海外だより

サイアーラインで考える

師走の声を聞くと「流行語大賞」の季節だなぁと、慌ただしく1年を振り返ってみたりします。今年、記憶に残った言葉のひとつに、ディープインパクトが遺した全世界でたった12頭のラストクロップの中から、オーギュストロダンが英ダービーを勝利したとき、その手綱を執ったライアン・ムーア騎手の敬意がこもった賞賛の言葉があります。当代の頂点に君臨する名ジョッキーは、「素晴らしいサイアーラインです」とロダン一頭にとどまらず、連綿と血を繋いできた一族すべてを賞賛しました。サンデーサイレンスが日本の地を踏んでから、ディープインパクトを輩出し、オーギュストロダンを生み出した血の軌跡に思いを馳せる奥の深い言葉です。歴史の長い競馬発祥の地らしい発想だと感心しました。ライアンとエイダン・オブライエン調教師の二人三脚は、春のダービー制覇から秋のセントレジャーに舞台を移しても、コンティニュアスというハーツクライ産駒に、同じような発想で、同じように鍛え育てて難関に挑ませて、同じように世界最古のクラシックの頂きに上り詰めています。改めて競馬の奥の深さを思い知らされました。

師走といえば中山競馬場の賑わいが懐かしい季節でもあり、そのクライマックス・有馬記念は師走の風物詩として日本を代表する風景のひとつとなっています。〝世界最強馬〟イクイノックスが引退して姿が見られないのは残念ですが、ライアン風に考えれば長い歴史の流れを思えば〝素晴らしい決断〟になるのではないでしょうか。同じクラブに所属する名牝アーモンドアイとの配合を期待する声が高まっているようですが、そうした直近のトピックスだけではなく何十年もに渡って夢を見させてくれそうです。

アーモンドアイとの配合では、サンデーサイレンス4x3の〝奇跡の血量〟を持つクロスが発生します。サイアーラインの集大成と言っても良いのですが、楽しみはまだ続きます。目下の現役馬を含めて一大勢力を誇るディープインパクト牝馬の存在も忘れられません。彼女たちとの間には、ブラックタイドとディープインパクトとの全兄弟クロスが成立します。有名なところではサドラーズウェルズとフェアリーキング、トライマイベストとエルグランセニョールなどノーザンダンサー系、またリボー系からグロースタークとヒズマジェスティなどの全兄弟クロスが、現役サラブレッドの血統表に頻繁に見ることができます。クロスの功罪は別の機会に考察するとして、競馬というブラッドスポーツの成熟の度合いを示す指標なのは確かです。イクイノックスには、〝血の飽和〟を避ける意味でもサンデーサイレンス系以外の牝馬とドンドン配合してもらいたいのですが、一部でサイアーラインの歴史を辿るような配合に接したい気持ちもあります。いずれにせよ、長くて10数年単位の産駒だけで終わらず、30年、50年、願わくば100年と長いスパンで競馬を楽しませてもらいたいものです。

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