海外だより

風立ちぬ

パリオリンピックの熱戦をご覧になりながら、連日連夜の猛暑日や熱帯夜に苦しめられる日本に比べれば、向こうは日や時間によっては随分と過ごし易いんだと羨ましくお感じだったかもしれません。そろそろ秋風の気配が立ちはじめ、競馬の季節が再び戻ってきます。昨日のフランスは、ドーヴィル競馬場でG2ギヨームドルナーノ賞が行われました。6月初旬の仏ダービーから、短い夏休みで充電を終えた3歳サラブレッドが凱旋門賞など大目標に向かって一歩を踏み出すレースです。格付け自体はG2なのですが、出走条件は3歳限定で、距離2000mとダービーの2100mに近く、負担重量が定量と公平な設定で、1着賞金も4000万円弱とヨーロッパにしては高額ですから、現地では〝G1昇格に一番近いレース〟と高い評価を受けています。

リーディングトレーナー30回、凱旋門賞8勝など〝神実績〟を積み上げて、フランスを代表する名伯楽と崇められるアンドレ・ファーブル調教師が、ギヨームドルナーノ賞に対しては早くからG1レースと同等の関心と尊敬を払ってお墨付きを与えたことから、ますますその価値を高めて来たとも伝えられます。とりわけ近年は、ここをステップに英愛チャンピオンSを連勝して2000mチャンピオンに君臨したアルマンゾル、世界一の超高額賞金を誇るダートのサウジC・芝のドバイシーマクラシックを連勝したミシェリフなど〝超大物〟を続々と輩出、昨年は遂に不敗の6戦6勝で凱旋門賞の頂点を極めたエースインパクトが出現しています。ケチの付けようがない実績を、これだけ重ねてくると、もはや〝スーパーG2〟といった尊称では役不足で、〝限りなくG1に近い〟あるいは〝もはやG1そのもの〟といった重厚な存在感を放っていると公認して良いのではないでしょうか。

距離・斤量・賞金など行き届いた好条件は、海外からの遠征馬にとっても魅力たっぷりでしょう。ミシェリフもそうでしたが、今年は英国調教馬の1-2-3という結果でした。ここに日本調教馬が割って入るのも、さほど荒唐無稽には感じられない昨今です。凱旋門賞に出走予定の遠征馬は、春先から現地に乗り込んで実戦を積み重ねたエルコンドルパサーを例外とすれば、多くはニエル賞やフォア賞などのトライアルを一叩きするか、渡欧前に宝塚記念もしくは札幌記念あたりを使われるのが一般的でした。しかし近年の日本の夏の異常気象や交通手段全般の発達などを考えると、涼しいヨーロッパでの臨戦過程も一考するべき時期ではないでしょうか。海外のレースであっても、日本馬出走なら馬券発売がツイて来るのが当たり前のご時世ですから、ファンサイドに異存はありません。今年はドゥレッツァが出走する来週イギリス・ヨーク競馬場で行われるG1インターナショナルS、月が替わるとはシンエンペラーがゲートインを予定しているアイルランド・レパーズタウン競馬場のG1愛チャンピオンSが注目されています。いずれギヨームドルナーノ賞にも日本調教馬がエントリーする日が来るんでしょうね。ドーヴィル競馬場は、26年前にシーキングザパールがG1モーリスドゲスト賞を日本調教馬として初めて欧米G1に優勝し、その翌週にはタイキシャトルがG1ジャックルマロワ賞を制覇した〝聖地〟です。この歴史的な偉業を継承し、頂点を極めるためにもギヨームドルナーノ賞はお誂え向きのように似合います。海外事情によほど精通したプロ中のプロであるホースマンでなければ、その存在も名前も知らなった海外のレースが、森秀行調教師や藤沢和雄調教師など先達のたゆみない研鑽努力で開かれて来た道を、さらに広げていきたいものです。その先には、世界中の競馬が一つのものとして再編成されていく姿が目に浮かぶようです。

×