海外だより

クラシックの胎動

英愛仏3ヶ国のヨーロッパ競馬圏は、もう今シーズンの大詰めを迎えています。アイルランドは9月中旬のアイリッシュ・チャンピオンズデー、フランスは10月初旬の凱旋門賞ウィークエンド、そしてイギリスは先週のブリテッシュ・チャンピオンズデーにおいて、各カテゴリー毎のチャンピオン決定戦を行うと、その舞台や登場キャラクターごと平地シーズンから障害シーズンへと、そっくり風景を変えていきます。この舞台のドンデン返しの幕間に、ファンの話題はもっぱら来春のクラシックを目指す若駒たちの品定めに盛り上がります。ご承知のように、ヨーロッパ圏における2歳G1は、アイルランドが3レース、フランスが5レース、イギリスでは6レースが組まれています。今週末は、そのフィナーレを飾るフューチュリティトロフィーがドンカスターで行われます。日本とは縁の深いレースです。かつてサクソンウォリアーがここをステップに2000ギニー制覇へと大きく羽ばたき、昨年のオーギュストロダンが遂に日本発血統を英ダービーの頂点まで押し上げました。いずれもディープインパクト産駒でした。ヨーロッパの伝統と品格に彩られたクラシックレースが、遥か遠い日本のホースマンやファンにとって夢の世界ではなくなってきました。そんな身近さを感じながら、今年のヨーロッパ2歳戦線を振り返り、ちょっぴり来季クラシックを覗いてみたいと思います。

毎年のことなのですが、アイルランドの名門エイダン・オブライエン厩舎のスタートダッシュぶりは、鮮やかの一言です。クールモアという大組織をバックに、発信する情報の質量ともに圧倒的なレベルにあることが後押ししているのでしょうが、そうなればマスコミへの登場頻度も高くなり、話題は自然とオブライエン勢一色に染まることになります。オブライエン師は馬のことで決してネガティブにならない人で、相棒の主戦騎手ライアン・ムーアの朴訥で誠実なコメントが親しみやすさや信頼性を増しています。クールモアやバリードイル(厩舎の代名詞ともなっている調教拠点)は組織名ではなく、既にキャラクターと化しているようです。今年のバリードイルは例年にも増して、スター揃いの華やかなラインナップを実現しました。偉大なガリレオ亡き後、後継サイアーの座は混沌としていたのですが、期待の大きかった米三冠馬ジャスティファイが、遂に2世代目から牡牝ともに大物候補を出現させました。まず最初に牝馬のオペラシンガーが凱旋門賞デーのG1マルセルブサック賞を5馬身ぶっちぎってスターダムに乗ると、ニューマーケットの2歳最高峰G1のデューハーストSではシティオブトロイがライバルを寄せ付けないスピードを披露、ケタ違いの瞬発力と力強いストライドが無限に広がる可能性を感じさせてくれました。来春クラシックを占うブックメーカーオッズは、ともに飛び抜けた1番人気をジャスティファイの牡牝馬の指定席にしています。この劇的な超大物急浮上ドラマで、父ジャスティファイの種付料は今季10万ドルから来季20万ドルへと倍増、世界を制圧しようかという勢いを迸(ほと)ばしらせています。

さらにバリードイルは第2、第3の矢も強力です。アイルランドの頂上G1であるナショナルSを3連勝と無傷のまま楽勝したヘンリーロングフェローは、母が年度代表馬に輝いたマインディングという超良血馬。日本で言えば、ジェンティルドンナやアーモンドアイ級の名牝の御曹子ですね。この仔とシティオブトロイが、いつどこで対戦するのか、ムーアはどちらに乗るのか、今から話題が尽きません。見逃せない一番になりそうです。この他、フランスのG1クリテリウムドサンクルー2000mでは、英二冠馬キャメロット産駒のロサンゼルスがクリストフ・スミヨン騎乗で勝っています。この仔も近親にガリレオ、シーザスターズを近親に仰ぐ良血です。また今週末の厩舎ゆかりの出世レース・フューチュリティトロフィーには、シティオブトロイ、ヘンリーロングフェローとバリードイル〝三傑〟を成す大物ディエゴヴェラスケスが登場します。ガリレオ後継のトップランナーと万人が認めるフランケルの血ですね。春秋に富んだ若きサラブレッドの成長ストーリーにも興味尽きないのですが、種牡馬世界チャンピオンであり続けたガリレオのベルトを誰が巻くのかも、ぜひお見逃しなく。話題満載の来シーズンが楽しみな今日この頃です。

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