きょうの蹄音 競馬にまつわるちょっといい話

中山を彩った名馬たち【27】ダイナアクトレス
1987年9月13日 第32回京王杯オータムハンデキャップ

今でこそ、サマーマイルシリーズの最終戦として注目を集める京王杯オータムハンデキャップが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。
トヨタ自動車が、ダイナの源流であるトヨペット・ルートトラックRK52型を発売した1956年、東京競馬場の芝1600mで第1回が施行された同レースは、開催年によっては、距離1800に変更となったり、時にはダート戦(第6回はダート1600m、第14回はダート1700m)として行われた過去を持っている。
紆余曲折の末、秋の中山1600mに定着したのは、ヨシノエデンが制した1984年9月9日に行われた第29回から。そこから、エルプス、アイランドゴッテスと続き、87年……いよいよ、そのときを迎える。
中山を舞台に、華麗なドラマを演じたのは、名女優、ダイナアクトレス。父ノーザンテースト、母は1987年の優駿賞最優秀4歳牝馬モデルスポート。その類まれなるスピードとバネはとても牝馬のものとは思えず、一時期、陣営は、真剣に皐月賞、日本ダービーへの挑戦を考えたほどの素質馬だった。
最大の問題は気性面。激しすぎる性格で、馴致を担当した厩務員を振り落とすのは日常茶飯事。桜花賞の前哨戦となったすみれ賞では、枠入り後に後ろ脚を蹴り上げ、ゲート側面の台に乗り上げる(レース後1ヶ月の出走停止と調教再審査により桜花賞への出走機会を失う)など、そのお転婆ぶりは、関係者も頭を抱えるほどであった。

――今日だけは、本気の走りを見せてあげる。
そう思っていたかどうかはわからないが、この日のダイナアクトレスはどこかが違っていた。初コンビとなった名手・岡部幸雄とともに、中山のコースに降り立つと、周囲が心配する声を楽しむかのように、すました顔でゲートイン。中団の位置で流れに乗ると、まるで満員のファンに魅せつけるように、最後の直線を華麗な走りで駆け抜ける。
速く。
もっと速く。
もっと、もっと、速く――。
一世一代の名演技……ゴール板を駆け抜けた瞬間、表示された数字は、1分32秒2。世界タイレコードに、スタンドは大きくどよめいた。

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