海外だより

世界最高のダービーを見せてくれ!

薔薇の花が華麗に咲き誇るこの季節、北半球各国ではクラシックの最高峰・ダービーが開催されます。薔薇の花で形造ったレイを勝者に贈るケンタッキーダービーの5月第1土曜を皮切りに、6月第1土曜は競馬そしてダービーの母国イギリス、翌日第1日曜がフランス、アイルランドは6月最終日曜日ですが、夏の訪れが遅いお国柄で薔薇の開花たけなわの季節です。この世界競馬を牽引する欧米トップ諸国のダービー・ローテーションの真ん中あたりの5月最終日曜に「東京優駿」、いわゆる日本ダービーが位置しています。第91回と節目の100回へのカウントダウンが始まった今年ですが、良いメンバーが揃いました。何を持って良いメンバーとするかは難しいのですが、歴史とか伝統を創り上げていく上で欠かせないストーリーを身に纏(まと)った馬が多いというのも、その一つだと思います。毎年、同じ時期に、同じ競馬場の同じ距離で行われ積み上げて来た蹄跡(ストーリー)にこそ、そのレースの成長の証しや成熟の推移が写し込まれていると考えるからです。90回の歴史を重ねて、日本ダービーもようやく成熟の境地に達して来たなぁ、と感慨を誘う18頭が今年は揃いました。

成熟化ストーリーの第1章は、親・子・孫の3代に及ぶダービー制覇の物語です。本家イギリスでは250回余りの歴史に8例が記録されていますが、日本ではまだそこを切り拓いた血統は皆無です。しかし今回は堰(せき)を切ったように総勢8組ものチャレンジャーが現れました。まず目下リーディングサイアーのトップをひた走るキズナが、不敗の皐月賞馬ジャスティンミラノ、同じく無傷で3連勝中のシックスペンスなど5頭がゲートインします。ディープインパクト、キズナの誇りを引き継いだ産駒が〝史上初〟の金字塔を打ち建てるのは、どの馬でしょうか?加えてキングカメハメもレイデオロとドゥラメンテを通じて3頭が〝史上初〟に挑みます。中でも大一番に驚異的な底力を発揮するドゥラメンテ産駒でキタサンブラック半弟のシュガークンが勝てば、トライアル青葉賞勝馬の本番制覇も含めてダブル〝史上初〟が達成されます。いずれにしろ出走18頭中8頭、単純には4割超の確率で91年目の〝史上初〟が誕生するのですから、凄くリアリティに富んだストーリーを見届けられるわけです。見逃せません。

もう一つの〝史上初〟は外国産馬によるダービー制覇の記録です。ご存じのように21世紀の幕が上がるまでは外国産馬には厳しい出走制限が課されており、マルゼンスキーに始まってエルコンドルパサーやグラスワンダー、タキシャトルなど歴代の名馬もクラシックとは無縁でした。内国産の保護と奨励が名目でしたが、日本競馬の世界的な地位の低さを示すものでした。2001年以降、ダービーは外国産馬に開放されて来たのですが、サンデーサイレンス全盛時代でもあり、数少ない外国産馬がピンスポット的にダービーの金的を射抜くことは困難だったようです。その意味では、完全に公平ではなかったかもしれません。なにしろクロフネやシンボリクリスエスのような〝怪物〟でもダービーでは涙を呑んでいるのですから。今年は凱旋門賞馬ソットサスの全弟シンエンペラーが難関に挑みます。フランス生まれの彼がパリオリンピックイヤーに〝史上初〟を実現するのも何かの縁かもしれません。これも日本競馬の公平性や開放性を証明するもので、世界競馬のリーダーシップを確立する上で避けては通れません。牝馬レガレイラのウオッカ以来となるダービー制覇も楽しみです。

近年のアーモンドアイやイクイノックスの世界トップレベルに君臨する活躍で、日本馬の評価が急速に高まっています。大きなレベル差があるとされていたダート競馬でも、ウシュバテソーロがドバイワールドカップを射止め、先日のケンタッキーダービーのフォーエバーヤングがハナ+ハナ差の3着に惜敗しましたが、出遅れて、馬群の外を回らせられ、直線では再三馬体をぶつけられる三重苦を克服しての競馬内容は一番強いものでした。古馬を混じえての最高峰レース・ブリーダーズカップクラシックでは一番人気に推すブックメーカーも少なくありません。これらも含めて、100年以上を費やして営々と歩み続けた日本競馬の成熟化の賜物なのでしょう。今年のダービーがその一つであるのも間違いありません。歴史や伝統から選ばれしメンバー構成まで、世界最高クラスに並んだダービーを存分に楽しみたい週末です。

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