海外だより

ジャイアント・キラーの時代

イクイノックスが〝世界No.1ホース〟に君臨してからというもの、日本調教馬の快進撃が止まりません。日本馬といえば芝中距離に強い優位性を認められていましたが、いつの間か、気がつけばダート界でも王国アメリカの足元を脅かす存在にまでのし上がってきました。しかし王座が永遠不滅でないように、〝日本の時代〟が輝き続ける保証はどこにもありません。最近でもお隣の香港では、一時代を築き上げたヒーローたちが、無名の上がり馬に倒されて世代交代を迫られる〝ジャイアント・キリング(大物喰い)〟ドラマが相次いでいます。時代は思いもかけない急流となって移り変わっているようです。

もともと香港スプリント界は世界トップレベルの一角を占め、日本のそれより一枚上というのが定説でした。現在の香港スプリント界は、昨年末のG1香港スプリントでジャスパークローネ7着、マッドクール8着など遠征した日の丸スプリンターを子供扱いしたスケールの大きな競馬が強烈な印象に残るラッキースワイネスが断然の王者に君臨していました。ところが年が変われば馬も変わるものなのか?年明けのG1第1弾となった「センテナリースプリントカップ」では、その王者が馬群に沈む大波乱が巻き起こりました。ビックリ仰天のジャイアント・キラーは、ビクターザウィナーという重賞未勝利馬でしたから、余計にインパクトを増幅させてファンを驚かせたようです。

〝短距離王国〟として世界に知られるオーストラリア生まれで、イギリスのマイル最高峰サセックスSなどを勝ったトロナードの血を引くスピード馬です。香港に移籍後、ここまではラッキースワイネスやG1を4勝の安定株ウェリントンが健在で、出番らしい出番がなかったというのが実情ですが、G1のペースや駆け引きに慣れるに従い本来のポテンシャルを発揮する下地が形づくられていたようです。ポテンシャルといえば、ビクターザウィナーの〝本領〟は「左回り」に秘められているというのが、シャム調教師の偽らざる見立てです。「この馬は天性のサウスポーかも。左回りの高松宮記念に挑戦できる日が来るのを待っていたんだ!」と声を弾ませます。〝名伯楽〟という稀有な存在は、芝馬パンサラッサにダートの世界最高賞金レース・サウジカップを逃げ切らせた矢作芳人調教師のように、見方によっては〝奇想天外〟な発想をすることもあるようです。日本人ファンも含めて世界の眼が、中東ドバイに集まっているその日に、中京競馬場で思いがけないドラマが語られるかもしれません。

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