海外だより

多様化と統一化と

ヨーロッパの一流馬は、新シーズンが盛り上がるロイヤルアスコットあたりを目標に、焦らず準備を重ねるのが春先のルーティンでした。ところが近年は馬場整備技術の進歩が日進月歩で、各地に気候風土に適合するAW(オールウェザー)馬場が実用化されるようになり、春競馬のスタートがかなり前倒しされるようになっています。例えば2015年シーズンのことですが、フランス近年屈指の名マイラー・ソロウが、そんなローテーションを自分のものにしていました。彼は春先、吹く風もまだ冷たいシャンティイのAWコースで一叩きしてドバイに向かい、ドバイターフを皮切りにヨーロッパ各国の頂上G1を次々と踏破し、G1・5連勝を含めて10連勝まで記録を伸ばしました。直近ではイギリスのロードノースが、シーズン明けをAWコースに求め、そこから中東ドバイへ向かい、一昨年の日本馬パンサラッサとの劇的な同着優勝を含めてドバイターフ3連覇中の大記録を更新中です。今年もAWを一叩きして、永遠不滅の4連覇にチャレンジします。今年のドバイターフは、ドウデュースなど例年以上に強敵揃いですが、ゴール前の熾烈な攻防を突き抜けてくるのは、どの馬でしょうか?

イギリスでもフランスでも、AWコースの活用による競馬開催に熱心に取り組まれています。昨年の凱旋門賞馬エースインパクトも、1月末のAW戦でデビューして、仏ダービーなどを経て凱旋門賞の高みにたどり着いています。サウジアラビアやドバイなどの前哨戦というだけではなく、クラシックに結びつく道の一つとして公に認知されるようになっています。今月初めのシャンティイのAWコースで明け3歳デビュー戦が行われ、キズナ産駒の牝馬ズナが初陣に挑みました。フランスを代表する大オーナーブリーダーとして高名なヴェルテメール兄弟家の生産馬です。同家は自家牝馬を日本に送り込んでディープインパクトとの配合も試みていますが、サンデーサイレンス健在時代から〝東洋の名血〟とのアウトブリード実験を重ねています。

結局、最終的には競馬は一つになるのだろうと思います。芝もダートもなく、競馬はその強さと速さを比べる競技として磨き上げられていくのでしょう。昨年はドバイワールドカップを制覇したウシュバテソーロと、JRAで2つしかないG1を独り占めしたレモンポップのどちらが「最優秀ダートホース」に選ばれるかファンをヤキモキさせました。
アメリカでは逆に「芝チャンピオン」の顕彰枠が設けられていますが、これも過去のものとなるのでしょうね。ズナは順調なら仏オークスを目指すということで、AWもダートも芝もなく、強い馬が適性のあるレースを選んで目標に突き進む時代になっているようです。様々な個性が自己主張する多様化と、本来あるべき姿に向かう統一化が同時に進行している、かじ取りの難しい時代なのでしょうか?

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