海外だより

最強馬決定最終章は東京で

ディープインパクトの希少なラストクロップ(最終世代)に生まれたオーギュストロダンが、日本時間で明日夜半にアスコット競馬場2400mで行われるG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスSに出走します。9頭立てのレースになりますが、ブックメーカー各社は、ちょっと抜けた1番人気に指名しているようです。良い意味でも悪い意味でも、レースのたびに世界中の競馬ファンたち、勝つのか負けるのか、どんなレースをするのかと、ざわつかせてきた馬です。そもそもディープインパクト産駒としては、2世代目のジェンティルドンナが桜花賞・オークス・秋華賞の牝馬三冠を筆頭にジャパンCを2回、有馬記念とドバイ遠征のシーマクラシックと7つのG1レースを制覇したのが最高です。次点はこれも牝馬のグランアレグリアがクラシックの桜花賞、マイルの安田記念・マイルチャンピオンシップ2回・ヴィクトリアマイル、スプリントのスプリンターズSの合計6冠とカテゴリーに捉われない活躍を見せました。さらに樫のティアラを戴冠したララヴズオンリーユーはシャティンで香港カップとクイーンエリザベス2世S、米デルマーのBCフィリー&メアターフを勝って3ヵ国で4つのG1を制覇していますから、どうもG1勝利数に関しては〝牝馬優位〟がディープインパクト血統の際立った個性のようにも感じられます。牡馬ではコントレイルが、三冠を挟んで2歳時のホープフルSとラストランとなったジャパンカップで通算5冠というのが国内最高ですが、海外まで視野を広げれば、今週のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(以下、キングジョージと略称)に出走するアイルランド調教馬オーギュストロダンの存在感がひときわズシリとした重みを持って迫ります。記録的な大惨敗に甘んじた昨年のリベンジに止まらず、世界に広がる競馬の歴史に、かつてなかったような出来事を書き加えることになるのか?胸騒ぎが押し寄せます。

ここまで2歳時のフューチュリティートロフィーに始まって、3歳春は英愛の2ヵ国ダービー制覇、秋には愛チャンピオンSと米サンタアニタパークのBCターフと競馬の最先端国を駆け巡って次々とG1トロフィーを手中に収めて来ました。前走ロイヤルアスコットのG1プリンスオブウェールズSの勝利は、オーギュスト自身にとって6勝目のG1レースでした。ディープインパクトの家系ではジェンティルドンナに次ぐ記録であり、牡馬としてはコントレイルを追い抜いて最高の成績に到達しています。明晩のキングジョージを勝てばジェンティルに並び、その先には誰も行ったことのない世界が広がっています。ディープインパクトの最終世代にして最強産駒、そんな望んでも得られない、まばゆい賛辞が待っています。

ただし、この輝かしい蹄跡の向こうには、にわかには信じられない悲劇が起きていたのも忘れられません。ニジンスキー以来53年ぶりの三冠馬誕生を期待されて臨んだ第1冠2000ギニーでは、道悪が原因と言われる前代未聞の大惨敗を喫しています。さらにダブルダービー制覇の快挙の直後、昨年のキングジョージでは100馬身以上も離された最下位に沈んでいます。この不可解な快勝と惨敗の繰り返しは、年が変わってもノンストップ、今春のドバイシーマクラシックでは宿敵ゴドルフィンの〝新巨星〟レベルズロマンスの最下位に不可解な沈没劇を演じています。この悲劇の〝アンチ・ヒーロー〟レベルズロマンスは、目下2400mのレースを4連勝中と〝チャンピオン・ディスタンス〟のエキスパートと大いに胸を張れる名馬です。末脚を武器にしてきた馬ですが、昨今はサッと好位にポジションし、余裕たっぷりに危なげなく抜け出す〝王者の風格〟さえ漂わせるようになってきました。後方一気の切れ味自慢だったイクイノックスが好位抜け出しで世界レコードを書き換えるまでに進化した過程に重なります。明日のキングジョージでもこの宿敵レベルズロマンスが最大の壁になりそうですが、オーギュストは良く負ける馬なのに不思議と負ける気がしません。先週もちょっとお伝えしましたが、オーギュストロダンは今年の最終目標をジャパンカップに置いているようです。イクイノックスを筆頭に〝強い日本馬〟を彼らの〝ホーム〟である東京競馬場や中山競馬場を舞台に打倒してこそ、〝世界最強〟への王道だと考えているからでしょう。日本の丁寧に造成された馬場が、オーギュストの武器である良馬場で弾ける〝息の長い瞬発力〟を爆発させる最高の場であるのも大きな理由なのはもちろんです。ディープインパクトがジャパンカップの舞台で〝飛んで〟以来、外国馬が勝った試しのないレースですが、その外国馬の勝利をディープインパクトの末裔、しかも最終世代が実現するとしたら、それはドラマとしか言いようがない気がします。

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