きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

ディープインパクト四重奏

11月12日は、黛 弘人 騎手の誕生日です。誕生日おめでとうございます!
ようこそいらっしゃいませ。

ジャパンカップ出走予定馬の動向が、懇切に伝えられるようになった昨今ですが、先日は今年のダービー馬シャフリヤールの鞍上が川田将雅騎手に決まったと報じられました。今年のジャパンカップは、三冠馬コントレイルのラストランに予定され、これも同じディープインパクト産駒のマキヒキ、ワグネリアンも意欲的とされていました。4世代に及ぶディープインパクトの名血を伝えるダービー馬が揃い踏みするというビッグニュースが、ファンの胸をザワつかせています。しかし年齢順にワグネリアン、コントレイル、シャフリヤールはいずれも福永祐一騎手の手綱で勝利を収めて来た馬です。福永さんがどの馬に乗るかが、馬券検討に欠かせない難題になっていました。しかしアメリカ遠征のBCフィリーズ&メアターフでラブズオンリーミーと人馬一体となり、史上初の日本人騎手による日本調教馬優勝の偉業を成し遂げた川田さんなら誰も異議はありません。ディープ揃い踏みとあっては武豊さんの勇姿も欠かせないのですが、アイルランドの名門エイダン・オブライエン調教師が管理下のブルームとジャパンの遠征を発表し、武さんはそのどちらかに騎乗することになるのでしょう。この皮肉な巡り合わせも何かドラマめいて感じられますが、ディープの背中を知るたった一人のジョッキーがディープカルテット(四重奏)の最大の敵役を演じるというのも滅多に見られるものじゃありません。

ダービー馬の揃い踏みという世界各国に散らばったファンの心を一つにしてワクワクさせる“事件”で盛り上がったのは86年の凱旋門賞でしょうか?もとも各地のダービーを勝ち抜いた強豪を一堂に集めて、どのダービー馬が一番強いかを競う“ダービ馬選手権”的発想から生まれ、そのコンセプトに沿う形で3歳馬に有利と言われる負担重量の設定になっています。1986年のパリロンシャン競馬場に集結したダービー馬たちは、地元フランスのベーリング、イギリスとアイルランドの双方を連覇したアガ・カーン殿下のシャーラスタニと競馬の先頭を走る先進国3カ国それぞれの世代頂点、ドイツのアカテナンゴと日本のシリウスシンボリは前年のダービー馬ですが、それも含めると5カ国からダービー馬が揃い踏みする超豪華版でした。ところが“競馬の神様”は、これまで起きたことの奥の奥まで深く読み込んで、勝利の微笑みを投げ掛ける相手を決めるみたいです。その微笑みの王冠が舞い降りたのは、英ダービーを不利に泣いて2着に敗れていましたが、凱旋門賞では滅多に見られない大外一気の荒技を決めたダンシングブレーヴの頭上でした。この劇的逆転勝利には141ポンドという史上最高のレーティングが与えられ、後にレーティングの修正で同馬主ハーリド・ビン・アブドゥッラー殿下のフランケルに抜かれますが、歴代世界最強馬であると評価を曲げない専門家も少なくないようです。

今回のジャパンカップは世界競馬師を揺るがすような、そこまでハイレベルな戦いにはならないでしょうが、ファンの夢がいっぱい詰まった物語が綴られるのは間違いがないでしょう。ガリレオ、ディープインパクトという洋の東西を代表する今世紀最高最大の種牡馬チャンピオンたちを偲ぶ上でも、これ以上の舞台はないでしょう。

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