海外だより

国際レースの成功法

今週は、今年最後のJRAによる「海外馬券レース」、師走の風物詩としてすっかり定着した香港国際競走が行われます。1200m、1600m、2000m、2400m、国際的に広く認知されている「基幹距離」におけるチャンピオン決定戦という分かりやすい設定です。賞金の高額さも創設以来の伝統で、各レースで少しづつ格差がありますが、最高賞金のG1香港カップ(2000m)は、日本円で総賞金約6億8000万円・1着賞金約3億8000万円、もっとも安いG1香港ヴァーズ(2400m)でも総賞金が約4億500万円、1着は約2億5000万円と世界トップクラスのレベルを譲りません。このようにレース体系の分かりやすさ、賞金システムの潤沢さが国際レースを成功させる重要なカギなのかもしれません。

香港は、もともとイギリス領であった歴史的経緯が競馬発展の推進エンジンとなり、古くから競走馬自体はもちろん調教師や騎手などの人的交流も盛んな土地柄でした。国外という意識はあまりなく、ちょっと遠い地方に出かける気楽さで香港の地を訪れたのでしょう。同時に〝馬産なき競馬大国〟である香港は、オーストラリアやアイルランドを中心にフランスなどからも夥しい頭数のサラブレッドを購買する輸入大国としても有名です。これらの国々とも人馬の往来が生まれています。例えばアイルランドの名門エイダン・オブライエン厩舎は、最近も2400m級を軸にG1を3勝しているガリレオ産駒のロシアンエンペラーなどを送り込んでおり、クラシック路線が中心で3歳いっぱいで厩舎を離れることがほとんどの所属馬の〝第2の競走馬生活〟の場として香港を大事にしているようです。今回もカップのルクセンブルク、ヴァーズのウォームハートなどG1の勲章を輝かせる選りすぐりの一流馬を遠征させています。

それに加えて、〝招く〟ことばかりに留まらず、〝遠征〟にも熱を入れるようになっています。今秋は若き頭領ロマンティックウォリアーをオーストラリアに送り込み、世界のトップレベルに位置し知名度と賞金も高いG1コックスプレートを撃破しています。

分かりやすさや賞金の高額さ以外にも、国際レースの成功には様々な要件を満たさなければならないのですが、〝来てもらう〟ばかりではなく、〝出かける〟ことも欠かせないようです。双方の門戸を開いて初めて、自由で進取の精神にあふれる開放性=国際性を認められるのかもしれません。これらのチャレンジは日本競馬界も香港以上に精力的かつ持続的に取り組んで来ました。しかし内側から眺めている所為(せい)もあるのか、インパクトは今一つに感じられます。やはりブリーダーズカップに確かな蹄跡を残しても、ジャパンカップに外国馬の姿が闇夜に星を求めるような状況が続いては心細くなります。イクイノックス級の名馬が〝世界に出て行く〟〝世界を迎え撃つ〟という構造を誰の目にも分かりやすく詳(つまび)らかにしないと、各国を代表する名馬・強豪たちが日本の競馬場を駆ける光景は見られないのでしょうか。

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