海外だより
ブリーダーズカップはじまる!
〝競馬の世界選手権〟とも言うべき「ブリーダーズカップ(BC)」が開幕します。カレンダーの上では、11月1日の金曜日に第1日目の2歳馬を対象とするフューチャー(未来)プログラムが行われますが、時差の関係で日本時間では土曜の朝方のスタートになります。今年は海外からの遠征馬80頭を含めて212頭がスタンバイ、2日間で14レースが編成されています。海外馬80頭は、史上最高だった、昨年の60頭を大幅に上回る新記録だそうです。このところ急速に競馬の国際化が活発化している印象があります。騎手や厩舎関係者などの国境を超えた移動が厳しく制約されていたコロナ禍が一段落したことも大きいのでしょうが、より高いレベルのレースを通じて自己価値の象徴ともなるレーティングを高めたり、高額賞金を得たりするためには、国や地域にこだわらない選択肢が求められるからでしょう。欧米のトレーナーやレーシングマネージャーの仕事ぶりを見ていると、さまざまな選択肢を可能な限り広く求めて、あらゆる情報を集めに集め、深く分析と検証を重ね、そこから最適解を発見することだと思えるほどです。日本において海外遠征の先駆者といえる藤沢和雄師や森秀行師などの営みにも、それはうかがえます。
今回、日本調教馬は19頭が海を渡り、11のレースにエントリーしました。ヨーロッパから大所帯を移動させたクールモア専属のエイダン・オブライエン厩舎、チャーリー・アップルビー厩舎を中心とするゴドルフィンにも劣らない質量を誇っています。中でも〝チャンピオンの中のチャンピオン〟を決定する〝選手権中の選手権=BCクラシック〟は、日本馬フォーエバーヤングをはじめ下馬評トップスリーの〝日米愛対決〟となり、早くから熱い注目を浴びています。地元アメリカのエースは、最重要前哨戦G1トラヴァーズSを勝ち上がって来たフィアースネス(父ゴーンウェスト系シティオブライト)でしょうか。いかにもアメリカンなスピード馬でスンナリ逃がすと滅法強い馬です。ただ春までは、フロリダダービーで13馬身半ちぎるド派手な圧勝劇を演じたかと思えば、ケンタッキーダービーではハナを切れないまま直線で失速、ズルズルと25馬身以上もドカ負けしました。逃げ馬にありがちな強さと脆さが同居するムラなタイプのようです。今回は1枠のフォーエバーヤング、3枠のシティオブトロイと比べれば外枠から落ち着いて競馬でき、キックバックや馬群に揉まれ込む不安がないのは強調材料でしょうか。レースのポイントはデルマー競馬場の特徴といわれるキックバックの影響度合いだと言われています。デルマーの実戦経験が豊富なカナダのリーディングジョッキー・木村和士騎手が指摘するように、ダート競馬特有のキックバックが厳しいことで有名なコースで、内枠で先行できないと砂粒、土塊(つちくれ)の嵐のような洗礼を受けることになります。その点、1枠を引いたフォーエバーヤング、3枠のシティオブトロイには不安材料です。「砂を被る暇もないスピードがある」と本来の先行策を匂わせるライアン・ムーア騎乗のシティオブライトは、ダート経験がないのだけが残る不安材料でしょうか。前に馬を置いてレースを運ぶフォーエバーヤングは、坂井瑠星騎手の手綱さばきがカギを握りそうです。不安材料ではありますが、逆に大きな楽しみでもありそうです。
話が前後しますが、シティオブトロイのエイダン・オブライエン調教師は、遡ること四半世紀、20世紀最後のBCクラシックに秘蔵っ子ジャイアンツコーズウェイを送り込んでいます。当時G1・5連勝のヨーロッパ記録を打ち立てた快速馬で、地元馬ティズナウとチャーチルダウンズの直線をビッシリ叩き合いクビ差で無念の涙を呑みました。その翌年には21世紀競馬の扉を押し開けた超名馬ガリレオを、凱旋門賞ではなくBCクラシックに投入します。今回のシティオブトロイも同じようなローテーションですが、芝もダートも世界最高峰と名の付くものは、すべて制覇するというオブライエン師の積年の覚悟が伝わります。血統馬、素質馬が雲を成すクールモア軍団を統括するオブライエン師が「氷の上でも一番早く走れる」と評したガリレオのBCクラシックですが、ベルモント競馬場の4コーナー手前で前を走るティズナウについて行けなくなり着外6着に沈みます。今から思えば芝もダートも氷上も世界一速いガリレオも本調子を欠いていたのでしょう。その名馬を置き去りにしてティズナウは、前走で凱旋門賞を6馬身差で圧勝して来たゴドルフィン所有のサキーをハナ抑え込んで史上唯一の連覇を達成します。ヨーロッパの超名門軍団が鍛え上げた歴史的強豪2頭を完封しての連覇、この価値は大きいですね。〝世界選手権〟の名に恥じない重みがあります。ティズナウの勝負強さも一級品です。ジャイアンツコーズウェイは、父ストームキャットから受け継いだ仕上がり早く・芝ダートを問わず能力を全開させ・大一番に滅法強い血をしっかり伝え、北米リーディングサイアーに3度も輝きました。日本へは芝で無敵を誇った年度代表馬ブリックスアンドモルタルを送り込み、ヨーロッパではシャマルダルを通じてロペデヴェガへとチャンピオン輩出のサイアーラインを広げています。〝選手権メダル〟の輝きを改めて認識させられます。あれから四半世紀、〝日米愛対決〟がどんな未来を生み出すのか?目が離せない想いが沸き起こってきます。
