ゲスト 石川 裕紀人 騎手
02. 底が見えない。伸びしろしかない。ジュンライトボルトはさらに強くなります。
デビュー当時は、先輩から、めっちゃ叱られました(苦笑)
――石川騎手がジョッキーを目指したきっかけを教えてください。
石川おじいちゃんに父親、母親と、石川家は競馬大好き家族で。その影響かどうかはわかりませんが、4、5歳の頃には、もう、ジョッキーになりたい、なるんだ! と思っていました。
――石川騎手が4、5歳というと…。
石川うっすらと覚えているのは、角田先生(晃一)がジャングルポケットで勝った日本ダービーです。
――おーっ! 皐月賞を圧勝し、絶対的な本命と言われていたアグネスタキオンが屈腱炎で出られなかったあのダービーですね。
石川そうです。2着が、河内先生(洋)のダンツフレームで、3着が江田照男さんのダンシングカラー、4着がK.デザーモのボーンキングで、5着が武豊さんのクロフネです。
――そこから競馬一直線?
石川はい。デビュー当時は、馬をうまく制御できずに、先輩たちからめっちゃ叱られたり、こんこんと説教されたり…いろいろありましたが(苦笑)、思い返してみると、すべてがいい経験になっています。
――やっぱり、叱られるんですね?
石川ここまでは許されるけど、ここからは許されないという一線があって。ジョッキーは1レース、1レース、そのギリギリのところで勝負しているので、ひとつのミスが、最悪、馬の命、人の命にも関わってくる。そこまでいかなくても、怪我が長く続いて、馬生や、騎手の人生をくるわせてしまうことだってある。
技術の未熟さや、考え方の甘さでその線を超えてしまったとき、きちんと叱ってくれる先輩がいるというのはすごく大事なことだと思います。
――叱られて覚えていく?
石川僕もそうやって覚えていきましたから。叱られたり、お説教されたり…それがあったから、いまは、そういう世界に身を置いている、そういう世界で勝負しているんだということを、常に意識して乗れるようになったと思っています。
――言葉としては理解できるけど、実際のところは、ジョッキーにしかわからないところがあるんだろうね。
石川だと思います。みんながライバルだけど、みんなが信頼できる仲間…その中で、ぶつかり合うジョッキーという仕事は、すごくやりがいがあるし、楽しいし、最高の職業だと思います。
頭を柔軟に、視野を広く
――ずっと以前からジョッキーに聞きたいことがひとつあって。よく、“折り合いをつける”っていうじゃないですか。あれって、どういうことなのかなと思っていて。力で馬を押さえつけるということじゃないですよね?
石川力じゃ、絶対に馬には敵わないですから、力じゃありません。手綱を通して、騎手の意思を馬に伝える…僕の中では、バランス感覚を含めた、馬乗りとしての感性、感覚だと思っています。ただ……。
――ただ?
石川人によって、考え方も、やり方も、感覚も違うので、いろんなジョッキーに聞いてみたほうがいいと思います。
――訊けば教えてくれるものなの?
石川みなさん、教えてくれますよ。若い頃は特にそうですが、いろんな人に聞いて、引き出しをいっぱい増やして、そこから自分に合ったやり方を探すというのがいいんじゃないかと思います。それくらい、みなさん、違いますから。
――もうひとつ、最近の競馬は内が有利だと言われているけど、実際、乗っている人間は、どう感じているのかをずっと知りたいと思っていて。
石川以前は、開催日数が進むにつれて、内の芝が傷んでいましたけど、改良に改良を重ねた努力の結果、いい状態のままキープできるようになったので、内を走った方がいい結果に結びつくというのはあると思います。
――やっぱり、そうなんだ。
石川と言っても、有利な内に殺到し、結果、どん詰まって、前が開かないということもありますし、スッと外に持ち出した馬が、まとめて前をかわすというレースもたくさんありますから、ジョッキーも、馬券を買う人も、固定観念に縛られると、痛い目を見ることになると思います(笑)。
――その危険を回避するには?
石川頭を柔らかくして、広い視野で見ることが大切だと思います。それと、もうひとつ、勝っても、負けても、それも競馬だと思い定めることです。競馬は何が起こっても不思議じゃないし、最後の瞬間まで、何が起こるかわからないですから。
――とはいえ、やっぱり、内が有利は変わらないんだよね?
