この私が切り込み隊長となって馬主、調教師、騎手に話を伺う『キャプテン渡辺のウィナーズサークル』。
内田博幸騎手にお越しいただいてのインタビュー2回目は、レース中の馬への接し方などを中心にお話を伺いました。
勝ち負け以外の喜び
渡辺:フェブラリーステークスは内田騎手自身も久々のG1勝利となったわけですよね。
内田:そうですね。
渡辺:2014年のヴィクトリアマイルのヴィルシーナ以来ですから、実に4年間、G1勝利から遠ざかっていたわけですが、その間、忸怩たる思いなどはございましたか?
内田:やっぱり騎手ですから、G1に乗りたい、勝ちたい、というのはありますけど、騎手ってそれだけではない部分もあると思いますね。
渡辺:といいますと…。
内田:競馬場でのレースは1日12Rで、その中で勝つのは各レース1頭だけですから。何百頭が負けていて、ましてや3着まで来れる馬、来れない馬、8着まで来て賞金を拾える馬、まるっきり来れない馬など、ひとつのレースで混じって走るわけです。同じ馬でも馬場が合う、合わない、距離が合う、合わない、あるいは馬の体調も前回とは違うわけですし。その中で自分が乗せてもらっている馬をどう結果に結びつけてあげるかが大事だと思ってます。8着まで入るのも難しい馬を、なるべく8着以内に来れるようにしたり。そのつもりで乗っていると今度はその馬が5着以内が見えて来たり、人気がないのに馬券圏内に入ることも出てきたり。
渡辺:なるほど。
内田:この前、二桁着順が続いていた馬を5着に持ってきたときがあって、レースが終わったあとスタッフや関係者の方が「こんなに走ったことがないのに」と喜んでボクを迎えてくれたことがあって、あのときは騎手で良かったと思いましたね。勝ち負け以外でも騎手は感謝されることもあるんだと、改めて感じました。
渡辺:ファンだけでなく、スタッフや関係者と喜びを分かち合えるときが一番嬉しいと言われる騎手も多いですよね。
内田:勝負の世界ですから勝つのが一番ですけど、それ以外の部分もありますね。そういう姿勢でコツコツレースを重ねて、重賞を勝って、G1に乗せてもらって、少しでも上にと思ってレースをしているとそういう機会も巡ってくるんだと思います。
馬を気持ちよく走らせるために
渡辺:でもファンは勝手なこと言いますよね。5着に来ても、おいおい、せめて3着に来てくれよとか(笑)。
内田:(笑)。直線でただステッキで叩けばいいというものではないですから。馬は生き物なので、ステッキを入れすぎてレースを嫌になってしまい次のレースでテンションが上って走らなくなることもある。難しいんですよ。
渡辺:馬券持っていると「もっと叩け!」と叫んでしまうんです(笑)。
内田:馬1頭1頭に感情がありますし、すごく繊細なところがあって、同じ馬でも1ヶ月前と今回のレースとでは気持ちが変わっているときもあります。馬が走るのに前向きになってくれないと、騎手がどんなに頑張ってもいい成績は残らないので、いかに馬にレースをしたいと思わせるかですね。気持ちよく走らせることがボクらの仕事でもありますし。
渡辺:メンタル部分は大事なんですね。
内田:大事です。走りたいと思わせるだけでなく、馬の管理ではレースに耐えられる身体づくりもしないといけないですから、神経を使いますよ。
「ステッキを入れればいいというものでないんです」(内田)
渡辺:レースでは外からでは見えにくい細かい馬とのやりとりもあるわけですね。
内田:そうですね。
渡辺:内田騎手が、騎乗技術でこの部分では技術的に他の騎手には負けない、といったところはありますか?
内田:うーん。どうだろう。馬の長所と短所を自分の手の内に入れるのはわりと早いと自分では思ってます。レースに勝たせられるとかそういうことではなくて、騎乗している馬が従順に心を開かせるというか、クセがある馬でも返し馬などで全部とはいわないまでもある程度手の内に入れる自信はありますね。
渡辺:その自信はこれまでの騎乗数からくるのですか?
内田:それもありますね。あと、地方で騎乗していた当時は、アラブ馬もいましたし、中にはとんでもない馬もいましたから(笑)。それを乗りこなしたり、ときには乗りこなせないときもありましたし。騎乗以外でも馬に腹帯をつけることもやらせてもらったりしてましたから。馬に初めて腹帯をつけて慣れさせるのは、本当に大変なんです。その前の日まで身体を触っても穏やかだった馬が、腹帯を付け始めるとそれが嫌だから立ち上がって人を蹴ろうとしたりする。
渡辺:そうなんですね。
内田:いきなりギュッと腹帯を締めるとトラウマになるので、最初は緩く締めて少しずつ少しずつ慣れさせて、牧場の方が苦労して馬を競走馬へと導くまですごく大変なんです。
渡辺:競馬場では騎手がスッと馬に跨るその裏に、そこまで馬を慣れさせる苦労があるのですね。
内田:中には切れた凧みたいにどこにいくかわからなくなる馬もいますから。そういう貴重な経験が他の騎手よりも自分にとってアドバンテージになっている部分はあると思います。