ゲスト 黒岩 悠 騎手
02. 一日、一日、明日のことを考えながら、今日を頑張る!
後半のインタビューでは、武豊騎手が厚い信頼を寄せるキタサンブラックの調教騎手としての顔、ひとりの騎手としての顔に、キャプテン渡辺が迫ります。
はじめて跨ったキタサンブラックは
おデブちゃんで鈍足だった!?
――黒岩騎手といえば、もうひとつ、歴史に名を刻んだ名馬、キタサンブラックの調教騎手を務められたことでも有名です。その話を聞かずに、このインタビューを終えることはできません。
黒岩なんでも訊いてください。相手がキャプテンさんでも、言えないことはありますが、それ以外でしたら、なんでもお話しします。
――ズバリ!訊きます。引退セレモニーで、豊さん(武豊騎手)が、「黒岩騎手の指示通りに乗ったら勝てました」と言っていましたが、あれは?
黒岩いきなり、それですか!? あれは、豊さんお得意のジョークに決まっているじゃないですか。豊さんにしか言えない、豊さんだから言えるジョークですけど……やめて欲しかったです(苦笑)。
――ははははは(笑)。では、いまの質問はなかったことにして(笑)。黒岩騎手が、清水久詞厩舎の調教騎手をするようになったきっかけから教えてもらえますか。
黒岩先生が厩舎を開業して、2年目だったと思います。「やってみないか?」と声をかけていただいて。全然、勝てなくて、引退が頭にちらついていたときだったので、「僕の方こそ、ぜひ、お願いします!」という感じでした。
――豊さんが、テレビ東京で放送された『武豊 -THE ORIGIN- 〜始まりの地・函館〜』の中で、印象に残っている馬として名前をあげたトウケイヘイローも、黒岩騎手が調教をつけていたんですよね。
黒岩はい。トウケイヘイローの背中も、いい背中でした。
――そして、なんと言っても、キタサンブラックです。最初に見たキタサンブラックは、どんな馬でしたか。印象から教えてください。
黒岩これはまた、でっかい馬が入って来たなぁと(苦笑)。で、跨ってみると、いい背中はしているんだけど、それ以上に、おデブちゃんで、鈍足で(苦笑)。う〜〜〜〜〜〜んという感じでした。
――え〜〜〜〜〜っ!? そんなに酷かった?
黒岩いちばん最初は、坂路だったんですけど、軽快に駆け上がるどころか、自分の体を支えきれず、ヒィヒィ言いながら、やっと上り切った感じで。みなさんが知っているキタサンブラックはまるで別の馬でした。
大変身したのは菊花賞前の調教
まるで別の馬になっていました
――デビューから3連勝していますが、馬はどこで変わったんでしょう?
黒岩調教をこなし、レースを経験するようになって、目に見えて、どんどん良くなっていたんです。でも、それでも、どこか抜けきらない感じはずっとあって。それが一変したのが――。
――夏休みの放牧がプラスに働いた?
黒岩いえ、たっぷりと休養を取り、さらに太って帰ってきたキタサンブラックは、とても走れる状態ではなくて。「勝つのは難しいと思います」と清水先生に伝えたほど、調教ではまったく動いてくれなかったんです。
――そんなに、ですか?
黒岩はい。言葉を選ばずに言うと、馬というより、牛でした(苦笑)。
――ははははは。それは、ひどい。
黒岩でも、なぜか、勝っちゃったんですよね。ほんと、マジックを見せられているような気持ちになって。厩務員さんとも、「あれでも、勝っちゃうんだ……」と、顔を見合わせ、首を捻るほどでした。
――ということは、仮面ライダーのような大変身をしたのは?
黒岩菊花賞前の調教です。ある日突然、体を覆っていた脂肪という名の皮がバリバリと音を立てて削ぎ落ち、筋肉に覆われた鋼の肉体が現れたような感じになったんです。
――漫画に出てくるみたいな?
黒岩はい、マンガみたいでした。
――そこからの活躍は説明する必要がないほどですが、黒岩騎手から見て、キタサンブラックの強さの秘密はどこにあったと感じていますか。
黒岩オンとオフがはっきりしていたことですかね。調教とレースでは、まるで違う馬でしたから。変わり方はすごかったです。
――それが強さの秘密?
