棋士の高見泰地です。いつも金曜にはソワソワし始め、週末は競馬を楽しむ日々です。
毎年たくさんのレース(将棋でいうと対局)がありますが、決して同じ内容はなく、違うドラマが生まれるのが競馬・将棋に通じることだと思っています。また、日々新しい筋書きのないドラマが生まれる競馬には勇気や希望をもらっています。

リレーコラムでバトンをいただいた阿久津八段から、大学卒業のタイミングで競馬の道に引き込んでいただきました。
デビュー戦は2017年のフェブラリーステークス。将棋の公式戦は室内で行われるので、初めての東京競馬場は風通しも良く開放的な気分になったことを覚えています。マークシートの塗り方を他の若手棋士から教わったのが懐かしいです。
そんな2017年春、叡王戦が八番目のタイトルに昇格するというニュースが飛び込んできました。大学卒業するまでほとんど活躍できずにいた自分にとって、目の前のチャンスが広がったように感じました。低段者でも一気に頂点を狙いやすい、スピーディーなタイトル戦の誕生です。またとない幸運の訪れに思われました。

そんな時に出会った馬がいました。8月の信濃川特別を上がり32.9の素晴らしい末脚で勝ち、9月の神戸新聞杯はレイデオロに敗れたものの菊花賞に出走してきたキセキです。後方から最後に鋭く切れる上がり最速の末脚。序中盤が他の棋士に比べて下手で、終盤で逆転勝ちを多くする自分の脚質(将棋の棋風)にも似ていました。
そんな彼をいつしか自分に重ねるようになっていて、菊花賞は家族でテレビ越しに応援していました。台風の影響もあり泥んこの不良馬場でしたが、キセキが雨を切り裂いて勝ち切ったときは、自分の気持ちも晴れやかになっていました。
キセキの菊花賞の勝利で勇気をもらった秋以降は自分も盤上で自分を信じて進み続けることができ、翌2018年春に初めてのタイトルを獲得することができました。
最後まで諦めず全力で走り続けるキセキには、自分の人生をも変えてもらったと思っています。

ファンが多く、引退するまで毎年ファン投票も上位だったキセキ。将棋界もファンあっての世界なので、自分も応援してくださるファンの方々を大切にしています。
そして、めでたく種牡馬入りしたキセキの軌跡はまだまだ続きます。楽しみです。
競馬に勇気や希望をもらいつつ、自分も盤上で皆さんにあっと言わせるような激走をお見せできるようにがんばります!

第3回 高見 泰地 さん (将棋棋士)

1993年生まれ。神奈川県出身。七段。石田和雄九段門下。2011年プロデビュー、2018年叡王戦で初タイトルを獲得、初代叡王に。

次回は、、、。

室谷 由紀 さん (女流棋士)です。

次回のリレーコラムは、
高見 泰地 さん (将棋棋士)からのご紹介で、
室谷 由紀 さん (女流棋士)です。
お楽しみに。

※本コラムは「競馬との出会い」をテーマに、3週間に1回程度の間隔で更新を予定しております。

※この記事は 2022年8月5日 に公開されました。


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