きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

“奇跡の馬”さらなる奇跡に挑む

5月20日は、丸田恭介 騎手、C・ルメール 騎手の誕生日です。誕生日おめでとうございます!
ようこそいらっしゃいませ。

この世に生まれ出るはずもなかった馬が奇跡的に生命を得て、信じられない活躍をするヒーロー譚は世界の各地で語り継がれ、多くの人々に愛されています。日本ではテンポイントの物語がファンの涙を絞りました。今週の日曜、アイルランドの古馬G1第1戦のタタソールズゴールドカップが行われますが、今年はステートオブレストという地元馬が人気を集めているようです。デビュー戦を勝ったものの、その後は勝利と無縁の地味で無名の馬でした。ところが3歳夏にアメリカに遠征すると、G1に昇格したばかりのサラトガダービーで大穴を開けて“奇跡”の世界デビューを果たします。次は父系の母国オーストラリアに渡ると南十字星下の中距離頂上戦コックスプレートで当地の年度代表馬ベリーエレガントなど強敵を撃破、第二の故郷に錦を飾ります。“奇跡”はこれだけで止まらず、今季の始動戦をフランスに照準を定めガネー賞を快勝して、3カ国のG1を3連勝するというグローバル時代にふさわしい快挙を成し遂げます。

オーストラリアを拠点に世界の頂点を極めたデインヒルに端を発する“南十字星血統”を出自とし、大デインヒルの孫である祖父ショワジールは、ロイヤルアスコット遠征で初日のキングズスタンドSを勝つと中3日の最終日にゴールデンジュビリーSを連勝して、“スプリント王国オーストラリア”の名を世界に広めました。先日、オーストラリア最強馬ベリーエレガントが凱旋門賞を目標にフランス転厩のニュースが流れましたが、父スタースパンクルドバナーはエイダン・オブライエン厩舎に転厩してゴールデンジュビリーSで父子制覇を達成すると、次走で英スプリント界最高峰を誇るジュライSも戴冠、胸を張って牧場に帰ります。しかし彼は受精能力に問題を抱えて種牡馬失格の烙印を押され、現役に復帰します。その時代の主戦騎手を勤めたのが現在はステートオブレストの調教師となっているジョセフ・オブライエンでした。競走馬としての輝きを取り戻すことは無理でしたが、ジョセフやスタッフの懸命の手厚いケアで健康を回復した彼は、数少ない初年度産駒からザワウシグナル(矢作芳人厩舎のユニコーンライオンは半弟)が大活躍したこともあり、種牡馬復活を果たします。そうした数奇な運命に誘われて誕生した“奇跡の馬”のステートオブレストでした。

日曜のカラ競馬場で4カ国G1制覇を成し遂げれば凄いことですが、その先には“南十字星血統”ゆかりのロイヤルアスコット開催が待っています。ジョセフ師は複数のレースに愛馬をエントリーしていますが、ファンが最高に熱くなるのは2日目のG1プリンスオブウェールズSでしょうね。祖父や父に比べると一皮むけて中距離馬へと進化した彼ですが、ここを勝てるようなら歴史的名馬の一角を占める巨星と崇められようになるはずです。なにしろ相手が凄い!日本からシャフリヤール、イギリスからアダイヤーの両ダービー馬、ドバイターフで日本馬パンサラッサと火を噴くような叩き合いの末に同着ながら連覇を達成したロードノースと役者が揃い、目下7戦7勝と世界の頂上に一直線に向かう驚異の上がり馬バーイードまで出走の構えを見せています。大変なメンバーですね。“奇跡の馬”がさらなる奇跡の召喚にチャレンジします。今年のベストレースはこれで決まりでしょう。世界的なコロナ禍の影響が薄れるにつれ、競馬シーンもどんどん熱くなっていきます。どうぞお見逃しなく。

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