海外だより

レース選択の多様化

先週のドバイワールドCの圧勝劇で世界を驚かせたローレルリバー。玉砕覚悟の逃走劇で、あの強いウシュバテソーロが9馬身もちぎられるシーンを想像できたファンはいなかったと思います。ところが彼は、ご存じのようにワールドCデー直前までは、持ち前のスピードをフルに生かせるワンターンコースでのマイル戦・G2ゴドルフィンマイルに出走する心づもりでいたようです。なぜなら前走のサウジC3着で評価を上げ、ワールドCでも有力馬の一角と見られていたサウジクラウンのブラッド・コックス調教師は、確勝を期してゴドルフィンマイルへの登録を決断したからです。これを受けて慌てたのが、地元UAEに拠点を構えるブパット・シーマー調教師でした。マイルのスピード勝負では、ローレルリバーはサウジクラウンのポテンシャルにとても及ばないと考えたからです。なら同タイプのサウジクラウンがいなくなったワールドCで大逃げをかますしかない、そんな風に腹を決めてゲートに向かったようです。

格も飛び抜けていればスピードも段違い、当然のように圧倒的な1番人気に祭り上げられたサウジクラウンでしたが、結果は13頭立ての12着ブービーに大敗します。いつも思うのですが、競馬はやってみないと分からないものです。この世界中の競馬場に共通の〝金言〟は、メイダンでも生きていました。総賞金100万ドル≒1億5000万円のゴドルフィンマイルで起きたと同じことが、総賞金1200万ドル≒18億円のワールドCでも勃発したからです。これらは、たぶん競馬の多様化がもたらしたドラマなのでしょう。

サラブレッドの能力が磨き抜かれ、レースのレベルが向上し、競馬の質そのものが繊細を極めてくるようになると、レース選択はますます多様化し、複雑化する馬の適性の重要性が増幅され、深い思慮と大きな勇気による意思決定を求められるようになります。ホースマンの役割は、ますますウェイトを増し、競馬の成長と発展に欠かせぬものになっていくのでしょう。大変な時代ですが、競馬がさらに面白いものになっていくのは確かだろうと思います。

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