海外だより

凱旋門賞前夜

今年は3歳馬に高い前評判が集まっているようです。そもそも出走18頭のうち、ちょうど半分の9頭が3歳というメンバー構成です。ブックメーカー各社のオッズを眺めても、日本調教馬代表シンエンペラーを含めて上位にランクされているのは3歳馬のオンパレード。たとえば大手のウィリアムヒル社の場合、古馬はやっと6番目に武豊さんが騎乗する4歳馬アルリファーが登場するといった案配です。この世代は、コロナの世界的なパンデミックが蔓延した時代に生まれています。人々が集まって興奮や感動を分かち合うエンタテインメントやスポーツは大きな影響を受け、競馬も例外ではありませんでした。欧米では歴史あるクラシックレースが延期されたり、不幸にも中止の憂き目に見舞われた伝統のビッグレースもありました。そうでなくても人馬の移動が厳しく制限されて、レース成立にも一苦労も二苦労もさせられたものです。日本では幸いにも無観客競馬でパンデミックの嵐を凌ぎ切ることができたのですが、もうあんな時代は御免ですね。

今年の凱旋門賞は、パンデミック後世代の一番手である今年の3歳馬が、どれほど順調に成長してきたかを試す試金石なのかもしれません。そのトレンドが〝3歳馬優位〟だとしたら、レースの傾向としては〝成長力勝負〟ということになりそうです。まだ見ぬ能力を開花させる馬が出現するかも?というシナリオです。そこで気になるのは、トライアル仕様の前走時からの順調な状態アップが伝えられ、1番人気の座に帰り咲いたルックドゥヴェガでしょうか?果たして2400mの距離適性を本番の舞台で見事に花開かせることができるのか?その不敗だった天才馬を倒したトライアルのニエル賞で強いレースをしたソジーも、走るたびに賢くなっていくメンタル面の充実が手に取るように伝わります。逆にフィジカル面で不気味なのがニエル賞でソジーの2着に続いたデリウスでしょうか?デビュー直後から2400m戦を選んで使われ、パワー勝負になればなるほど威力を増しそうな末脚は脅威です。クールモアのロスアンゼルスも想像を超えるようなスタミナを秘めていそうです。ライアン・ムーア騎手の天下無双の剛腕が唸りを上げそうです。

成長力を問うなら、愛チャンピオンS3着からの大きな上積みが期待できそうなシンエンペラーをイの一番に挙げねばならないかもしれません。チャンピオンSのゴール前は、それほど価値のあるものでした。ここを境に我々は彼を見る目を一変させないといけないでしょう。しかし一方では彼が歩んでいるプロセスからは、〝2年越しの〟長期シナリオの覚悟が漂ってくるような気もします。シンエンペラーが本当に完成するのは、来年の今頃かも?矢作芳人先生や坂井瑠星さんは、そこまで腹を括って、この馬と向き合っているのではないでしょうか。そんな絵を描けるのも平穏なパンデミック後の世界だからこそでしょう。今年であれば嬉しいし、仮に〝2年越し〟となっても凱旋門賞が、次の時代の扉を押し開くものになるよう祈りたいものです。

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