海外だより

世界の競馬史に名を刻んだ1年

中山競馬場の最終レース後が毎週のように盛り上がっています。〝世界最強馬〟イクイノックスに始まって、〝希代の快速であり最高の名バイプレーヤー〟パンサラッサこそ体調を慮(おもんばか)って正月明けに延期になりましたが、〝早逝の名種牡馬ドゥラメンテの血を繋ぐ〟タイトルホルダー、そして調教師転向が決まった〝ミスター陽気〟田中勝春騎手まで、名馬・名人たちの引退式が続いているからです。中国4000年の知恵を伝える故事に「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」という有名な言葉があります。虎はその死後に価値の高い美しい毛皮となって人々を感動させるが、人間は重い価値として人々の心に残り、その名を永く伝えられるようになる、短く言えば、そんな趣きでしょうか。名馬・名人たちの引退式の場合、死ぬわけではなく、むしろ〝第2のライフワーク〟への出発式という心映えが強いのですが、そういう意味でも素晴らしい引退式ばかりでした。とくにイクイノックスには、ノーザンファーム代表の吉田勝己さんから名牝アーモンドアイとの〝夢の配合〟を約束する言葉が贈られ、陽が落ち寒風が吹き抜ける競馬場に居残った大観衆を、大喜びさせ熱く興奮させてくれました。

〝世界最高〟129ポンドのレーティングは〝むしろ低すぎる〟とする声も海外に多いほど世界中のホースマンがこぞって〝最強〟を認めるイクイノックスを筆頭に、〝ダート最高峰の一角〟ドバイワールドカップを遂に制覇したウシュバテソーロ、もう一つの世界最高峰ブリーダーズカップ・クラシックで2着ともう一歩まで詰め寄ったデルマソトガケなど、かつての〝ダート低国〟の屈辱を吹き飛ばす奮闘に身も心も震わせられました。世界の競馬史に名を確かに刻んだ1年でした。コロナ禍の影響も徐々に薄れて、まだ部分的な入場規制は残っていますが、競馬場に観客が戻ってきました。ジャパンカップの8万5000人余、キャパの小さい有馬記念でも5万3000余人と黒山のファンは、久々にG1デーの醍醐味を味わせてくれました。競馬が楽しく、素晴らしい1年だったと思います。

しかし課題もたくさん残っています。暮れの香港国際競走で短距離レースで地元勢に完膚なきまでに叩きのめされ、世界との距離はまだまだ遥か彼方と思わせました。3000mを超すマラソンカテゴリーでもデルタブルースのメルボルンカップ以来ワールドステージでの活躍から遠ざかっています。この秋にはダイワメジャーのフランス調教馬が3000mのG1ロワイヤルオーク賞を勝っています。サンデーサイレンス系を中心とした日本血統が、〝中距離専用〟という話ではないでしょう。まだトライすべき課題はたくさんあるようです。今年の素晴らしすぎる成果に慢心せず、来年はもっと面白く・もっと素敵な競馬が見たいというのが〝初夢〟ですね。

それでは皆様、どうぞよいお年を。

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