きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

無事是名馬、その意味深さ

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凱旋門賞を勝ったファウンドという牝馬には心底、感心させられます。世界の最高峰レースの一つを見事に制覇したこともそうなのですが、その蹄跡の凄まじさには驚くばかりです。彼女は今シーズンのキャリアを開幕初頭、カラ競馬場のG3ですらない無格付けのリステッドレースで地味にスタートさせたのですが、その叩き台を3着と敗れると、次走G3ムーアズブリッジSを勝ち調子が上向くと、そこから破天荒なG1連戦モードに入ります。そこから6月上旬ダービー当日のコロネーションCを皮切りに先週の英チャンピオンSまで4ヶ月ちょっとの間にG1ばかりを7戦して1勝2着6回と疲れ知らずのタフネスレディぶりを発揮します。中でもシーズン終盤の強行軍は呆れるほど、史上最高レベルとも高評価される愛チャンピオンSから中2週で凱旋門賞、さらに中1週で英チャンピオンS、動物愛護団体からお叱りを受けそうな猛烈ローテーションでした。

これで彼女のシーズンが終わったわけではなく、11月上旬には大西洋を超えアメリカ大陸を横断、西海岸サンタアニタのBCターフで昨年に続き連覇を目指します。さらにその後には日本のエリザベス女王杯とジャパンCにも登録があります。来日の見込みは限りなく薄いと思いますが、世間の常識とやらを吹き飛ばし、どこまでも可能性を追及して止まない巨匠エイダイ・オブライエン調教師の勝利への情熱と執念には頭の下がる思いです。向こうは日本とは比較にならないほど登録料も高額ですから、この出費だけでも馬鹿になりません。

彼女ばかりではなく、オブライエン厩舎のサラブレッドたちはブリーダーズカップデー、オーストラリア、そして日本や香港と世界を股にかける参戦を表明しています。向こうのG1クラスの馬は、半年くらいの稼働期間が普通だったのですが、オブライエン軍団はシーズンを拡大してしまいそうな勢いです。馬が健康で丈夫に走れる研究や工夫が医学面、調教を含めた管理面などあらゆる分野で進化しているのでしょう。古人に曰く無事是名馬、ところが丈夫でしかも強いファウンドはサラブレッドの進化を見事に体現し、極めてエポックメーキングな歴史的名馬であると言えるのかもしれません。

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