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【第13回】競馬の未来(後編)

ゲスト 中山馬主協会最高顧問・和泉信一さん 【第13回】競馬の未来(後編)

ナカヤマフェスタで凱旋門賞2着の偉業を成し遂げられた和泉信一さんへのインタビューは、今回が最終回。 競馬会の問題点、競馬会のあるべき未来の姿、魅力的な競馬について提言をいただきました。

――前回、シンボリ牧場の和田共弘さんのお話が出ましたが、和田さんとはお親しかったのですか。

『和田さんからも相談受けて、千葉で種馬やってどうだろうねって。それで本当にパーソロン持って、結構成功しましたよね。

自分の持ち馬から三冠馬(シンボリルドルフ)が出たり、よそに売った馬もダービー馬(サクラショウリ)とか、天皇賞馬(メジロアサマ)を出していますね。メジロの馬は三代つづけて天皇賞馬でしょ。すごいもんですよ。

まぁ今の人はね、パーソロンなんて忘れちゃっているかもしれないけど。大した功績だと思いますよ』

――その和田さんが“競争原理の導入”を唱えられて、馬主会が大モメになり、和田さんは役員を引責辞任されて“名誉回復”がなされないままお亡くなりになってしまった・・・。

『さきほどもお話したように、役員の立場としては馬主全体の利益を考えなくちゃいけない。出走手当だとか、馬主が経済的に豊かで、馬が生きていけると。

でも、あくまでも競争原理っていうんですかね、基本理念としてはやっぱり競走原理を打ち出していく、と。そういう形がないと、競馬の進展にはちょっとね、まずいのかなと。

東西で4000馬房と決まっていて、独占企業でしょ要するに。そうした環境だと何も知らされていない外から見たら身内同士で勝負やっているような感じを受けちゃいますよね。

社台グループなんかはシンジゲートみたいなもので、これはこれで新しいビジネスなんでしょうが、馬主の新陳代謝が進まない中で一極集中みたいになると、年寄りの老婆心と笑ってもらってもいいんだけれど、例えば社台の馬が、同じレースに3頭出ているとすると、人気のない馬が先に来た場合に、おかしいんじゃないか、と言い始める人が必ずいる。

こういうことが少しでも出てくるとまずい。昔あったんですよ、中山で。焼き討ち事件って』

――焼き討ちですか?

『そう。このレース八百長じゃないかってファンが騒いで、観覧席のところにある新聞に火をつけたの。最終レースだったもんだから、新聞がそこらに散らかっている。どんどん火がついていって大事件になったんですよ。

だから今一番怖いのは、そういう不信感が不信感を呼ぶみたいな負の連鎖を断ち切らないとね』

――和泉さんが馬主をおはじめになった頃に比べると、馬券の種類とかもずいぶん増えたと思うんですが。魅力的な競馬、魅力的な馬券についてはどうお考えですか。

『単複しかない時代もありましたね。最近は連単、連複くらいならともかく、3連単ですか?

私は買ったことないけど、あれは倍率がものすごいでしょう。倍率がすごいっていうのは、勝っているのはほんの一部ということ。儲かっているのは1人で、損している人が百倍いるってことですよ。だからファンの人がどんどん減っていっちゃう。

だからやっぱり、平均そこそこの人が競馬が楽しめると、そういう仕組みをつくらないと。あんまりギャンブル性に走っちゃうといっときはいいんですけど、反動がね、怖いなぁと』

――馬主会だけでは片がつかない問題ですね。

『これは農水と競馬会とに関わることだから。馬主が考えていることとは違う立場で。

やっぱり競馬を永い間やって愛している人と、仕事でやっている人では考え方が違いますからね。
そこらへんのところの折り合いを、これから馬主会の役員、連合会の役員が競馬会にどれだけ浸透させられるか。

まぁ昔からなんですよ、役人と馬主の違いっていうのは。景気がまだいいうちはいいけれど、ちょっと停滞してくると露骨にそういうのが出てきちゃうかな、と。
でも、これだけ長い間下り坂が続くと、まあ、何をおいても真剣に取り組まないとね。競馬がなくなっちゃうかもしれないんですから』 (完)


ナカヤマフェスタで凱旋門賞2着の偉業を成し遂げられた和泉信一さんへのインタビューは今回で終了します。長い間のご愛読ありがとうございました。
次回からはシンボリ牧場の和田容子さんにご登場いただきます。どうぞお楽しみに。


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