きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

ハングリー精神

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ヨーロッパの平地シーズンが幕を閉じるこの時期には、短期免許で来日する外国人騎手の顔ぶれが華やかさを増します。先週はアンドレア・アッゼニ騎手が、今週からは世界のライアン・ムーア騎手が日本のターフを舞台に本場で鍛えた技術と精神を披露してくれます。日ごろ気にしているせいか、イタリア人ジョッキーの姿が目立つような印象が強くあります。ご存じのようにイタリア競馬が危機に瀕しているのが一番の原因でしょうか。賞金未払いとかの不祥事が続き、グレードの剥奪まで検討されている大変な状況です。ジョッキーは鞭一本を片手に渡り鳥のように世界各地に活躍の場を求めることになります。

日本で通年免許を取得したミルコ・デムーロ騎手、第二のミルコを熱望するダリオ・バルジュー騎手、クリスチャン・デムーロ騎手はやウンベルト・リスポリ騎手はフランスを中心に活躍の場を広げ、アッゼニ騎手はイギリスに根を下ろそうとしています。その精神力の逞しさには感嘆するばかりです。アッゼニ騎手はシーズンのフィナーレを飾る2歳G1レーシングポストTを今年も勝って3連勝と記録を伸ばしました。一昨年のキングストンヒルは後にダービー2着、セントレジャー制覇の実力馬で人気を背負っての勝利でしたが、今年のマーセルは最低人気での大金星でした。今年はポストポンドでキングジョージを制したり、大レースでのファインプレーも目立ちます。まだ24歳と伸び盛りの若手です。遥か日本の地での王者ムーア騎手との直接対決に心に期すものも大きいいでしょう。

一口に、我が日本では死語になりかけているハングリー精神と言ってしまうと単純すぎる気もしますが、彼らが背負っているものの大きさ、重さは半端ではないでしょう。家族や仲間や、ときには母国であったり、自らの誇りや名誉や人生そのもの、そこには単なる出稼ぎと片付けられない、騎乗技術を超えた大事なものが横たわっているような気がします。日本人の我々には考えられないような環境と戦っている彼らに学ぶものは少なくないだろうと改めて思います。

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