ゲスト 武 豊 騎手
02. 勝ちたい。とにかく、勝ちたい。それだけです。
ディープインパクトとサイレンススズカ
――今日は、どーしても、豊サンに訊きたいことが2つあって。
武豊キャプテンが僕に訊きたいこと? 怖いから、聞かなかったことにします(笑)。
――いや、ほら、よくいうじゃないですか、競馬は馬が7で人が3だって。あれは、どうなんですか。
武豊僕はもっと馬の比率が高いと思いますよ。
――えっ!? そうなんですか?
武豊例えば、馬8人2だとした場合、ゴールして、鼻差…わずか数センチで勝敗が分かれてしまうときなどは、その2がすごく大きくなってしまうんですけど。でも、馬7人3だとは思わない。もっと馬だと思います。
――もうひとつ。以前、雑誌のインタビューで、「ディープインパクトとサイレンススズカがレースをしたら、どっちが勝ちますか?」という、思いっきりストレートな質問に、「直線に入った段階では、2頭ものすごく離れているわけですよね、う〜〜〜〜ん、どうだろう?」と答えた後、最後は笑って終わり…というのがあって。今日はその続きをぜひ、伺いたいなと思っているんですけど。
武豊それは…難しいですよ(苦笑)。
ひとつだけ言えるのは、もしもディープに乗っていたら、サイレンススズカは一番嫌なタイプの馬だし、その逆で、サイレンススズカに乗っていたら、ディープのようなタイプは嫌ですよね。
どっちも強くて、普通なら負けない馬でしたけど、“負けるとしたら、あの馬だろうな”という、お互いがそう思う馬でしたね。
――結果は神のみぞ知る、ということですね。
武豊実際には実現不可能なことなんだけど、競馬が面白いのは、どっちが強いんだという話題で、何時間でも、なんだったら、朝まででも酒場で盛り上がれるところですよね。
――そうなんですよね(笑)。
調教師転向? 今は、考えていません
――若い頃は、キャーキャー言われた豊サンも、3月15日で54歳。20代、30代の頃とは、ずいぶん、変わったんじゃないですか。
武豊そりゃ、これだけ長く乗っていると、いろいろありますよ。
お酒も弱くなりましたしね(笑)。――年上は、柴田善臣騎手、横山典弘騎手、熊沢重文騎手、小牧太騎手の4人だけです。
武豊今、こうして、中山馬主協会さんに取り上げていただいていますけど、馬主さんも、僕より若い方がたくさんいらっしゃいますからね。
スペシャルウィークのレースを見て、将来、馬主になろうと思いました…とか、そういう言葉を聞くと、時の流れを感じます。
――確かに。でも、豊サンは、65までは乗るんですよね?
武豊いや、それは…わからないです(苦笑)。乗れたらいいなぁとは思いますけど、先のことはわからないですから。
――トップジョッキーのまま調教師に転身した福永祐一騎手の例もありますしね。
武豊よく聞かれますからね、「福永さんに続いて、武さんも、ですか」と。
――え〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!? まさかの、調教師転向宣言…ですか?
武豊いや、ないです、ないです(苦笑)。
少なくとも現時点では、そういう考えは、まったくないです。
――現時点ということは、その先は、もしかして…ということもあるとか?
武豊どんなことでも、100%というのはないですから、絶対にないとは言い切れませんけど…単勝1倍台の圧倒的な大本命馬が負けることだってあるわけだし。
今、言えるのは、ジョッキーという仕事が楽しいということだけです。
――“たられば”も、“もしも”もないことはわかった上で聞きたいんですけど、もしも、今、18歳の武豊少年が騎手としてデビューしたとして、4400勝出来ると思いますか。
武豊いや、もっと勝つでしょう(笑)
――え〜〜〜〜〜〜〜っ!? もっと、勝てますか?
武豊それは、そうですよ。失敗したことをやめていけばいいんですから。
――4400勝しているけど、失敗も多かったと。
武豊それだけたくさんの馬に乗せていただいてきたし、いろんなことにトライもしたし、チャレンジもして来たので、今、思うと、あれは失敗だったなぁとか、こうしておけばよかったなぁと思うことはたくさんあります。
もっとも、それがあっての今なんですけど。
出て来い、次の武豊
――失敗かどうかは別にして、92年の第44回有馬記念、写真判定の末、的場騎手が騎乗したグラスワンダーに、鼻差屈したスペシャルウィークのレースも、もう一度、やったら勝てる?
武豊自分だけがあのレース内容と結果を知っているという前提だったら、間違いなく勝てます。その前提なしにということでしたら…やってみないとわからないですね。
――競馬は何が起こるかわからない?
武豊わからないです。ひとつだけ、あのレースの教訓として、ひとつだけ言えるのは――。
――なんでしょう?
武豊鼻差のときは、ウイニングランはしない方がいいということですね(笑)。
――はははははっ。そういえば、豊サンがウイニングランから戻った直後、電光掲示板に着順が表示され、場内が騒然となったんですよね。
武豊僕自身、勝ったという感触はあったし、的場さんも、「豊の勝ちだ」って言っていたんですけどね。
そこから学んだ教訓が――。
――鼻差のときは、ウイニングランをしちゃいけない!
武豊そうです(笑)。
――もうひとつ、ディープインパクトが、今年デビューするとしたら、それでも、当時と同じように、ぶっちぎりの競馬になるんでしょうか。
武豊だと、思います。抜けて勝つと思いますよ。
――日本競馬全体のレベルが上がっていても、やっぱり、そう何ですね。ディープを超える馬を見てみたいんですけど、難しそうですね。
武豊簡単ではないですね。でも、これからの日本の競馬のためにも、出て来てほししい、出てこなきゃいけないと思います。
――武豊を超える騎手も?
武豊簡単だとは思わないけど、でも、僕に出来たんですから、出て来ますよ、きっと。不可能なわけじゃないですから。そうやってすごいジョッキーが現れて、その比較対象として僕の名前が出てくるとしたら、それは、全然、嫌じゃないし、むしろ嬉しいです。
武豊を超える騎手は出て来ると思うし、出て来て欲しいです。
――将棋界では、羽生さんと藤井聡太さんの戦いで盛り上がっていますが、競馬でもそういう戦いがあると、今以上に、さらに盛り上がります。
武豊現役でいる以上、若いジョッキーの壁になりたいと思いますし、すごいなという日本中が注目するような、夕食のときに、話題に出るようなジョッキーに、どんどん出て来てほしいですね。
――でも、負けないぞ! と。
武豊もちろんです。
フランキー(L・デットーリ)だって、R・ムーアだって、悩むときも、凹むときもあるだろうけど、それでも、みんな前を向いて一生懸命やっているわけですから、僕だって負けていられません。
――目指すべきところは?
武豊未勝利も、重賞も、海外のGⅠも、とにかく勝ちたい。それに尽きます。
特に凱旋門賞は、自分がここまでやって来たものもあるので、勝ちたいという思いは強いです。
勝ちたい。
とにかく、勝ちたい。
それだけです。
(構成:工藤 晋)
たけ・ゆたか:
1969年3月15日生まれ 京都府出身
父は“ターフの魔術師”と称された武邦彦。
1967年にデビューし、69勝を挙げ自身最多勝記録を更新。
日本ダービー6度の制覇をはじめ、数々の記録を打ち立て、
“日本競馬界の至宝”“日本競馬界のレジェンド”と称される。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。