きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

調教師の使命

5月17日は加用正調教師の誕生日です。誕生日おめでとうございます!
ようこそいらっしゃいませ。

日曜にフランス・ドーヴィル競馬場で行われたG1サンタラリ賞でソウベツというゴドルフィン所有のドバウィ産駒が快勝しました。来月中旬の仏オークス前哨戦に位置付けらているレースです。今週の日本のオークスに出走するソウルスターリングのお母さんスタセリタも、このレースとオークスをデビューから無傷のままの5連勝で決めています。フランスのダービー&オークスは、とくに開催日が接近している本場イギリスとの差別化を意識して、2100mという独自の距離体系で施行されます。ステイヤーが大威張りの他国とは違って中距離志向の馬が出てくるのが特徴です。ソウベツのチャーリー・アップルバイ調教師によれば「距離をこなせないタイプじゃないが、フランスの緩い馬場がドンピシャの馬」ということで、仏オークスを目指すことになりそうです。母系に重ねられたダルシャーン、サドラーズウェルズといった重厚なヨーロッパ血統が騒ぐのでしょうか?

ソウベツの母にレイクトーヤの名があります。洞爺湖?と連想すれば、祖母に日本育ちシンコウエルメスの名前が出てきます。生まれはアイルランドですが、日本の藤沢和雄厩舎で走った馬です。デビュー戦で重度の骨折に見舞われ、予後不良寸前で一命を取りとめました。藤沢師のエルメスの素質への信頼と血統への尊敬と馬への愛情ゆえでした。厩舎の同期にはバブルガムフェロー、1歳下にタイキシャトルがいて、華やかなステーブル史でも一際豪華な時代でした。素質馬、期待馬目白押しの中で、貴重な馬房をエルメスのために確保し続け、彼女の闘病生活を支え励まし続けたのは有名なエピソードです。

藤沢先生はここまでJRA重賞通算99勝、ソウルスターリングのオークスで100勝の大台に王手をかけています。100勝を越える記録は、大尾形と尊崇を集めた20世紀最高の名伯楽・尾形藤吉調教師が孤高の帝位に君臨してきました。厩舎制度とか違いがあり過ぎて単純に比較はできませんが、大尾形の背中を唯一人見つめ続ける藤沢師は20世紀から21世紀に巨きな橋渡しを成し遂げた名調教師であることに異論は挟めません。しかし重賞99勝、内G1が25勝という煌めく勲章の数々に見劣りせず光り輝いているのがシンコウエルメスという牝馬の存在です。育て鍛え走らせるのも調教師の仕事なら、その血を守り伝えていくのも伯楽の使命だからです。エルメスは孫世代に皐月賞馬ディーマジェスティを出し、その従妹ソウベツと既に2頭のG1馬を送り込んでくれました。来るべきオークス、東京でシャンティイで先生の魂を受け継いだ馬たちがきっと走ってくれると信じています。

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