石川大きく分けると、芝は、そうですね。でも、ダートは違います。中でも、スタートが芝コースから始まる中山のダート1200mは、外が有利です。
――ホントに?
石川中山は向こう正面の直線が長いので、内を見ながら最終コーナーに入っていける外が有利です。距離的にはロスしますが、外だと、砂を被ることもないので、僕は外が好きです。
――いいことを聞きました! 中山のダート1200mは、石川くんから買います!!
石川そういうときにかぎって、内枠を引いたり、外に出したのに馬が伸びないということもあるので、程々でお願いします。
――それも競馬だと?
石川はい。それが、競馬です(笑)。
友道先生には感謝しかありません
――チャンピオンズカップに戻りますが、ジュンライトボルトがダートに転向したのは昨夏、福島のリステッド競走、ジュライステークスからで、石川騎手とのコンビもそこからスタートしています。
石川なぜ僕だったのか!? 友道先生に伺ったことはないので理由は分かりませんが、多分、たまたま…だったんじゃないかと思います(苦笑)。結果は6番人気の2着。初ダートでしたが、返し馬のときから適性はあると感じていて、実際、その通り、100点の競馬は出来たと思います。
――続く、新潟のBSN賞、中京のGIIIシリウスステークスを連勝しました。
石川馬の力は全部、引き出すことができたら勝てるだろうなと思っていたBSN賞は、すべてがパーフェクトで、完勝と言ってもいいレースで、1馬身4分の3という着差以上に強い競馬をしてくれました。
――初重賞制覇となったシリウスステークスでは、さらに強くなっていて、誰もが、“むむっ、これは”と感じたと思います。
石川ジュンライトボルトは、4コーナーの加速力がすごいんですよ。それを最大限引き出すためにどう乗ればいいのか。どの位置で競馬をするのがベストなのか。そこまでの道筋をきちんと描ければ、結果はついてくるという自信はありました。
――そして、勝利ジョッキーインタビューで、最後に言ったのが――。
石川「GIも見えてきました」って、言ったんですよね。覚えています。
――それだけの自信があった?
石川それまで、GIを勝ったことがなかったので、どれくらいその言葉に現実味があるのか、馬より僕の方が緊張していましたが、少なくとも、この馬の競馬ができれば、負けないとは思っていました。
――チャンピオンズカップを含めて、友道先生から、“こう乗ってほしい”という指示はあったんですか?
石川初めて僕がジュンライトボルトに乗せていただいたときから、“任せる”と言っていただいて。ジュンライトボルトにも感謝していますが、友道先生、オーナー、スタッフのみなさんにも、感謝しかありません。
――さぁ、そこで気になるのは、今後です。
石川底が見えないというか、伸びしろしか感じないので、これからさらに良くなっていくと思います。
――サウジカップ(2月25日、キングアブドゥルアジーズ競馬場)に出走する方向で調整を進めているというニュースが出ていたけど。
石川海外でも、力さえ出せれば、勝ち負けになるはずです。
――結果や体調次第では、ドバイワールドカップ(3月25日メイダン競馬場)という夢も広がります。
石川誰が乗ることになるのかわかりませんが、ジュンライトボルトは、それだけの力を持った馬だと思います。
――石川騎手に、騎乗依頼が届いたら?
石川最高に嬉しいです。僕が乗りたいです。ジョッキーならそれは誰もが思うことだと思います。でも、コース経験あるジョッキーが乗ることになっても、ジュンライトボルトを応援する気持ちは変わりません。
――今日はいい話を聞かせてもらって、ありがとう! お母さんにもよろしくお伝えください。
石川えっ!? なんですか、それは?
――競馬場で、石川騎手のおかあさんに挨拶されたことがあって。「裕紀人の母親です。いつも裕紀人がお世話になっています」って。
石川ホントですか?
――うん、マジで。
だから、お母さんに、僕は元気ですと伝えておいてください(笑)。
(構成:工藤 晋)
いしかわ・ゆきと:
1995年9月22日生まれ 東京都出身
美浦 相沢郁厩舎所属
2014年3月1日、中山競馬第7競走で初騎乗。
初勝利は、47戦目となる、日本ダービーが行われた6月1日の東京競馬第2競走。
目標とする騎手は、ライアン・ムーア。
2022年のチャンピオンズカップで、ジュンライトボルトに騎乗し、デビュー9年目にして初のGIタイトルを奪取した。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。