きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

ファウンドの新たな仕事

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ヨーロッパの年度代表馬を選出するカルティエ賞は、アイルランドとイギリス双方のチャンピオンSで強い勝ち方をしたフランス調教馬のアルマンゾロでほぼ決まりというのが衆目の一致するところですが、昨日ご紹介したファウンド、今季9戦と走りに走って凱旋門賞を勝ち、G1で2着6回と首にかけきれないほど大量の銀メダルを獲得して競馬シーンを大いに盛り上げた彼女にも何かあげたいと思うのは、判官びいきじゃないですが人情というものでしょう。

思い出すのはウィジャボードという牝馬のことです。19代ダービー卿のオーナーブリーダー馬という由緒正しい出自ですが、19代卿は牧場が手狭なため牡馬は売却し牝馬だけを手元に残す方式で生産を続け、その数少ない所有牝馬の1頭であるセレクションボードに配合されたのは、当時ほとんど無名の新種牡馬だったケープクロスでした。G1はロッキンジSを勝っただけのマイラーで、ジャックルマロア賞では日本のタイキシャトルに完敗を喫した馬です。一見地味な配合から生まれたウィジャボードは英オークスに出走しますが、やはり人気も地味なものでした。ところがガリレオの全妹というヨダレの出るような良血で圧倒的人気のオールトゥービューティフルを7馬身も千切って優勝し、続く愛オークスも連勝します。秋は凱旋門賞でバゴの3着に敗れますが、アメリカに渡りBCフィリー&メアターフを完勝、この年は傑出馬不在だったこともあり年度代表馬に輝きます。地味でも4カ国を走り回ったタフさの上に輝いた勲章でした。

翌4歳時はちょっとスランプ気味でしたが、5歳時にはタフネスレディの本領を発揮します。初戦のドバイシーマクラシックはハーツクライの4着に敗れますが、プリンスオブウェールズSではチャンピオンホースのエレクトロキューショニストを倒し、愛チャンピオンSでは直後に凱旋門賞を制覇するディラントーマスと首の上げ下げの勝負を演じます。そして毎年恒例のBCフィリー&メアターフを勝ち、引退レースとなったジャパンCではディープインパクトの3着に踏ん張り、日本のファンを沸かせました。この世界を股にかけた活躍に敬意を表して二度目の年度代表馬の栄光を戴冠します。二度受賞したのは怪物フランケルと彼女の史上2頭だけ。

成功はこれだけにとどまりません。彼女の成功がホースマンを刺激し、父ケープクロスに注目が集まったことです。地味だった種牡馬はシーザスターズ、ゴールデンホルンと2頭の英ダービー馬にして凱旋門賞馬を輩出し、母父として日本ダービー馬ロジユニヴァースを世に送ります。その影響力は今や決定的なものとなり、世界にその勢力を広げています。ウィジャボードというタフだが地味な1頭の牝馬から生まれた物語です。ファウンドは無冠で終わるかもしれませんが、繁殖牝馬として世にあふれ出たガリレオ牝馬の理想の配合相手を発掘する新たで革命的な仕事が待っています。尊敬を込めて期待したいものです。

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