海外だより

ディープが輝いたロイヤルアスコット

初夏6月の風物詩・ロイヤルアスコットは、きょう21日で後半戦に突入する開催4日目を迎えます。長い歴史を物語るように様々な記録やエピソードも次々と誕生して、大変な盛り上がりを見せているのは流石です。ロイヤルアスコット開催を我が子のように慈しみ、誰よりもこの季節を心待ちにしていらしたエリザベス2世女王も、草葉の陰で、さぞお喜びだと思います。昨3日目はロイヤルアスコットの華・G1ゴールドカップが行われ、エイダン・オブライエン厩舎のキプリオスが人気に応えて先頭でゴールして、オブライエン調教師はゴールドカップ4連覇の国民的英雄イェーツを含めて通算9勝目を飾りました。鞍上は主戦ライアン・ムーア騎手で、この勝利がロイヤルアスコット通算83勝目、ランフランコ・デットーリ騎手が打ち立てた現役最高の81勝に、前日のG1プリンスオブウェールズSでディープインパクト産駒オーギュストロダンの完璧な末脚の冴えによって並び、さらに勝ち星を重ねて歴代最高の116勝の金字塔を打ち立てた〝聖レジェンド〟レスター・ピゴットを追いかける唯一無二の資格を手にしています。ちょうど10年前には、サー・マイケル・スタウト調教師とのコンビで女王陛下の愛馬エスティメイトをゴールドカップ優勝に導いたのは、ムーア騎手にとって懐かしくも輝かしく誇らしい思い出です。

先ほど、ちょっとご紹介したディープの血が聖地アスコットで大爆発したのも嬉しいニュースでした。これまでプリンスオブウェールズSには、日本から遠征したスピルバーグ、エイシンヒカリ、シャフリヤールと3頭のディープインパクト産駒がチャレンジしています。起伏に富んだ自然あるがままに生かしたイギリスの競馬場にあっても、ひときわ野趣豊かなアスコットは日本育ちには厳しかったのでしょうか?どの馬も一息足りない結果に終わっています。しかしアイルランドの原野で一から鍛えられたオーギュストロダンはディープ本来のポテンシャルを蘇らせます。もともとディープインパクトは、3200mの天皇賞(春)をレコードで走り切って、最後の3ハロンを33秒5と駆け抜けており、さらに4ハロンに延ばしても44秒8と世界レコード46秒3を軽々と上回るスピードで、〝飛んで〟います。母ウインドインハーヘアを通じてエリザベス女王が愛した曾祖母ハイクレアの欧州流スタミナ血統が脈打っているからに間違いがありません。オーギュストロダンが2000ギニーの見るも無残な大敗から不死鳥のように復活したエプソムダービーでは、アスコット以上にハードと言われているコースで2400mを走って、最後の4ハロンは44秒14、3ハロンが33秒01とニジンスキーにもガリレオにも使えなかった末脚を使っています。ド派手にぶっちぎって勝つような馬ではないのですが、一見地味でも、何が来ようが何処までも抜かせない持続性に富んだ瞬発力は〝ディープの面影〟そのものでしょう。日本の〝誇り〟です。

プリンスオブウェールズSの輝かしい勝利は、〝天才調教師〟の尊称を欲しいままにするエイダン・オブライエン師に「平地G1通算400勝」という気が遠くなるような大記録をプレゼントしましたが、この不世出の天才をして「(オーギュストロダンの調教法やレース戦略に関して)私は間違っていた」と率直に告白しています。この馬は、最後の4ハロンまたは3ハロンを〝飛ぶ〟のを自分の競馬スタイルとしており、後方から行かせるとレースの流れに結果が左右される。自分の流れにならないと競馬にならないんだ」と。プリンスオブウェールズSでは、早めに好位に進出すると直線半ばで先頭に立ち、追撃する馬を1ミリでも近づけない気迫でゴールに向かいました。見るも痛快な派手さはなく、スタンドを揺るがす鮮やかな勝ちっぷりでもありません。しかし思わず息を呑むような強い競馬だったと思います。ディープインパクトの血が、これからも世界の競馬を創造していくのだと思うと、競馬がますます面白く楽しくなると確信させてくれた今年のロイヤルアスコットです。

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