はじめまして。日本将棋連盟の阿久津主税です。私が競馬に興味を持ったのは、将棋界の先輩から社会勉強の一環として教えられたのがきっかけでした。当初は競馬イコール馬券といった印象でしたが、ディープインパクトとの巡り合いがその認識を変えていったのです。

 デビューは2004年の暮れ。後の重賞勝ち馬となるコンゴウリキシオーに4馬身差で快勝し、大物出現と話題になりました。ですが、どんなに強い勝ち方をしても2戦目で凡走するケースもそれなりに多く、個人的にはまだ意識していませんでした。しかし、年明けの若駒ステークスでの圧勝劇を観て、この強さは本物だと思ったのです。

 3戦目は後に自身の名がつくことになるGⅡの弥生賞に出走しました。首差の辛勝に「期待はずれでは」と言う人もいましたが、私はむしろ接戦を勝ち切ったことを高く評価すべきだと思っていたのです。将棋でいえば激しい一手争いの終盤戦を制したような感じでしょうか。

 4戦目はいよいよ春のGⅠ、皐月賞に出走してきました。ディープの走りを自分の目で確かめたいと思い、競馬仲間とわくわくしながら中山競馬場に繰り出したものです。スタートで躓いて落馬しそうになったときはゾッとしましたが、最後方からじんわりと捲り上げていくと直線で弾けました。ワンサイドの勝ちっぷりに初めて三冠馬をリアルタイムで観られるのではと感じたものです。

 日本競馬の歴史を塗り替えるこの後の活躍は私が語るまでもないのですが、個人的に好きなレースが2つあります。

 日本ダービーはスタートが悪かったものの、東京競馬場の長い直線を次元の違う末脚で一気に駆け抜けました。まさに王道の競馬といえるでしょう。文句のつけようがない勝ちっぷりでした。ゴールの200メートル手前で観戦していたのですが、いやー、興奮しましたね。ディープインパクトのレースを生で観る魅力にすっかりハマってしまいました。

 もうひとつが2006年の天皇賞・春です。武豊騎手が手綱を持ったままひと捲りで圧勝。3200メートルのレースで3コーナーからギュイーンと動いて勝つだなんて次元が違いすぎます。まさに王者の競馬で気持ちがよく、今もこのレースを思い出すことがあるぐらいです。

 ディープインパクトのレース運びはとても美しかったですよね。私も対局でああいった洗練された勝ち方をしたいものだとつくづく思いますし、生涯の目標でもあります。

 日本競馬の至宝がターフを去って15年以上の月日が経ちました。あれだけ完璧に勝ち切る芸当ができる馬がこれから現れるのだろうかと考えながら、その後の競馬ライフを楽しんでいます。最近はコロナ禍であることと2人の子育てでバタバタしていて競馬場にはなかなか行けていませんが、そろそろ現地での観戦を楽しみに足を運びたいものです。

第2回 阿久津 主税 さん(将棋棋士)

1982年生まれ。兵庫県出身。八段。滝誠一郎八段門下。1999年プロデビュー。2004年将棋大賞新人賞。2008年朝日杯将棋オープン戦優勝。2009年銀河戦優勝。

次回は、、、。

高見 泰地 さん(将棋棋士)です。

次回のリレーコラムは、
阿久津 主税 さんからのご紹介で、
高見 泰地 さんです。
お楽しみに。

※この記事は 2022年7月15日 に公開されました。


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