黒岩そこも含めた、バランスの良さですね。弱点という弱点がほとんどない馬でした。敢えてひとつだけ気になることを挙げるとしたら、最後まで、トモがパンとしないままだったことです。放牧から帰ってくるたびに、「これで大丈夫なのかなぁ」と気になっていましたから。あの強さで、トモがパンとなっていたら、どこまでと強くなるんだろうと思うことがあります。
目指すは、暮れの中山大障害!
――黒岩騎手は、競馬学校18期生ですよね、同期は?
黒岩10人いましたが、関東で残っているのは、田辺(裕信)と五十嵐(悠祐)の2人で、関西は僕だけ。騎手を引退した7人は、それぞれ、調教助手として頑張っています。
――そうか、田辺騎手と同期なんだ。
黒岩競馬学校時代は、成績はドベの方で(笑)、いつも教官に叱られていましたが、今じゃ、同期の期待の星ですからね。すごいですよ。
――ここだけの話ですが、誰からも愛されるおバカさんキャラですよね(苦笑)。
黒岩ははははははっ。そうです、そうです!ほんと、あいつは、そういうやつなんです。この話を聞いたら、「当たってる。その通り!」とか言いながら、大爆笑すると思います。
――その田辺騎手は、毎年重賞を勝ち、安定した勝ち星を挙げています。
黒岩それに比べて、ですよね(苦笑)。2020年は0勝、21年は4勝止まりですからね。めげそうになることもあります。でも、暗い顔をしていても、何も変わらないので、とにかく、明るく、元気に、ですね。腐らず、めげず、考え込まず、です。
――素晴らしい。その結果、22年には9勝。デビュー21年で初となる重賞勝ち、ホッコーメヴィウスでの新潟ジャンプステークスを制覇しました。
黒岩「嬉しい〜!」とか、「やった〜!」とかじゃなくて、ホッとしたというのが正直な気持ちでした。ゴールしたときも、ちっちゃくコブシを握るくらいの感じでした。
――派手に喜べばいいのに。
黒岩ずっと崖っぷちで、派手に喜べるような成績じゃないので(苦笑)。引き上げてくると、清水先生が、拍手で迎えてくれたんですが、「ありがとうございました!」という言葉しか見つからなくて……。先生には、感謝かありません。
――昨年は、イロゴトシとのコンビで、初のGI中山グランドジャンプを制覇し、今年、連覇を達成。個人的には、石神騎手とオジュウチョウサンのような名コンビになって欲しいと思っているんですけど、どうですか?
黒岩ず〜〜〜っと、明日のことを考える余裕がなくて、今日一日を精一杯生きるという毎日を送って来ていて、それは今も変わらないので、まだ、まだ、石神先輩の足元にも及びませんが……一歩でも、近づけるように頑張りたいと思います。
――では最後に、今後の目標を教えてください。
黒岩個人的には、昨年、結婚もしましたし、これからは、一日、一日、明日のことを考えながら、今日を頑張ろうという感じで、イロゴトシとは、昨年、挑戦できなかった暮れの中山大障害を目指して頑張ります。
――中山大障害は、テレビ東京の『ウイニング競馬』で中継するし、僕の馬券も、イロゴトシをメインで行く予定なので、頼みます(笑)。
黒岩キャプテンさんの生活が少しでも豊かになるように、頑張ります(笑)。
(構成:工藤 晋)
黒岩 悠 くろいわ・ゆう:
1983年10月24日 高知県出身
初騎乗は2002年3月2日、中京3R、キシュウミカンに騎乗(15着)。
初勝利は、02年7月14日、小倉1Rの3歳未勝利戦。パートナーは、マヤノフォーティ。
22年7月に、ホッコーメヴィウスで重賞初制覇(新潟ジャンプS)。
23年4月に、イロゴトシで、J・GI中山グランドジャンプを勝ち、24年4月13日、再び、イロゴトシをパートナーに、中山グランドジャンプを連覇した。
キャプテン渡辺:1975年10月生まれ。お笑い芸人。競馬、競輪、パチンコ、パチスロは趣味の域を超えていまや生活の一部に。特技は関節技。現在テレビ東京系列で放送中の『ウイニング競馬』にレギュラー出演中。YouTubeで競馬予想更新中。