜〜〜ん。なんだか、含蓄のあるお言葉だなぁ。
でも、それは、それとして、ホー騎手の趣味を教えてください。
C.ホー家族や友人と過ごすこと。飼っている犬と散歩に行くこと。F-1レースを見るのも好きだし、ボクシングも好きです。あとは時計を集めること…かな。
ーー多趣味なんですね。ちょっと、驚きました。
C.ホー最近は、セーリングにハマっています。とにかく時間がないのと、コロナ禍の影響で、思うようには乗れていないんですが…とにかく、楽しいです。
ーーセーリングって…船の?
C.ホーそうです。楽しすぎて、自分で船も買っちゃいました。
ーーマジ…ですか?
C.ホーまるで違うようで、セーリングと競馬は似ている部分が多いんです。
まず、自然を感じなきゃいけないというところ。相手にあわせなきゃいけないというのも、かなり似ていると思います。
ーーどういう…ことでしょうか?
C.ホーセーリングは、風邪や波に合わせることではじめて船は、前に進んで行くんです。競馬も一緒で、馬に合わせないと勝つのは難しい。同じ馬でも、日によって、調子も違えば、感情も、走りも違いますから。
もしも僕に、“これだけは誰にも負けない”というのがあるとしたら、相手に合わせるという柔軟性…人にも、自然にも、馬にも、すぐに合わせることができるというところだと思っています。
ーー今回、取得した短期免許の期間(7月30日−8月28日)がもうすぐ終わりに近づいてきました。
C.ホー日本ではたくさんの経験をさせていただきました。
必ずこの経験が、自分のスキルアップに繋がると思いますし、繋げなきゃ行けないと思っています。
ーーお土産は、もう買いました?
C.ホーまだです。
日本の馬具は世界一だというのをみんな知っていて、「お土産は馬具がいい」とあちこちから言われているので、馬具をいっぱい買って帰ります(笑)。
ーーそれは、いい! では、ホー騎手の夢を教えてください。
C.ホー世界で活躍できるジョッキーというのが僕の夢なので、チャンスをいただけるならまた日本に戻ってきて、今度は、GⅠレースにも騎乗できたらと思っています。
凱旋門賞、ブリーダーズカップ…乗ってみたいし、勝ちたい! その準備だけは怠らないようにしたいと思っています。
ーー今日はありがとうございました。最後に、日本のファンに、メッセージをお願いします。
C.ホー日本の競馬ファンの方たちには、競馬に対する情熱をありがとうございますと、感謝の気持ちを伝えたいと思います。
その情熱が、競馬に携わるすべての人たちが、持っているスキルをすべて出し切ることができる環境を作ってくれるのだと思います。
そんな熱い思いで競馬を愛してくれるファンは、世界中どこを探しても、日本だけです。
その情熱を持ち続け、日本競馬の発展につなげていってください。
みなさんに、また、お会いできるのを楽しみにしています!
(構成:工藤 晋)
チャクイウ・ホー Chak Yiu Ho:1990年5月25日 香港生まれ
16歳で香港ジョッキークラブの競馬学校に入学。香港2009/2010年シーズンにデビュー。2019年に、世界のトップジョッキーがその腕を競うシャーガーカップに世界選抜として参加。香港2019/2000年シーズンに、香港クラシックマイル、香港クラシックカップ、香港ダービーの香港4歳クラシックシリーズを完全制覇。2020年に、サザンレジェンドでGⅠ香港チャンピオンズマイルを勝つなど大きく飛躍を遂げ、2021年には日本から挑戦したラヴズオンリーユーに騎乗し、クイーンエリザベス2世Cを制している。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。