今回、日本調教馬は19頭が海を渡り、11のレースにエントリーしました。ヨーロッパから大所帯を移動させたクールモア専属のエイダン・オブライエン厩舎、チャーリー・アップルビー厩舎を中心とするゴドルフィンにも劣らない質量を誇っています。中でも〝チャンピオンの中のチャンピオン〟を決定する〝選手権中の選手権=BCクラシック〟は、日本馬フォーエバーヤングをはじめ下馬評トップスリーの〝日米愛対決〟となり、早くから熱い注目を浴びています。地元アメリカのエースは、最重要前哨戦G1トラヴァーズSを勝ち上がって来たフィアースネス(父ゴーンウェスト系シティオブライト)でしょうか。いかにもアメリカンなスピード馬でスンナリ逃がすと滅法強い馬です。ただ春までは、フロリダダービーで13馬身半ちぎるド派手な圧勝劇を演じたかと思えば、ケンタッキーダービーではハナを切れないまま直線で失速、ズルズルと25馬身以上もドカ負けしました。逃げ馬にありがちな強さと脆さが同居するムラなタイプのようです。今回は1枠のフォーエバーヤング、3枠のシティオブトロイと比べれば外枠から落ち着いて競馬でき、キックバックや馬群に揉まれ込む不安がないのは強調材料でしょうか。レースのポイントはデルマー競馬場の特徴といわれるキックバックの影響度合いだと言われています。デルマーの実戦経験が豊富なカナダのリーディングジョッキー・木村和士騎手が指摘するように、ダート競馬特有のキックバックが厳しいことで有名なコースで、内枠で先行できないと砂粒、土塊(つちくれ)の嵐のような洗礼を受けることになります。その点、1枠を引いたフォーエバーヤング、3枠のシティオブトロイには不安材料です。「砂を被る暇もないスピードがある」と本来の先行策を匂わせるライアン・ムーア騎乗のシティオブライトは、ダート経験がないのだけが残る不安材料でしょうか。前に馬を置いてレースを運ぶフォーエバーヤングは、坂井瑠星騎手の手綱さばきがカギを握りそうです。不安材料ではありますが、逆に大きな楽しみでもありそうです。
話が前後しますが、シティオブトロイのエイダン・オブライエン調教師は、遡ること四半世紀、20世紀最後のBCクラシックに秘蔵っ子ジャイアンツコーズウェイを送り込んでいます。当時G1・5連勝のヨーロッパ記録を打ち立てた快速馬で、地元馬ティズナウとチャーチルダウンズの直線をビッシリ叩き合いクビ差で無念の涙を呑みました。その翌年には21世紀競馬の扉を押し開けた超名馬ガリレオを、凱旋門賞ではなくBCクラシックに投入します。今回のシティオブトロイも同じようなローテーションですが、芝もダートも世界最高峰と名の付くものは、すべて制覇するというオブライエン師の積年の覚悟が伝わります。血統馬、素質馬が雲を成すクールモア軍団を統括するオブライエン師が「氷の上でも一番早く走れる」と評したガリレオのBCクラシックですが、ベルモント競馬場の4コーナー手前で前を走るティズナウについて行けなくなり着外6着に沈みます。今から思えば芝もダートも氷上も世界一速いガリレオも本調子を欠いていたのでしょう。その名馬を置き去りにしてティズナウは、前走で凱旋門賞を6馬身差で圧勝して来たゴドルフィン所有のサキーをハナ抑え込んで史上唯一の連覇を達成します。ヨーロッパの超名門軍団が鍛え上げた歴史的強豪2頭を完封しての連覇、この価値は大きいですね。〝世界選手権〟の名に恥じない重みがあります。ティズナウの勝負強さも一級品です。ジャイアンツコーズウェイは、父ストームキャットから受け継いだ仕上がり早く・芝ダートを問わず能力を全開させ・大一番に滅法強い血をしっかり伝え、北米リーディングサイアーに3度も輝きました。日本へは芝で無敵を誇った年度代表馬ブリックスアンドモルタルを送り込み、ヨーロッパではシャマルダルを通じてロペデヴェガへとチャンピオン輩出のサイアーラインを広げています。〝選手権メダル〟の輝きを改めて認識させられます。あれから四半世紀、〝日米愛対決〟がどんな未来を生み出すのか?目が離せない想いが沸き起こってきます。