海外だより

〝東京決戦〟が世界最強馬を決めるI

ディープインパクトの最終世代(ラストクロップ)の総大将オーギュストロダンを管理する天才エイダン・オブライエン調教師が「今年の最終目標はジャパンカップ」と高らかに宣言しています。ご承知のようにジャパンカップは昨年、イクイノックスの〝神走〟に続いてリバティアイランド、スターズオンアースの日本調教馬が1-2-3を決め、公式レースレーティングで世界一の座を奪取しました。世界中から強豪が集結し、この分野では圧倒的な強さを誇る凱旋門賞やインターナショナルS・愛チャンピオンSなどを凌駕する高評価を日本馬オンリーで得たことになります。一般論としては、今後は〝強い〟日本馬を倒さない限り、〝世界最強〟の称号を名乗ることも、チャンピオンベルトを高々と掲げることもできなくなります。それもサッカーやラグビーなど世界のメジャースポーツにならえば、〝ホーム〟ではなく〝アウェー〟で倒してこそ価値が増大します。東京競馬場2400mが舞台であることが条件です。

1981年に海外強豪馬と互角に戦える〝強いサラブレッドづくり〟をコンセプトに創設されたジャパンカップは、当初の間こそ外国馬が表彰台を独占していましたが徐々に日本馬も力をつけて、とくに2006年にディープインパクトが勝って以降は、昨年のイクイノックスまで日本調教馬の18連勝という結果が残っています。これまでは日本特有の「硬い馬場」「スピード優先馬場」が原因とされてきましたが、世界中のビッグレースで日本馬が大活躍し、出番なしと信じられていたダート競馬でも最高峰ドバイワールドカップや賞金世界一のサウジカップ、聖域ケンタッキーダービーでも勝ち負けの競馬を見せる現在では、日本馬の〝ホーム〟で日本馬を打ち負かさなければと考えるようになるのも自然な流れです。〝競馬発祥の地〟イギリスからの遠征馬は通算5頭が勝っていますが、ハーツクライにハナ競り勝ったアルカセットを最後に、再度にわたって年度代表馬に輝いた名牝ウィジャボードがディープインパクトの3着に敗れて以降はチャンピオンの栄光から遠ざかっています。そのイギリスの盟友アイルランドも半世紀をさかのぼる1983年のスタネーラが最初で最後のジャパンカップ馬ということになっていますし、フランスも87年のルグロリューだけで、99年にエルコンドルパサーを破って凱旋門賞に輝いた当時の掛け値なしの世界最強馬モンジューを送り込みながらスペシャルウィークの4着に完敗しています。

世界の競馬先進国の現状を一口で言ってしまえば、強い日本調教馬の出現に〝眼の色が変わった〟ということでしょうか?ご存じのようにオーギュストロダンは、毀誉褒貶(きよほうへん)が甚(はなは)だしい馬です。褒めたり貶(けな)したりが交錯する世間のブレをあらわす言葉です。ニジンスキー以来50余年ぶりの三冠達成を期待されてクラシックシーズンに臨みましたが、第1冠の2000ギニーでは、あろうことか勝ち馬から遥か彼方22馬身もちぎられてのゴールでした。鞍上のライアン・ムーアも、オブライエン師も肩を落としながら「道悪」を敗因に上げたものです。それを証明するように良馬場に恵まれたエプソム競馬場のダービーでは、前半は中団馬群で息をひそめていましたが、勝負どころにさしかかると内ラチ沿いを鋭く伸び馬群を割って先頭を奪い栄光のゴールにまっしぐらに向かうキングオブスティールを、追って・追い詰めて、一瞬に交わし・突き放したラスト2ハロンの脚は11秒28-10秒90と切れに切れて2ハロン合算22秒18は、比較可能な1965年以降では史上最速を記録しました。同じエプソム2400mを走ったニジンスキーやガリレオなど歴史的名馬を超える一撃だったわけです。スピードでも切れ味でも日本馬に遜色ないポテンシャルを秘めているのは間違いなさそうです。愛ダービーを連勝して「もう大丈夫」と思わせたキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでは道悪に遭遇、なんと126馬身余も置いてけぼりを食らう世界史的惨敗を喫しファンを困惑させますが、良馬場の愛チャンピオンS、ブリーダーズCターフでは嘘のように強いロダンを復活させます。今シーズンも開幕から迷走が続きましたが、オブライエン師はロダンの強さも脆さも手の内に入れたと明言しています。「今はもう彼(オーギュストロダン)を理解しています。彼には速い馬場とアグレッシブな騎乗が必要です」と鞍上ライアンと異口同音に東京ジャパンカップへの意欲を語っています。この欧州最強馬の決意を知って、自己の価値向上を目指す向上心の旺盛な強豪や素質馬たちが東京を強く意識するようになるのは避けられないでしょう。今年の最強馬もイクイノックスの昨年同様、東京を舞台に決まりまそうです。世紀の〝東京決戦〟が楽しみでなりません。

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