海外だより

大波乱で幕を開けたヨーロッパ

今週のオークス、そしてダービーと日本の競馬ファンは、クラシックのクライマックスを満喫していますが、ケンタッキーダービーデイと同日の5月第1土曜、イギリス・ニューマーケット競馬場を舞台にクラシック第1弾「2000ギニー」、その翌日に牝馬クラシック序章「1000ギニー」で遅ればせながらシーズンの幕を開けています。ここから10月中旬の英チャンピオンSを頂上とするカテゴリー毎のチャンピオン決定戦=ブリティッシュ・チャンピオンズ・デイまで半年間が正規のシーズンとされています。冬の間は障害レースのシーズンとされ、こちらも平地以上に人気が高く、アイルランドではレース総数で平地競走を上回る隆盛を誇っています。と言っても、平地競走もAW(オールウェザー)コースを中心に行われています。伝統的に下級レースが中心だったのですが、近年は香港・ドバイ・サウジアラビア・カタールなど南半球諸国で高額賞金レースが頻繁に開催されるようになり、一流馬の中からも年明け早々から始動する馬も出ている現況です。

さて、ご存じのように今年の欧州ケラシック戦線の幕開けは、一口に〝大波乱〟の連続になっています。欧州競馬のリーダーシップを掌握して来たクールモアが、今年は無敗の米三冠馬ジャスティファイが送り込んだ牡馬のシティオブトロイ、牝馬のオペラシンガーの両2歳チャンピオンが栄光を席巻すると思われていたのですが、シティは原因の良く分からない大敗を喫し、オペラは順調さを欠いてオークスに間に合うかどうか苦境に陥っています。ニューマーケットの翌週にパリロンシャン競馬場で開幕したフランスも、有力馬が次々と馬群に沈み大波乱のシーズン開幕となっています。

〝大本命〟シティオブトロイが〝謎の〟惨敗を喫した英2000ギニーを勝ったのはゴドルフィンのノータブルスピーチというドバウィ産駒ですが、彼はオフシーズンから地道にAW戦を3連勝、2000ギニーで初めて芝を走った馬でした。1000ギニーのキングマン産駒エルマリカもAWで勝ち上がって来た馬で、芝の勝利は初めてです。フランスでもシャンティイ競馬場AWコースの整備が進み、ここを叩いてドバイで金星を挙げる一流馬が増えています。どうやらシーズンのオンオフの境目が、悪く言えばルーズに、よく言えば自由になっているのも〝大波乱〟の一因かもしれません。

しかし昨夜のイギリス・ニューベリーで行われた古馬G1第1弾ロッキンジSでは、これまで既にG1を6勝しており、旧来のローテーションをきっちり守り満を持して登場したはずのインスパイラル、今季の大飛躍が期待されるフランスの旗手ビッグロックの一騎打ちと見られていましたが、G1初挑戦だったインスパイラルの僚馬オーディエンスに鮮やかに逃げ切られ、両雄は良いところなく馬群の露と消えています。有力馬が馬場が良いと見られた外ラチ沿いに集中したのに対して、他馬が走らない真ん中のコースを伸び伸びと走らせたロバート・ハヴリン騎手のファインプレーでした。英リーディングトレーナーのトップを走り続けるジョン・ゴスデン厩舎では、偉人ランフランコ・デットーリの影に隠れがちなのですが、ベテランの熟練した〝コース読み〟は恐れ入るばかりです。シーズン開幕の劈頭から、競馬の難しさ、複雑さ、変容ぶりと実のさまざまな面白さを教えられた思いです。

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