海外だより

世界に通用するジャパンカップ

〝世界に通用する〟強い日本馬を生み出そうと、東京競馬場2400mを舞台にジャパンカップが創設されたのは1981年のことですから、今年で43回目を迎えます。ご承知のように、創設当初は外国馬にまったく歯が立たず、「日本馬が勝つには100年かかる」と高名なホースマンたちを嘆かせたものです。私たちファンも、来日したサラブレッドたちの傑出したスピード、東京の坂に差し掛かり更に一伸びする逞しさに目を見張り、並んだら決して負けない勝負根性の塊・オグリキャップをハナ競り負かす牝馬がいることを思い知らされ、「本当に100年かかるかも」と妙に納得したものでした。しかし国際レースのペース配分に慣れるに従って、スピードが乗りやすい馬場設計などホームタウンの利も味方にして、互角の勝負を挑めるようになるに連れ、スピード馬場を忌避する海外一流馬が増え、国際選手権としての格調の高さを失っていきます。ヨーロッパは10月中旬、アメリカは11月初旬を最後に一流馬が躍動するシーズンは終わっており、11月下旬のジャパンカップに海を渡るモチベーションは限りなく小さくならざるを得ません。

今年も外国馬はフランスのイレジン1頭ですから、状況は改善されていません。しかし格調の高い「国際選手権」として、世界のホースマンが熱視線を注ぐ大一番として広く認知されているように感じられます。それは〝世界に通用する〟スーパーホースの存在です。レーティング世界一のイクイノックスの実力の高さ、3歳牝馬としては異例の120ポンドにレーティングされたリバティアイランドの類まれな素質がワールドワイドな評判を呼んでいるからです。イギリスの大手ブックメーカー・ウィリアムヒルによるジャパンカップのオッズは、イクイノックスが1.5倍と圧倒的な信頼を獲得しています。来年の凱旋門賞オッズでもウィリアムヒルは1番人気に推挙しています。世界競馬の輝かしいリーダーシップを預けられた形です。それを追って底知れぬポテンシャルを買われたリバティアイランドが3.75倍。3番手のタイトルホルダーは15倍と大きく引き離されて〝二強対決〟の趣です。ジャパンカップ、アバウトに言えば日本競馬が〝世界に通用する〟には、世界トップクラスの面々を招聘するより、〝世界に通用する〟日本馬を育てることが近道だった、という話になります。今や新たなサイアーラインとして世界を席巻する位置に立ったディープインパクトは、現役時代のジャパンカップで名牝ウィジャボードとの日欧年度代表馬対決を制しています。今年のジャパンカップが、ディープインパクトの先例に続く、世界への大きなジャンピングボードとなってくれることを願っています。

前祝いというわけではないでしょうが、イクイノックスの父キタサンブラックの来季種付け料が、倍増の2000万円と日本一に到達したと社台スタリオンステーションから発表されました。ディープインパクト4000万円には及ばないのですが、次代チャンピオンの門出を祝う志が伝わります。こうした景気良い話題は日本にとどまらず、世界各地で来季へ向けてのストーブリーグの炎が燃え上がっています。ヨーロッパでは、フランケルが35万ポンド≒6500万円と王者ドバウィに並ぶ欧州チャンピオンサイアーに上り詰めました。現時点で世界一の種付料です。競走馬フランケル同様に種牡馬フランケルの競馬場も距離も問わない怪物ぶりは傑出しており、世界一の評価も当然だろうと思わせます。このポジティブな状況は生産界全体にも反映されているように、アメリカでは4年連続リーディングサイアーのイントゥミスチーフ25万ドル≒3700万円に、カーリンとガンランナーが並びかけ、ヨーロッパでG1馬を続出させたジャスティファイが倍増20万ドル≒3000万円と戦国時代の到来を思わせる群雄割拠ぶりです。こうした血統面からも今年のジャパンカップは目が離せません。ドゥラメンテの早逝は残念ですが、キタサンブラックの飛翔、更にそれを追う昇竜たちの乱舞を期待するばかりです。

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